第25話  各々出発

「オレが覚えられる魔法ってあるのか?」


 MPが12だと、限られてくる。

 そもそも覚えられるかも怪しいものだ……。


「初級魔法の魔力消費が少ないものならいけると思います。ええっとですね。握力を少しだけ上げる魔法、十秒間消臭する魔法、雑草を見つける魔法、痒い所に手が届く魔法……」


 タルテは上を見ながら一生懸命に思い出しているが、


「まてまてまてまて」


 オレはさすがに制止をかけた。

 なんだ雑草を見つける魔法って。魔法使うまでもないだろ。


「もうちょっと戦闘向きの魔法はないのか?」


「ないです」


 撃沈だった。

 なんとなくわかっていたが、やはりショックなものはショックだ。オレのあのがんばりが無駄に終わったのだから……。


「この世界の魔法は中々不便なんだね。ゲームだったらいきなり攻撃魔法覚えられるのにね」


 RPGの言葉。

 それはオレにとって朗報だった。


「お、教えてくれ!」


「いいよ。まずはレベルを上げてスキルポイントを手に入れて……」


「やっぱりいいです」


 能力がゲームでもあるまいし、スキルポイントなんか手に入るわけがない。

 レベルという概念がオレにはないのだから……。

 いやあるほうがおかしいのだけど……。


 とにかく、オレは攻撃魔法をまだ覚えられないということはわかった。

 RPGならばスキルポイントの種なんかもドロップするかもしれない。

 もし今の時点で入手していたら言ってくるはずだから、今はないのだろうが……。

 仮にあったとして、どうやってそのポイントを振ればいいのかもわからない。


 つくづく思う。

 ゲームってずるい。

 攻撃力だって殴るだけでかなりあるはずだ。レベルってすごい。


 しかしオレの能力は体の構造は人間のそれだ。

 どうしたって火力不足に陥ってしまう。

 これから魔法を覚えたらまだわからないが、今の時点では不可能。


 オレは現時点のまま、想樹そうじゅさんと二人で魔獣を捕獲(正確には懐柔)しなければならない。

 はっきり言って無謀としか思えないが、きっと発案者の想樹さんには考えがあるのだろう。



 そうこうしているうちに、時間はやってきた。

 これからチームに別れ、それぞれのミッションをクリアする。


「終わったら電話してくださいの。今回攻略する街程度の距離なら余裕ですわ。わたくしは保護膜の外に居ますから」


 まもるの出す保護膜は、電波すらも遮断してしまう。

 だから中にいるとスマホは使えなくなってしまうのだ。

 そもそも異世界ではスマホは使えないのだが、このクラスには電波を出せる大海原おおうなばらがいる。

 なので通話は問題なく使用すること可能だ。


 しかし、街まで何キロあると思っているんだ……。

 恐らく十キロではきかない。その距離を電波で繋げられるとは、大海原恐るべし……。


「じゃあな、雑魚能力者ども。負けて恥晒すなよ!」


 台詞を吐き捨てながら、黒闇くろやみは靄に乗って飛んでいく。



 それを見送ると、あおたんが巨匠を雷河らいかを掴み、宙に浮いた。

 生の出した巨大なピーナッツの殻に、せい奈衣ないが乗る。


「れつごーーーーー!」


「いけいけいけいけー!」


 生と奈衣の元気な声により、あおたんは移動し始める。

 その後ろを生と奈衣が付いて行った。



 三組目はRPG,音々さん、さななこさん、相崎あいざきのチーム。


「ありえないんだよなぁ、皆。テンションを上げる謎」


 相崎がブツブツと言いながら車いすを出現させ、それに乗る。


「いやっはあああああああああああああああああ!」


 座った瞬間、相崎はテンションを爆上げ、暴走していった。


「やれやれ、面倒だ……。アクセル!」


 RPGはそう言うと、青い光に包まれ、高速で走っていく。


「個別で行くの!? 最悪……やだぁ……ほんとにやだぁ……ほんとにいやだぁ……」


 音々ねねさんは顔を両手で覆い。うずくまっている。しかしそれでも耳まで赤くなっていて、恥ずかしさを隠しきれていない。

 そして音々さんは、


「シュン」


 ぼそりと言った。

 その瞬間、マッハで移動し、先行した二人に一瞬で追いつく。

 三人の姿が、けっこう離れたところで、


「普通に置いてかれた~あはは~」


 とさななこさんが笑っている。

 確かにさななこさんには移動手段がない。

 どうするのかと思っていると、何やら音が聞こえてくる。


 シュルシュルシュルシュル。


 何の音かと思うと、さななこさんの体からロープのような物が出ていて、引っ張られているようだ。


「じゃね~」


 そして、ピンと張られる。


「ぐえっ」


 さななこさんはロープに引っ張られていった。

 白目で、ものすごい顔をしていたが、大丈夫だろうか……。

 こうして三組目も出発した。



 魔獣討伐組と軍撃退組は、普通に歩いて街から出ていった。


 そして残るはオレと想樹さんの二人。


「ん」


 と想樹さんは両手を差し出した。

 それの意図がわからず、オレは首を傾げた。


「……おんぶ……」


「え……」


 きっと今、オレは顔を引きつっていることだろう。


「……おんぶ……」


 それでもなお、小さな声ではっきりとそう言う想樹さん。

 なぜだかものすごい圧力を感じる。

 オレはその圧力に気おされ、しぶしぶと想樹さんをおんぶした。


 想樹さんは思っていたよりも軽い。しかし人間一人分には変わりなく、重くないといったら嘘になる。


「いたっいたいって」


 がしがしとオレの後頭部を無言で殴り続ける想樹さん。

 余計なことを考えたのは悪いが、こればっかりはしょうがないことだ。

 人間一人を重いと感じるなというほうが難しい。


 その感情を置いておいても、想樹さんの体がけっこう柔らかいという感情がどうしても出てきてしまうのだ。

 想樹さんは体をどんどん熱くなっていく。

 その原因はオレを殴っているからだけではないはずだ。


 こうなるのはわかるだろうに、最初からおんぶと言うなよ。


「……上……」


 ものすごい不機嫌な声で、上空を指差す想樹さん。

 暴力が収まったのはいいが、機嫌の悪いのも面倒くさい……。


 がしっと後頭部にもう一発くらいながら、オレはその場でジャンプする。


 一瞬で切り替わる視界。


 強い風を受けながら、


「……あっち……山の上……」


 オレは想樹さんの指示に従って、移動していった。





   ********



 他にどんな魔法が覚えられるのか聞いてみたとしたら。



「指をしゃぶるとしょっぱく感じる魔法」

「元からわりとしょっぱい!」


「三秒間空腹を忘れられる魔法」

「なんのためにあるんだ!?」


「アヒルのおもちゃを出す魔法」

「ああ、あの風呂に浮かばせるやつね!」

「浮きませんよ?」

「浮かねぇのかよ!」


「自分の足の臭いを嗅ぐ魔法」

「どんなフェチ!?」


「チビハゲデブのおっさんの体を乗っ取る魔法」

「乗っ取りたくはねぇよ! え? まって、わりとすごくね!?」

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