第3話 邂逅
「んで、これいつ終わんだよ?」
龍を討伐したにも関わらず、一向に戻る気配がないことにイライラしたのか、
学校側がオレたちの力を把握するためにか、今回のように唐突にミッション的なことを課してくることがあるのだが、今回はまだ終わっていないらしい。
ミッション終了ならば討伐したさいに、クリアにしろ失敗にしろ、なんらかのアクションがあるはずだからだ。
それがないということは、まだ何かあるということなのだろう。
周囲を警戒すること、十分ほどが経過した。
未だに何かが起きる気配はなく、視界の端に映る血まみれの龍の姿さえ無視すれば、実にのどかな風景が広がっている。
遠くのほうに動物らしきものも見えるが、こちらに来るようすはない。
大自然の中に佇む教室と龍は異質だが、それ以外は良好そのものだ。
色々と行動していたが、何も起きることなく三十分が経過した。
今は教室から少し離れ、草原の真っ只中にいる。
教室があると視界が遮られてしまうので、その行為はきっと間違っていない。
何も起きることなく、一時間が経過した。
今は草原に寝転がって熟睡しているやつ、走り回っているやつら、レジャーシートを敷いてお菓子を食べながら楽しくお喋りをしているやつら、携帯ゲームをプレイしているやつ、能力で遊ぶやつら、トランプしているやつら。
などなど各々過ごし方は違うが、一貫して言えるのは緊張感がないということだ。
「平和だ……」
それはオレも例外ではなく、のんびりと座って景色を眺めている。暖かい気候の中にいると、非常に眠くなってくるので、さっきから瞼が重くて仕方がない。
この一時間でわかったこと。
それは教室の電気がつかないということ。そしてもう一つ、致命的なのがスマホの電波が繋がらないということだ。そのせいで通信を行うゲームが出来ず、暇を持て余してしまっている。
しかし、もう一時間も経過したのに何も起きないというのはさすがにおかしい。
授業だってあるはずなのだ。
だから終わりが来ないわけがない。もっとも、警戒心をなくすことが狙いなのかもしれないが、それならばとっくになくなっているので、狙い通りにはなっているだろう。
しかし何かが起きる気配は未だない。
更に一時間が経過したところで、
「さすがにおかしくね?」
オレはそう発言した。
それに伴い、声が次々と上がる。
「それな!」
「そろそろ何か行動しないとですわね」
「何かって何すんだよ?」
「現状把握とか?」
「はいはーい! 現状って何を把握するの?」
そう言われてみると、そうかもしれない。
現状はもうわかっている。
突然この草原に移動して、龍がいただけだ。
「というかさ、これって本当に学校のやつなの?」
ゲーム機から目を放す、金髪碧眼の少年。見た目はもろに外国人で両親共にフランス人。それなのにずっと日本で過ごしているからか、日本語しか話せない。
しかもロール・プレイング・ゲームというユニークに溢れた名前を持っている。
そんなあだ名がRPGの彼が、核心を突いた。
「学校のやつじゃないならなんだよ」
黒闇がそう問うが、
「さー」
RPGは頭を傾げるだけだ。
確かに学校のやつじゃない可能性が高い。
「とにかく今のままじゃだめだな。まずは近くに何があるか把握したほうがいいか。あおたんは爆睡してるから……」
「お前がやれよ」
オレの話しに割り込む黒闇の声。
「だよな……」
オレはそう言いながら立ち上がり、上を向き、
「行ってくるわ」
その場でジャンプする。
瞬時に切り替わる視界。
「さすがに寒いな」
全身を強く吹き付ける風を感じながら、オレは視界を下げた。
はるか下には草原の上にクラスメイトが米粒のように小さく映っている。
山すらも見下ろす高度。
この高さに存在しているのは今は雲だけだ。
オレはそんな上空から、自由落下に身を任せつつ観察する。
ひたすら広がる草原。
それが終わるのは生い茂る森や高く伸びる山々。
左手に流れる川は海にまで伸びているようだ。
そして右手側に進むと、一つの集落がある。規模で言えば村だろうか。
その集落から伸びる道を目で追うと、そこには大きな街が広がっている。何やら洋風のお城もあるようだ。
「まるで日本じゃないみたいだな」
到底ありえない風景。
オレが知らないだけの可能性あるが、多分日本じゃない。
立派な街から草原へと真っ直ぐ視線を向けていくと、ある集団が目に入る。
その集団は草原と街の間にある森からぞろぞろと出てきているところだった。
馬に跨っている人もいるし、徒歩の人もいる。
中には重装備をしている人もおり、金属の鎧やら兜を身に付けていて実に重そうだ。
「人数は、数十人ってところか。だけど、あれはなんだ? 荷台か?」
何か物がたくさん乗せられた長方形の台だろうか? しかし特にそれを引いているような動物もいないければ、人が引いているわけではない。
しかし人々と同じ速度で動いている。
「上からじゃよくわからないな。ま、なんでもいいか」
それだけ確認すると、オレはクラスメイトのいるほうへと視界を戻した。
スタッと草原に着地し、オレは今見た光景を皆に告げる。
まだここからではその存在は見えない。
「人はいるのですわね」
「なんか見た目軍隊っぽかった。しかも物語とかに出てきそうな」
「んだそれ?」
「なぞだねぇ」
黒闇とさななこさんが眉を顰めた。
そうなる気持ちはわかるが……。
「遠目で見てそう思ったんだからしかたないだろ……」
あれから数十分経過して、軍隊が現れた。
ガシャガシャと甲冑を鳴らす者や、馬に跨る騎士、腰に剣をぶら下げている剣士、マントを身に纏い杖を持つ者。
さまざまな風貌だったが、それは、
「めっちゃファンタジーの軍隊ぽいねぇ!」
さななこさんが叫んだ通り。
「ごめんね。
叫んだあとに謝られたが、オレ自身びっくりしている。まさか本当に物語の軍隊がくると思っていなかった。
オレ達と、その軍隊が対峙する。
そしてリーダー格と思わしき、馬に乗った人物が口を開いた。
「ばんにゃりふりめんど、まりだふぇいあいむに」
「なんて!?」
草原にオレの叫びが響き渡った。
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