第6話  ヘルガレイム

大内おおうちは使えない人間ですので、閣大宿かくだいしゅくさんお願いできますか?」

「言い方もうちょい考えようって!」


 涙目で抗議する雷河らいかの言葉は大海原おおうなばらには届かないらしい。


「任せろ!」


 と張り切る閣大宿将かくだいしゅくしょうは暑がりなためか、制服を既に夏服に変えている。しかし白いYシャツの下に赤いTシャツを来ていて、中途半端な暑がりだ。


 大海原の持つ魔石に付着している血液が綺麗さっぱり流れ落ち、


「ではよろしくお願いしますわ」


 と言いながら綺麗になった魔石を閣大宿へと差し出した。


「あらよっと!」


 閣大宿はそれを受け取るなり、すぐに放り投げる。

 空中に投げ出された魔石は、なんの前触れもなく拡大し、ズドンと大きな音を立てて落ちた。

 オレたちの身長の二倍はあり、あまりの大きさに地面がへこんでいる。


「こんなもんっ! か!?」


 得意気に言っているが、あきらかに大きすぎである。


 この出来事にマントの少女はあんぐりと口を開け、目を見開いていた。

 口をパクパクとさせているが、どうやら言葉も出ないほど驚いているようだ。


 RPGはそんな少女の隣を通過し、巨大になった魔石に手を触れ、


「収納」


 消し去る。


「魔石を分割して、チェーンはシルバーでいいか。組み合わせて、後は同じ魔方陣を中に組み込んで、完成っと」


 RPGはブツブツと言葉を発しながら、空中指で操作し、


「オブジェクト化」


 最後にそう言った。


 地面にバラバラと落ちる白色の翻訳ネックレス。


「はい二十五個。ちょうど人数分でよかった?」

「さすがRPGさんですわね」

「うっ……あ、あり、ありが、とう……」


 RPGは大海原から目を視線を逸らし、頬を赤らめていた。


 全員がRPG作の翻訳ネックレスを身に付け、マントの少女に視線を移す。


「これで話せんのか? おい、なんか言えや」


 黒闇くろやみは地べたでへたり込んでいる少女に向かって威圧する。


「やめとけ、泣きそうになってるだろ」

「あ?」


 オレは睨んでくる黒闇を押しのけ、少女の前でしゃがんだ。


「さっきはむりやり連れて来てごめんね。ゆっくりでいいから、話せるかな?」


 少女は綺麗な黄色の目を潤ませながら、ゆっくりと一度深呼吸をし、


「あの、わかりますか?」


 と言葉を零す。


「わかるよ」


 オレはそう答えながら、RPGの能力のすごさに感心した。

 まさか魔法的な物質まで解析して、さらに複製すらもできるとは……。


 RPGの能力は、ゲーム。


 大量にアイテムを入れられるストレージだけでなく、物の性能や性質までわかり、ストレージ内でアイテムの加工、作成などできる。

 しかもそれだけではなく、ゲームのように自身もレベルアップもするし、スキルや魔法(この世界の魔法とはことなるだろうが)なども覚えられるという。

 まさに万能な能力。一点特化のオレとは大違いだ。


「すごいです。本当に伝わった通りに、言葉で話せるようになりました……」


 少女は想樹そうじゅさんと大海原の二人に視線を向けた。


「ん」

「このクラスにできないことはほぼありませんのよ?」


 二十五人もの超能力者がいるのだ。不可能なことはそうそうない。

 だから今回のこの現象にだって、きっと対処できるはずだ。


「お名前はなんと申しますの?」

「タルテです」

「そう、良いお名前ですわね。さて、タルテさん。いくつか質問がありますの」


 大海原は真剣な表情をしていて、ゆっくりとした口調で言った。


「ここは、どこですの?」


 そう、まず聞くべきことは、これ以外にない。

 このクラスの誰もが今一番気になっているであろう問題。

 その問題を解決するために、この少女、タルテを捕まえたといっても過言ではないだろう。


「ラウナ平原です」


 少女は至って普通に答えるが、オレたちが知りたいことは、そこじゃない。


「失礼。言い方を変えますわね。この星はなんという名前なのですか? 星はわかりますか?」


 不思議そうな表情をしたタルテは、小首を傾げながら口を開く。


「……はい。ここはヘルガレイムという名前の星です」


 こうして、今いる場所が地球ではないことが判明した。

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