第30話 転移の原因
「なーにって言われても、なーかよしに、なーりたいれす!」
「は?」
「おー友達になってくれないれす?」
「本気で言ってるのか?」
わけがわからない。
どう考えたら、友達になれると思ったのか……。
「もーちろんれす」
『本気で言ってる』
「いきなり現れて、さらにこんなに固く縛っといてか?」
オレは未だに横たわる
いい加減解放してあげないと可哀想になってきた。
「にーげられるかと、おーもいましたれすから……。でーも同じ日本出身だから、おー話がしたかったのれす……」
なんだこの思考のぶっ壊れ感は……。
何一つ理解が出来ない。
本気で話しがしたいだけで、捕縛しようとしたのか?
『そうみたい』
想樹さんが言うのだから、間違いはないのだろうが……。
『それと早く切ってほしい』
そんな想樹さんの心の声を受け止め、オレはハサミを受け取った。
視線だけは罠少女から離さず、慎重に縄をハサミで切っていく。
そして、罠少女に邪魔されるようなこともなく、無事に想樹さんを解放することが出来た。
「……ありがとう」
想樹さんが起き上り、体に付いた土を叩いて落としているが、まだ腰の部分が落ちきれていない。
そう考えた途端に、想樹さんは腰を叩く。
そして、オレの思考に合わせて落ちきれていない部分を叩き終えると、
「……えっち」
と呟いた。
おかしいだろう。落ちていない部分をわざわざ探していたというのに……。
「……見すぎ……」
じと目を向けてくる想樹さんから逃れるように、オレは罠少女へと視線を移した。
少女は未だ眠そうな目でこっちを見ている。
しかもまだ一人だけしゃがんだまま。
「ねー? なーかよくしてくれるれす?」
同じ日本出身というだけで、親近感を抱くのは確かだ。
だからこの子もオレたちと仲良くしたいという気持ちもわかる。
だけど……。
「かーんしもいない。しーばりもない。じーゆうなんれすよ? たーのしく一緒に過ごしませんれす?」
この子の言うこともわかる。
それでも……。
「わーを信用できないれす? じゃーあ、自己紹介するれす。わーの名前は
罠少女もとい置土産和菜は、目を瞑って深呼吸をする。
そしてゆっくりを瞼を開いた。
「発動条件、ポケットに入れたとき。発動対象、わーの私物。発動内容、思い浮かべたものを取り寄せる」
トーンは緩いままなのだが、言葉ははっきりとしていて、聞き取りやすかった。
そんな彼女は、
「こーんな感じれす」
と口調を戻し、ポケットに手を突っ込んだ。
途端にオレの手からハサミが消え失せ、その代わりに彼女のポケットから出現した。
「罠って、なんだっけ」
自然とそんな言葉が出た。
間違いなく罠の範疇を超えている。
これではなんでもありの能力だ。
なんにせよ、こうして本当のことをしっかりと再現するのだから、本気でオレたちと仲良くなりたいと思ってくれているのは、伝わってくる。
能力がわからない相手に対して、能力を開示する誠意もわかった。
そして自分の能力に自信もあるのだろう、だからこそ、能力を開示しても大丈夫だと確信できるのだ。オレたちがどんな能力でも対処できると。そう思っていることだろう。
置土産和菜を見る限り、ただの馬鹿な可能性もあるが……。
とにかく、こっちに伝わる部分はあった。
だが、オレは未だに納得はしていない。できるはずがない。
「あの少女に、何をしようとしてたんだ?」
一人の少女を透明の箱に閉じ込めていた、理由がまだわかっていないのだ。
どれだけ誠意を見せようと、この不透明な部分がある限り、仲良くなんてできるはずがない。
「うー、まー力? おー、すーいとるって言ってた?」
まー力とは魔力のことかだろう。
つまり魔力を吸い取るために閉じ込めていた、ということだ。
言っていたという発言により、他にも協力者がいるのだろう。
記憶を消す能力者と反射する壁を作り出す能力者。
恐らくだが、二人が存在している可能性がある。
『眠っていた女の子は魔族と呼ばれる種族で、高い魔力を保有している。だけど魔法は使うことができないらしいの。だから魔力を吸い取るにはうってつけ』
想樹さんの補完が頭に伝わる。
しかし、問題は増えるばかり。
吸い取るということは魔力を集めているのだろうが、そもそも集める意図がわからない。
なんせその魔力を吸い取ったところで使い道がオレたち能力者にはないからだ。
『その魔力を必要としてるのは、王国。大量の魔力で、魔法を行使しようとしてる?』
やはり、今の思考だけでは、王国が集めていることがわかっても、その使用内容まではわからない。
つまりこの少女は何も知らず、それに加担しているということだ。
元凶は王国か。
なんの因果かわからないが、丁度オレたちが征服しよとしている相手とは……。
それにしても、なぜ置土産和菜は強力な能力を持っていて、王国に加担しているのだろう?
その辺を想樹さんがうまいこと読み取ってくれるといいのだが、それには時間がかかる。
現在進行形で考えていることなら即読み取れるが、過去のものとなると、どの時間の感情を読み取ればいいのかわからないのだ、どうしてもすぐには終わらない。
今のオレに出来ることは、そのことを考えさせることだ。
受信過多で痛む頭で思考していく。
「吸い取るってことは、何かに使うってことだよな? 何に使うんだ?」
『あ』
想樹さんの心の声が漏れると同時、
「おーこくは、せーんそうするからだって言ってたれす。だーから、強い人を呼ぶって。わーたちはそれに便乗して、おー友達を増やそうと能力者を呼ばせたのれす。しーっぱいしたと思ってもう一度魔力を、あーつめようとしてたれすが、せーいこうしてたみたいれすね」
心の声を聞くまでもなく、彼女の口から知りたい答えが返ってきた。
オレたちがこの世界に来た原因は、どうやら王国と、オレたちと同じ、能力者たちだったらしい。
置土産和菜としては、友達を増やす目的らしいが、他は怪しいものだ。
誰もがこんなに愉快な頭をしているわけがない。
それはそうとして、オレを襲っていた頭痛がピタリと止んだ。それに伴い、送られ続けていた感情の位置情報が滞る。
そして、後ろでドサッと何かが倒れる音がした。
嫌な予感を覚えながらも、振り向くと、想樹さんが気絶して倒れていた。
「こーれは交渉決裂れすね?」
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