第43話  王様

 RPGが開けた大穴から脱出すると、ものすごいことになっていた。

 周りの風景としてはただの街中で、後ろには大穴が空いていて、そこは問題ではあるのだろうが、大した問題はない。


 一番おかしなのは目の前にあるのは厳かな椅子だ。

 金色の淵にクッション部分は赤い、ロココ調のデザインの高級な椅子。

 そんな椅子が街のど真ん中にあるのはおかしさ極まっているとしか言いようがない。

 そんな場違いな椅子に、堂々と座っているのは相崎あいざきだった。


 相崎は美女を沢山侍らせ、その他大勢の人物たちはひざまずいている。


「わっはっはっはー! 苦しゅうない! 苦しゅうないぞよー」


 相崎は高らかに笑い、美女の持つ飲み物に口を付ける。


「うます」


 そして満足気に頷いていた。


「何してんのお前」


「よくぞ、聞いてくれたな。勇者よ」


 勇者ってオレのことか?


「儂は今、何に座っていると思う? 王様の椅子じゃよ」


「ああ、だからそんな話し方をしてるわけか。王様ごっこか」


「ごっこじゃねえ……じゃないじゃよ! 王様じゃよ!」


「言葉ぐちゃぐちゃだぞ」


 それにしても穴を出たら王様ごっこしている相崎に出くわすとは……。

 RPGが仕組んだに違いない。

 きっと合流ができるようにとの配慮なのだろうが、いらない配慮だった。


「無礼者め! 皆の者、であえー! であえー!」


 相崎の言葉とともに、跪いていた人たちが立ち上がるだけでなく、街の至る所から人が集まってきた。

 中には騎士のような武装をした者や、魔法使いのような者もいる。

 彼らはそれぞれ剣を抜いたり、杖を構えており、やる気満々である。


「ほら、面倒くさいことになった……」


「数の暴力を、くらいたいのかね?」


 相崎は何やら勝ち誇った顔をしている。

 口の曲がり具合がかなり急で、腹立たしいよりも気持ち悪いがまさっていた。

 そんなオレの心情を知る由もない相崎は、眉も角度が急のハの字にさせながら言葉を続ける。


「それとも、儂に服従するかね?」


 どうやら脅し文句を口にしている気でいるようだ。

 相崎はオレたちに向かって、まだ王様の能力は発動していないのだろう。

 その証拠に相崎に対する心情に、変化は全く見られない。かといって、能力をまともに喰らったとしても、相崎に対して忠誠心を抱くとは到底思えないが……。


「一つ教えてやるよ。下剋上って知ってるか?」


「遊びはここまでにしようじゃないか」


 オレの言葉を聞くなり、相崎は椅子から立ち上がった。

 それに伴い、異世界人にかかっていた能力が解除される。

 彼らは周りを見渡したり、口を押さえたりなどをし、動揺している。

 無理もない。

 操られていた時の記憶が消えるわけでもないため、混乱しているのだろう。


 徐々にざわめきが増していく中、原因の元である相崎はオレたちの元へと歩み寄ると、口を開く。


「ところで、さっきフル装備のPがすごい勢いで城へ突撃してったけど、何があったじゃ?」


「王様が残ってんぞ」


「王国潰す! とか言ってたねぇ!」


 何が楽しいのかわからないが、さななこさんは笑顔で言っていた。

 あと、モノマネしてるっぽいが、全然似ていない。


「じゃなら加勢を……」


 相崎はそこで言い淀み、手をかざす。


「学校の椅子」


 ポンッと小さな音とともに、普通の学校で使われているような椅子が出現する。

 そして相崎はその椅子に腰かける。


「はい先生!」


 大きな声をともに、手を真っ直ぐに挙げる相崎。

 その姿はまるで元気な小学生のようだ。


「はい相崎君」


 オレはため息をつきながら、仕方なく付き合ってやる。


「色々な椅子に座りすぎて、僕の普段のキャラがわかりません!」


「知るか!」


 本当に相崎は面倒くさい。

 というか、RPGのことじゃないのかよ。

 真面目に、いや周りから見たらふざけてるようにしか見えないだろうが、とにかくオレは我慢して真面目に先生のふりをして当てたのに、こんなオチになるとは。

 これなら無視しとけばよかった。


 そんな茶番をしている間に、周囲の混乱は収まったようで、剣やら魔法の杖をこちらに向けている。

 操られていたのだからこの反応は正しい。

 悪いのは人々をこの場から引き離さないうちに能力を解除した相崎だ。


 緊迫した空気が充満する中、


「あ」


 と想樹そうじゅさんが口を開けた。

 一体何を読み取ったのだろうと思うや否や、高いような低いようなよくわからない音が鳴り響いた。まるで石を斬ったかのような、そんな音だった。

 そして、音とともに地面まで揺れている。

 凄まじい衝撃だ。

 それもそのはず、なんせ城が……。


「城が斬れるところ初めて見るわ」


 音々ねねさんは興味を示し。


「P先生すごいです!」


 相崎は目をきらめかせ。


「ずれてるずれてるぅ!」


 さななこさんは嬉しそうに飛び跳ね。


「あー、このまま崩壊するの図」


 軟子なんこさんは顔をボロボロと崩れさせ。


「色を塗り変えたかったな、な……」


 陽色ひいろちゃんは悲しみ。


「こいつらの反応やばいな」


 オレは呆れていた。


 オレたちの反応と打って変わって、異世界人たちは慌てふためいている。悲鳴もそこら中で飛び交い、あまりのショックにその場でくずおれる人も多数見受けられた。


 うん。これが正常の反応なんだろうな……。




  ***********


【王様ごっこ】


「苦しゅうない。もっと近くに来るのじゃよ。もっと、もっとじゃ」


 手招きされた美女は、王様の言うことをすんなりと聞き入れ、歩みを進める。

 そして、手を伸ばせば届く距離になった時、轟音が鳴り響いた。


「でゅわあああああああああああああああああああ」


 奇声を発してしまうのも致し方のないことだろう。

 なんせ相崎の目の前の地面から、巨大な光の塊が飛び出してきたのだから。

 そしてその光の塊は相崎の頭上を通過し、遠くへと飛んで行った。その際、吹き荒れた風によって侍女たちのスカートが捲れたのだが、王様はそれどころじゃないようで、その様子は見ていなかった。


「王様、だいじょうぶですか?」


 呆然としている王様に、侍女は言葉を掛けた。


「ふ、ちょっとちびっただけだ」


 王様は遠い目をしていた。

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