第24話  種

「魔法を教えてくれ」


 異世界人であるタルテへ向けたオレの発言に、真っ先に答えたのは、


「無理だよ」


 RPGだった。

 はっきりと言い切ったのだから、きっと確信があるのだろう。


「なんで無理なんだ?」


 しかし、だからといってすぐにその意見を受け入れるのかは、また別だ。

 たしかにこのクラスで一番魔法に精通しているのはRPGだろう。しかし、ゲームの魔法とこの世界の魔法とじゃ、性質が異なるはずだ。

 

 RPGの知らない方法で魔法を覚えることができるかもしれない。


「MPがないからね。ちなみにタルテのMPは300くらいある」


 そんなオレの淡い期待を、RPGはズバッと切り捨てた。

 MPとは、ゲームなどで魔法を使う時に消費するものであり、そしてそれがタルテにも備わっているのならば、オレは魔法が使えないといういことになる。


 タルテを見てみると、言いにくそうな表情で手をもじもじとさせていた。

 その態度で察することができる。

 タルテは視線を、何度か地面とオレとで行ったり来たりとさせたのち、口を遠慮がちに開いた。


「あの、言いにくいのですが……刹那せつなさんからは魔力が感じられません……RPGさんはものすごい魔力で溢れていますが……」


「やっぱり、だめか……」


 魔法が使えたらかなり強化できると思っていたが、それはやはり幻想だった。

 実際魔法など使えるのなら、もう使えていてもおかしくはない。

 なんせRPGが現に魔法を使えているし、どうやらMPという概念で魔力を感知出来ているのだから、あるのならばもうとっくに教えてもらっているはずだ。


「やれやれ、仕方ないな……」


 ため息をつくRPG。

 彼は非常に面倒くさそうに首を振り、一つの種を出現させた。


 大きさは梅干しの種ほどの大きさで、色は青く光っていて、種らしくない。

 しかもその光が、心臓の鼓動のように強く発光したり、弱くなったりとしている。

 まるで生きているかのような印象。


「これはMPの種だ。昨日の龍からドロップした」


 ドロップって。

 こいつの能力本当に便利だな……。

 アイテムがドロップするということは、もしかしたら武器とかも手に入れている可能性だってある。

 それにきっとお金も一緒に手に入れていることだろう。

 しかも自分で倒したわけでもなく、クラスメイトをパーティーに参加させての取得。


 本当に万能な能力だ。

 素直に羨ましい。妬みたくなるくらいだ。

 おかげで、オレはMPをゲットすることができるわけだが……。


「いいのか?」


 ゲーム的に考えるならば、パラメーターを上げるアイテムはレアだ。絶対に自分に使うべきアイテム。

 それをRPGはオレにくれるという。


「ちょっといいですか? MPっていうのは魔力のことですよね!? 魔力を上げるものなんて聞いたことがありませんよ!」


 異世界人のタルテですら聞いたことも無いほどのレアアイテムらしい。

 存在すら知られていないとなると、レアなんて言葉では表せられないだろう。

 なんて心が広いのだろうか……。


「いいよ。だって生き返らせて殺せば何度でも手に入るし。夜の間に実験済み。でも種はまだ十個しかないからそんなにMPは上げられないけどね」


 うん。そんなことだろうと思いました。


「なんでもありですか!」


 タルテは叫び声をあげ、そして、


「わたしが、どれだけ、苦労して、魔力を上げたと、思って、るんですか……」


 と言いながら地団太を踏んでいる。

 余程苦労したようだ。


 まぁ、龍を何度も倒すのもうんざりとしそうだが……。


 とにかく、オレはこれで魔力が手に入るのだ。

 そう思いMPの種を受け取り、そして口に近づけていく。


「これ、食べて本当に大丈夫か……?」


 どうしても躊躇してしまう。色もそうだが、それはもはや些細な問題でしかない。

 発行の強弱も目を瞑ろう。


 しかし、問題は種の中からかすかに音が聞こえてきている点。

 種に直接耳を当てて見ると、


「ぬばあああああああああああああ」


 おっさんの呻き声みたいなのが聞こえてくる。

 不気味なのも大概にしろ。


 こんなもの口に入れたら間違いなくお腹を壊す。


 しかしここまできて、食べないという選択肢はない。

 オレはなんとしてでも、攻撃力を上げたいのだ。

 そうじゃないと何か起きたとき、困ることになる。


 オレは勇気を振り絞り、口に放り込む。

 そして噛むのは怖いから、飲み込もうとしたのだが……。


「なにこれめっちゃうまい」


 舌に触れた瞬間、うまみ成分がぶわっと出てきたのだ。

 今までに味わったことのない深い甘み。

 ガツンと一気にやってきて、それでいてまろやかな甘さ。

 これならば無限にでも食べられる。


 しかし、そのうまみも数秒で消えて行った。

 種も噛んですらないのに、溶けてなくなってしまった。


 口の中に喪失感が広がる。

 体がもう一つ欲しいと訴えかけるかのように、唾液があふれた。


「全部食べる?」


「いいのか?」


 差し出されたMPの種を、オレは一つ一つ味わって食した。

 噛むと甘みの他に、苦みも広がる。しかしその苦みは決して嫌なものではなく、甘さをより一層引き立てた。


 こんなものを食べさせられるなんて、オレはもうRPGなしでは生きていられない身体になってしまうのではないか、と思ってしまうほどだ。


 そう思っていたのだが、七個目を食べたとき、異変が起きた。


「うえええええええ」


 思わず種を吐き出すほど、不味かった。

 苦みが口の中を暴れまわり、まだ苦い。そして酸っぱい。臭い。


「腐ってんじゃねーのかこれ!」


「七個目から不味く感じるって書いてあるから正常だよ」


「わかってて黙ってたな……」


「でもMP欲しいなら食べないとだよ。ほらあと三個」


 さっきまでの気持ちはなんだったのか、オレはこの場から逃走したいと思わずにはいられなかった。

 しかし、これを食べないとMPが上がらないのは事実で、食べる以外の選択肢はないのだ。

 だからオレはどんなに不味かろうと、意地でも食べる。

 幸いなことに、一度でも口に放り込めば、それでMPは上がっているらしい。


 オレは、後三度の地獄を、味わった。


 その結果。


「おめでとうMPが12に上がったよ」


「ひっく!」

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