第5話 魔石
「口だぁ!? 何言ってんのかわかんねぇだろ」
「……だいじょうぶ……ね?」
すぐにマントの少女へと視線を戻した。
想樹さんの気持ちを受けとったのか、少女は一度頷いたのち、マントの中へ手を突っ込み、がさごそと少しの間だけ何かを探すそぶりを見せた。
そして一つのネックレスを取り出し、ゆっくりと差し出してくる。
見た目は銀色のチェーンに、大きな雫の形をした赤い宝石のようなものがついていて、その中には何やら沢山の文字のようなものが流れるように動いていた。
実に不思議な物体だ。
日本でならいくらぐらいするのだろうかと考えていると、
「これ売ったらいくらすんねやろ」
オレと同じ考えをした女の子が棒付きの飴を口に含みながら、もごもごと声を出した。
右耳の後ろで束ねられた髪の毛が、少しだけ覗いている。
そして制服の上にはワインレッド色のパーカーを着ていた。
見た目はともかく、頭が悪いこいつと同じ考えをしたとは、我ながら恥ずかしい。
しかも名前が
「飴ちゃんみたいやね。ちょっとだけおいしそうやない?」
などとアホなことをぬかすのだからなおさらだ。
「全然」
普通の宝石だったならばまだわかるが、さすがに中身が禍々しすぎる。
オレとあめりんがそんなやりとりをしている間に、このクラスの委員長である
波のように揺れる長い青い髪を手で払い、ネックレスから髪の毛を抜き出した。
そしてマントの少女が言葉らしき声を発する。
相変わらず何を話しているのかさっぱりわからないが、
「まぁ! これは素晴らしわ!」
大海原は手を軽く叩いていた。
「これは翻訳機なのですわね!」
目を輝かせ、人一倍大きく膨らんだ胸元にあるネックレスの宝石を手で触れた。
そして何やらフードの少女と話しを始める。
それはいいとして、なぜ翻訳がなされているのだろうか。
これだけ時間が経過していて、学校側からなんのアクションもないところを考えると、学校のミッションの可能性は低い。
そして透明になっていた龍。
言葉の通じないだけならまだしも、魔法のような現象を放つ人々。
ここまでくればここが日本どころか、地球ですらないと判断するほかない。
どうやってこの地に飛ばされたのかわからないが、とにかくここがオレたちの住んでいた世界とは異なる世界だと仮定できる。しかしそれならば翻訳がされるのはおかしな話だ。
考えられるとしたら二通り。
魔法的な力が働いて、翻訳がなされているのか……。
それとも日本語のデータが既に入っていたのか……。
この二択のどちらかだろう。
前者ならまだいいが、後者だとなると、既にこの世界に日本人がいる、またはいたという可能性もある。
それならば一度会ってみるのも選択肢になりえるが、いずれにせよ今考えたところで意味はない。
「おひとつじゃ、心もとないですわね……」
大海原はそう言ってネックレスを首から外し、
「どうにかして増やさなければなりませんね」
そう言った。
自然と、クラスの視線がある人物に集まる。
制服姿ではなく、青いロングTシャツに緩めのジーパン、じゃらじゃらとした銀のネックレスを首から下げている、
「え、やややややややむりむりむりむりむり」
雷河は両手をぶんぶんと振りながら、超高速で言った。
「いけんだろ」
「むりだって!」
「無理矢理入れ込めばいいのですわ」
「委員長怖すぎだって!」
本気で顔を青ざめる雷河。
ここは友人として、助けてやるしかない。
「こいつがやるとして、それ使うのか?」
「生理的に無理ですわね」
「委員長否定早すぎだし辛辣だって……」
雷河は本気で落ち込み、地面に四つん這いになり打ちひしがれていた。しかしその姿がよく似合う。
「ではRPGさん。お願いできますか?」
雷河など目もくれず、RPGへとネックレスを差し出した。
「あー、了解」
やる気なさげに、RPGがネックレスを受け取る。
「収納」
次の瞬間、ネックレスが跡形もなく消え去った。
そしてRPGは空中を指で操作するようになぞり、
「んー、魔石? てのがいるみたいだ」
眠そうな目でそう言った。
「んだよそれ」
「あー、見た目は翻訳ネックレスについてた宝石みたいな感じので、魔力の高い生物の体内に生成される石らしい。それで魔力の高い生物ってのは、例えば、その龍とか」
亡骸となった白龍に、視線が集中する。
すたすたと龍に向かって大海原が歩いていき、そっと手を添えた。
「……これかしらね」
そう言うやいなや、龍の顔から一メートルほど下の箇所から、大量の血液とともにこぶし大ほどの白い石が排出された。
それはところどころ血に染まっていたが、白い部分は少しだけ半透明で、ずっと見ているとなんだか吸い込まれそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。
「これでいいんですの?」
大海原はその魔石に臆することなく拾い上げ、にっこりとした笑顔を向けた。
「多分だけど、量が足りないと思うぞ」
オレのその言葉に反応し、クラスの視線がまた動く。
「え? やややややややむりむりむりむりむりむりむりむり」
雷河は手だけではなく、首も振っていた。
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