第45話  怒りの視線

 ずれた天井を見上げた王は、それでもなお、怒りをRPGへと向けていた。

 正常な思考を持っていたのなら、相手がどれほどの実力者かわかるはずだが、王は怯まない。それどころか、突然現れた侵入者を排除しようと手をかざす。


「集え、戦士たちよ!」


 王の周囲にいつくもの魔法陣が浮かび上がった。

 それらは光を放ち、やがては屈強な戦士たちを呼び寄せる。


 体格の良い戦士だけではなく、聡明そうな魔法使いもいた。

 


「なるほど。護衛を呼ぶには便利な魔法だ。召喚魔法の正常な使い方はこっちか」


 彼らは見るからに強そうな装備で身を固めている。武器などもかなり特殊な見た目をしたものもあり、さきほど戦った戦士たちの量産的な装備とは違い、一点もののようだ。


 さすが王の直属の護衛といったところか。


「ずいぶんと強そうな装備だ」


 RPGはゲームの能力により、たくさんの装備品を目にしてきている。

 そのRPGが強そうだと明言するのだから、装備の質はかなり高いのだろう。


「ほう、わかるのか。我を守るのだから当然であろう」


 揃えるのにかなりの苦労をしたのか、いきなり侵入してきた敵であろうと、それを褒められるのは嬉しかったのか、王は少しばかり頬を緩ませた。


「かなりの金をつぎ込んでおるのでな、貴様には勝ち目はないぞ」


 得意げにそう言い放った王。

 子供が自慢するかのように、意気揚々とそう口にしてしまった。


 その言葉が、RPGの逆鱗に触れるとも知らずに……。


「ノヴァ・イクスクルージョン!」


 何も見えなくなるほどの光量が、爆散した。


 光が晴れると、そこには床に尻をつける王と、それを睨みつけるRPGの存在だけが残っていた。

 

 召喚された自慢の戦士たちも、壁も、天井も何もかもが吹き飛んでいる。

 ただ、床から下は顕在で、上部が消え去った王宮の姿がそこにはあった。


「随分と見晴らしが良くなったところで、話をしようか」


 RPGの口調こそは冷静そのものだったが、その声に含まれている怒気は全く隠されておらず、王の体を震わせた。


「す、すまない! 我を許してくれ!」」


 王は尻もちの体制から、慌てて起き上がらせ、そのまま頭を下げる。

 この国で一番の戦力を、目の前で一瞬にして消し飛ばされてしまえば、逆らう気も起きないのだろう。


 しかし、全てはもう手遅れ。


 怒らせてはいけない人物を怒らせてしまったと後悔しても、もう遅い。


「お前の集めた自慢の装備。あれを集めるために使った金で、老人たちを、弱い者たちを何人救えると思ってる? この王宮だってそうだ。趣味は悪いが随分と立派な建物だ。その金で、トロン村を何回救えると思ってるんだ?」


 目を細め、静かに語りだすRPG。

 それは何かを思い出すような、そして怒りを絞り出しているような、そんな瞳。


「え? え、あ……トロン村……あ、あの地を支配したのは……」


 王はあっけに取られていたが、やがて合点がいったのか、饒舌に話し始める。


「お言葉を返すようだが、あの者たちはすでに未来などありはしない。生まれながらにして魔力が弱いというのは、まともな職にもありつけぬ。我はそんな者たちに職を与えたのだ」


「その結果があの搾取ってこと? ふざけるなよ。弱者の足元見て、都合のいいように使ってただけだろ。それを職を与えた、だって? 反吐が出る」


「しかしながら、生産性のない者たちを無償で受け入れるなど国民が納得せぬであるからして……」


「弱者を守るのも、強者の、王の役目だろ! 僕はそれを忘れない!」


 RPGの目からは、強い意思が放たれていた。


「僕は弱者の味方だ! 僕は守れるようになった! だからお前は、潰す!」


 様々な感情が入り交じった視線が、王へとまっすぐ伸びている。


 その目に含まれた感情は、決して正義の感情だけではなく、悪の感情もある。


 その目には、純粋な守るという覚悟だけでなく、国を壊すという覚悟もある。


 その目に宿すのは、真っ当な怒りだけではなく、王にとっては理不尽と思えるような、個人的な怒りも含まれている。


 感情が複雑に絡み合った目で、見据えた先、王へと、RPGは切っ先を向けた。


「さようなら」

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