第2話  超能力者集団

 黒いもやに捕まれて地面に押し付けられている白い龍は、黒い手から逃れようと体をくねらせたり、尾を黒い手に叩きつけているが、一向にその手からすり抜ける気配はない。


 それもそのはず、あの手に捕まれたら逃れるのは非常に困難だからだ。

 あの黒い物体はモヤモヤとした見た目だが、あれは圧倒的な物理力を誇る。

 この世の何よりも堅く、この世の何よりも力が強い。

 そんな性質を持つ物体だ。


「この蛇まだ逃げようとしてんなおい」

「龍だろ……」


 黒闇くろやみの言葉に、オレは呆れ気味に言葉を発した。


「どっちも雑魚だろうが。それよかこの蛇はどうすんだ? 殺すか?」

「物騒な考えだな……」


 しかし黒闇の疑問ももっともだ。

 もしこれが学校からのミッションなのなら、討伐でクリアなのか、捕獲でクリアなのか、はたまたそれ以外の何かでクリアなのか、それによって行動が変わってくる。


 ならばまずやることは、一つ。


「意思疎通はできそうなのか確かめないと。想樹そうじゅさん」


 水色ボブの髪の毛を持つ想樹さんへと視線を向ける。髪の毛が風で揺れる中、彼女は両手を胸の前で組み、目を瞑った。


「ん……。感じるのは怒りと殺意……わたしたちを……殺そうとしてる……通じない……」


 想樹さんはポツポツと話すが、目の前の龍には通じないのだと、はっきりと言った。

 それは意思の疎通が取れないということだ。


「どうやらこの蛇は立場がわかってねぇらしいな」


 殺意という言葉にいらついたのか、黒闇がそう言って龍を睨むと同時、龍の背が輝きを走らせた。

 それを見て龍に向かって駈けるのは薄緑色の髪の毛を持つ少女。彼女は両手を斜め後ろにだらりとさせ、まるで足だけで駈けているようだ。


 そんな彼女がオレたちの誰よりも龍へと近づく。と言ってもの距離はまだ数十メートルとあり、決して近いとは言い難い。

 その距離で、龍は口を大きく開いた。


 そして鋭い歯が剥き出しになっている龍の口から勢いよく放たれるのは、銀色に輝く炎。

 まるで温度が測れないその炎が駈ける少女、宝香たからかるうへと到達する前に、彼女が一言。


「ほいっと!」


 こっちまで気が抜けそうになるほど軽い言葉と共に、左手を右へと振りきる。


 途端、銀色の炎は直角に折れ、右へと流れていった。


 龍が吐き続ける間、ある一カ所からずっと右へと流れていく銀の炎。

 それが止むと、見えるのはL字に焼かれた地面。


 きっと龍には何が起きたか理解できないだろう。


 炎の軌道が急に右に流れるなんて、思いもしていなかっただろう。


 しかし、これが現実だ。


 龍はもう一度、銀炎を吐くが結果は変わることない。

 そして二度三度とその行為を繰り返すうちに、


「ほわー、ちょっとかわいい気もしてきた!」


 るうはなぜか喜び始めた。

 そして人差し指を振りながら言葉を続ける。


「おバカさんだなーきみー。かわいいぞー」


 とのことらしい。

 るうのセンスはわからない。なんせ向こうは本気で殺そうとしてきているのだ、かわいいなどと思えるはずがない。


 しかしるうには違うらしく、笑顔を浮かべて龍へと歩み寄っていく。

 やがて龍が攻撃できる射程距離に入ったのか、どこからが尾でどこからが胴なのかわからないが、とにかく体をくねらせ、尾の先端をるうへと叩きつける。


「ほいと!」


 しかし、それが当たることはない。

 相手の体の一部であろうと、その攻撃はるうが手を振る方向へと流れる。

 ぶんっと大きな音を鳴らして空振る尾。


 それを見て、


「ほへ、かわいい」


 るうは顔を緩めたのだった。


「殺していいか?」

「なーんでそうなるの!」


 るうは両手を大袈裟に縦に振り、怒りを表している。その隙をつき、龍はまたしても尾を振るが、


「ほい!」


 るうは今度は龍の顔に手を振る。


「グギャー」


 龍は流れた攻撃によって自分で自分を攻撃し、呻いた。


「ちょっと大人しくしてようね!」


 と言う、るうの声は龍には通じず、怒りをあらわに銀炎を吐き出す。


「ほいほい!」


 るうは左手を右に、そして右手を前に、振る。


「お仕置きだぞ!」


 炎は、右に曲がり、そして次に龍に向かって流れていく。


「グギャアアアアアア」


 龍は自分の炎に焼かれ、苦しそうにもがく。口から血が吐き出され、るうに向かって飛び散った。


「ほぎゃーー! 最悪っ!」


 るうはその血も横に長し、そして龍に背を向け、血相を変えてこっちに逃げてきた。


「血吐いた! かわいくない!」


 真っ青な表情のるうは、ピンク色の髪の毛をした少女の背にピタリと張り付き、肩越しにべーっと舌を出した。


 そして黒い手が、容赦なく握り締められた。

 ぐしゃっと嫌な音と同時に、溢れんばかりの血と肉が飛び散る。

 握り千切られた龍は大声で鳴き喚きながらのた打ち回り、やがてピクリとも動かなくなった。


 実にあっけない終わりだ。

 しかし、これは龍が弱かったわけでは決してない。


 ただ、オレたちが強すぎるだけだ。


 オレたちはそれぞれ、常人を遥かに超えた、能力を持っている。


 そう、オレたちは超能力者集団だ。

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