第37話  潜入開始

「きついな」


 七色の宮殿は、至近距離で見ると目がちかちかする。長時間見ていると視力が落ちてしまいそうだ。

 そう思ってしまうほどに目を酷使する宮殿は、三メートルほどの壁に囲まれており、侵入するのは、簡単そうに見える。


「壁って……箒とか絨毯が空飛んでんのに意味あるのか?」


 上から普通に通り抜けられそうだ。


「壁もそうだけど、その上にも魔法の効果を消すみたいだ」


 RPGは壁を見ながらそう言う。

 一応魔法的な対処はしているらしい。

 よく見てみると、壁には魔石のようなものが一定間隔に埋められている。

 きっとこれが魔法の効果を消すのだろうが、こんなにむき出しでいいのだろうか……。

 取り外してくださいと言っているようなものだ……。


 壁沿いに視界をずらしていくと、そこには門があり、門番が数人いる。

 兵士のような甲冑を身に纏う者や、魔法使いのローブを着た者だ。

 彼らは談笑しながら守っているが、緊張感のかけらもない。

 本当に守る気があるのかと問いたいくらいだ。


「さて、どうやって侵入するか……」


 オレがどうするかと頭を捻っていると、


「お先に、ダイレクトホップ!」


 RPGが突如高速で飛びあがり、塀の向こう側へと消えて行った。

 ずいぶんと思い切りのいい侵入だ……。

 談笑する門番も一切気付いておらず、話しを続けている。


「やだよぉ……」


 音々ねねさんは顔を両手で多い、細い声を絞り出す。


「ピョン」


 そんな声とともに、音々さんは大きくジャンプして塀の向こうへと消えて行った。

 実に簡単に壁を飛び越えていく姿を見つつ、オレは一つの疑問が浮かび上ぶ。


「それよりも、これ個人個人で入る感じなのか?」


「そうなの? の?」


 オレの声を聞いた陽色ちゃんは、想樹そうじゅさんと軟子なんこさんに向かって手を振る。下から上へ向けられたその手は、まるで塗るかのような動作。

 いや、ようなではなく、実際に塗っているのだろう。

 その証拠に、想樹さんと軟子さんの体が、下から徐々に消えていき、やがては全て消えて見えなくなった。


「それじゃ、先に行くね! ね?」


 そしてついには陽色ちゃんも消えた。


 全身を、透明に塗ったのだろう。


 透明人間になった三人は、今頃談笑している門番の横を普通に歩いているに違いない。

 至近距離を歩かれても気づかないとは、透明って便利すぎる。

 というか透明に塗るってずるいよな……。


 一人置いてかれたオレは、一人で空を見上げる。

 普通に考えて、一度空に移動してから、壁の向こうへと移動するのが妥当だろう。

 しかし透明の三人がいるので、どこに出現していいのかわからない。

 まだ門番の近くを歩いているはずだが、軟子さんが高速で移動している可能性もゼロではない。だから使えない。


 見えない相手。それはオレの能力と相性が最悪だ。


 そんなことを考えていると、壁にぽっかりと穴が開いた。

 そこにはオレ以外の全員の姿が見える。


 恐らくだが、穴を開けたのではなく、壁を透明に塗ったのだろう


 あのメンバーならば簡単に壁に穴を開けるなど容易いので、その可能性もあるが、のちのち隠すのが面倒になるから開けてはいないだろう。

 なんにせよ、見えるようになったのでオレはその場でジャンプして、移動する。


 視界が切り替わると、


「ありがとう」


 陽色ちゃんにお礼を伝えた。


「いよいよ!」


 陽色ちゃんは両手をブンブンを振りながら、暖かみのある笑顔を見せていた。

 真っ白い髪の毛が、嬉しそうに跳ねている。


「それにしても……簡単に入れたな……」


 オレは庭のような場所を見渡した。

 植木の陰から覗く感じなので、全容は確認できないが、かなり広い庭というかんじだ。

 芝生が敷かれ、ところどころには木が植えられている。花壇なんかもあり、見たこともないような花が咲いていた。赤い葉っぱに黒い花びら。なんだか禍々しい花だ。

 魔法の薬の材料とかにもなりそうだなと思っていると、


「頭を……下げて……」


 想樹さんがそう呟いた。

 言われた通り頭を下げ、葉の隙間から覗く。

 しばらくすると、兵士が現れ、オレたちの前を歩いて通過していった。


「見回りお疲れさまの図」


 軟子さんがなんだか偉そうに胸を張り、左手を腰に当て、右手を上下させている。

 一体なんのジェスチャーなのだろうか……。

 答えは、見回りお疲れさまなのだろうけど、わからない。


「さななこさんはどうやら地下にいるみたいだ。やれやれ道が複雑だ……テレポート」


 RPGがそう口にする同時、RPGの体に光の線がいくつも降り注ぎ、その場から消えさった。

 そして目の前の宮殿の窓の中に、その姿を現せていた。

 RPGは手招きしている。

 どうやら早く来いと言っているようだ。


「次行ってもいい? の図」


 そういう軟子さんに視線を向けると、彼女はドロドロに溶けていた。

 もうほとんど原型はなく、半透明のジェル状になっている。

 そこにはデフォルメされた軟子さんの顔があり、口が開いた。


「行くぜー! の図!」


 全身を一度ぷるつかせたのち、彼女は地面を高速で流れていき、やがて窓の隙間へと入り込んでいった。


「やっぱいつ見てもキモイな……」





   *******


 六軌の分析ノート


 №20  単細胞たんさいぼう 軟子なんこ

 超能力:スライム


 攻撃力:B

 防御力:S

 機動力:A

 応用力:B

 回復力:C


 総合戦闘力:A

 身体がスライムな彼女。

 見た目はちょっと気持ち悪いが、性能はかなりやばい。

 基本的に物理攻撃は効かない。ぶん殴っても飛び散るだけで、ダメージにはならない。試しに電撃を浴びせてみても、ただただ通過するだけで、意味はなかった。

 分裂だってお手のもので、沢山の小さな彼女がジェスチャーする図は完全にカオスの図。

 ジェルを傷口に当てると活性化して傷の治りが早くなるのだとか。

 スライム状態から人に戻った際、服がびしょびしょに濡れている。

 水分多め。

 弱点らしい弱点はなく、僕は彼女に有効的なダメージを与えられないので勝つのは厳しい。かといって負けるのも厳しいが……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る