第44話 静かな炎
その速度たるや車よりも遥かに速い。
そんな人間の限界を超えた速度で突っ込んでくる人物を、警戒しないわけがない。門番たちはそれぞれ武器を掲げた。
そして一人の騎士が声を上げる。
「止まれ!」
ほとんど怒声に近い荒々しい声に、RPGは返答する気がないだけではなく、猛スピードを維持したまま剣を構える。
その行動を宣戦布告と捉えたのか、騎士は切っ先をRPGに向け、
「攻撃開始! 続けぇ!」
先頭を切ってRPGへと邁進していく。
その勇敢な戦士を見た兵士たちは
後方には魔法使いらしき者たちが、手を上げていた。
出現した数多の魔方陣から放たれる、超常現象がRPGへと襲い掛かる。
それに対しRPGが行った動作は、たった一振り。
それだけのことで、業火が、氷結が、紫電が、跡形もなく霧散する。
「そんなことが……」
困惑する声がRPGの耳へと届く前に、騎士とRPGの剣が交差した。
剣と剣が交わる。
ただそれだけのことでも、褒め称えられるべきである。
例え、交差した瞬間に吹き飛ばされ、壁を破壊しながら王宮の中へと突っ込んでいったとしても……。
「へぇ、中々やるじゃないか。異世界」
RPGは感心した声を漏らした。
今までの相手にもならない相手とは、一味違うのだと実感したのだろう。
「少しは楽しくなりそうだ」
気分を高揚させるRPGとは違い、兵士たちは言葉を失っていた。しかもそれだけでなく、体中を震えが支配しているようだ。
魔法を一振りで一蹴し、更には恐らくこの場で一番の実力を持った騎士を一瞬で吹き飛ばしたのだから、それも無理のないことだった。
それでも、彼らは王国兵士の端くれだったとしても、選ばれた戦士たちには変わりない。
「うおおおおおおおおおおおお」
全身を支配していたその震えを、声帯へと伝播させる。
一人、また一人と、声は広がっていく。
兵士たちが一斉に踏み込み、RPGへと飛びかかった。
覚悟の決めた視線が、RPGを捉えていた。
しかし、剣を振る瞬間、その姿は視界から外れていた。
「サンライズ・バースト」
兵士たちの背後から聞こえる声が彼らに届くころ、光が地面から滲み出て、爆散。
エネルギーの暴力を全身に受けた兵士は、まるで風に飛ばされた花びらのように宙を舞い、地面へと落下する。
彼らの意識は既に刈り取られており、鎧がボロボロなだけではなく、痛々しい姿へと変貌していた。
前線で戦った兵士の成れの果てを見ていた魔法使いたちは、それでも杖を構えている。
あまりにも強すぎる相手。
勝ち目などありはしない相手。
それでも彼らの目は腐ってはいない。
「この王国を……オレたちの国を守るぞおおおおおおおお」
「おおおおおおおおおおおおおお」
気持ちを奮い立たせ、強敵へと立ち向かう。
しかしそんな熱い気持ちと反比例するかのように、RPGの目は冷めきっていた。
目を細め、剣を掲げる。
「その国ってのは、老人を痛めつけて搾取するような国のこと?」
RPGが放ったへの返答はない。
返答などできはしない。
なんせ、魔法使いたちは既に気を失っている。
ほんの一瞬の出来事だった。
RPGが剣を振り下ろすと同時、彼らは炸裂する光に包まれ、次の瞬間には地面に倒れていた。
意識のない彼らに、RPGは言葉を投げかける。
「君らが守ろうとしているものは、本当に守るべきものだと思っているのかな? 僕はそうは思わない。悪いけど、僕はこの国をぶった切るよ」
RPGは右上に視界を向け、視線を彷徨わせる。
それは何かを考えている行為ではなく、まるで何かを見ているような、そんな動きだ。それは何かはきっと、
「この国の王は、ここか」
地図なのだろう。
ゲームでよく表示されるような、詳細なマップ。
RPGの発言により、道筋だけでなく人物がどこにいるかも把握できるということがわかる。
これだけでもかなり有用な能力だ。
そんな能力を使い、目的の人物を探し出したRPGは、王宮の上部へと切っ先を向ける。
その剣の先に、この国の王がいるのだろう。
「ライトライン」
一本の光の筋が通った瞬間、RPGはその光に乗って目的地へと辿り着いていた。
壁を破壊されたと同時に現れた侵入者に、この国の王であろう人物は目を見開いていた。
綺麗に整えられた、長い長い髭が特徴的な男性。歳は恐らく40前半といったところだ。
そんな王は歪んだ顔に似合わず、背筋をピンと伸ばした、堂々とした立ち振る舞いだった。
ただ、表情だけは冷静を保ててはいなかったが……。
「お前が腐った王か?」
そんな王に向かって、RPGは軽蔑の視線を飛ばす。
その声を聞くなり、ただでさえ歪んでいた王の顔が、見る見るうちに曲がり、やがては怒りの形相へと変化した。
そして、王が怒りを爆発させるべく、口を開こうとした瞬間、轟音が鳴り響いた。
地面が揺れ、天井が、壁が徐々にずれていき、やがては空が見えてくる。
王宮が斬られ、ずれている。
「ひとつだけ言っとく。キレてんのはこっちだから」
その声が飛んでくる先には、静かに怒りの炎を燃やすRPGの姿があった。
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