第3話 森の狼と女の子

 鳥の声が聞こえる。目が覚めると、そこはもう森林だった。

 一瞬意識を失ったと思ったが。

 俺は状況を認識するため、周りを見渡してみる。

 四方八方どこをみても木々の連なりだ。

 空気を思いっきり吸いこんでみた。

 うん、なんていうんだろう、もう空気からして違うな。

 森林特有の美味しい空気っていうのかな。


 しかし、なんにもわからないのは困ったもんだ。どうにかならないだろうか。

 あの神様のような存在は言っていたっけ。

 願う力。

 よくあるゲームなんかでは鑑定なんてできるんだけど。

 俺は試しに心のなかで強く思ってみる。


 鑑定! 


 その瞬間、頭が一瞬真っ白になった。

 周りのありとあらゆるものと文字が重なって。

 俺は猛烈な頭痛に襲われる。

 目の前の石だけ、この小石だけを対象に。

 俺は力をセーブするように、対象を足元の小石に絞ってみる。

 頭の痛みが治まるのと同時に、小石と文字が重なる。

 なんていうんだろう。ゲーム画面での説明ウィンドウのようなエフェクトが宙を浮いているイメージだ。


  小石

  説明

  よくある小石。


 それはそうだな。俺は足元の石を蹴り転がすと、視る対象を変えてみる。

 目の前の苔むした大木。

 うん。これにしてみよう。


 鑑定!


 大木と文字が重なって、やがて鑑定結果が目の前に浮き出してくる。


  万葉樹

  説明

  よく奥地に生えている木。葉っぱは茹でれば食べられる。薬にもなるのじゃ。


 ……のじゃ? 

 なんかフレンドリーな鑑定結果で、この時はちょっとおもしろく感じたものだったが。

 

 俺はそこここにあるものを鑑定する。

 そうして鑑定をしていると、その対象が無数にあることに俺は初めて気がついた。

 日本にいた時には、まるで気がつくことのなかった小さなものたち。


 少し注意してみてみれば、森に育まれている小さな生き物たちの息吹が確かに感じられた。

 小鳥の羽ばたく音。

 木々の葉が微かな風に揺らされる音。

 俺は、もっともっと森の営みを感じたくなって。

 鑑定を取りやめると、少し目をつぶり身を委ねてみる。


 森全体の歌うかのように調べ。

 確かに感じる森の息遣い。

 そして聴こえてきたのは、足元を微かに動く、ムカデだろうか、たくさんの足で歩く音。

 え、ムカデの歩く音? 

 こんな微かな音は日本にる時には聴こえてこなかったんだけどな。

 

 そう思う間もなく、叫び声が聞こえてくる。

 近くの音も、遠くの音もすべてがごっちゃになっているみたいで。

 今の声は気のせいだろうか。


 耳を澄まして集中する、今度は確かに聴こえてくる。

 それははっきりと小さな女の子かと思われる悲鳴だった。


 「た……たしゅ……たしゅけて、お姉ちゃん……」

 「ガオオオオオオオオオオオオウウウウウ」


 俺の耳が急によくなったのか、それとも誰かがはっきりと叫んだから聞こえてくるのか。

 いっしょにうなり声も聞こえてくる。

 それは明らかに獲物を前にする威嚇の雄叫びだった。

 助けれなければならない。一刻も早くだ。急がなければ。

 俺は声のする方に向かって全力で走り出した。


 自分では気づいていなかったけれど、他所から見たそれはまさしく一陣の風だった。

 縫う様に木々をすり抜けて、森林の静けさは急な疾風に騒めいている。


 俺はひたすらに走る。やがて大きな木をすり抜けた先で、今にも子どもに襲い掛かりそうな狼を見つけた。

 いや、もう1匹はすでに飛びかかっている。

 あと5秒も経たずに子どもを喰い殺すだろう。

 4秒、3秒、2秒、1秒……。

 すんでのところで、俺の大きく振りかぶった右足は狼の頭を蹴り抜いていた。


「ギャイン!! 」


 狼は大きく悲鳴をあげると、弾き飛ばされてそのまま大木にぶつかり動かなくなる。

 俺は子どもを見て、声をかける。


「大丈夫? 」


 子どもはブルブルと震えて声も上げられないようだ。

 ひとまず怪我がない事を確認した俺は前面の狼にむかって威嚇するよう腕を広げる。

 

 四方を狼に囲まれて、俺は身動きが取れない。


 前面の狼を威嚇しても、うしろの狼が噛みつこうとソロソロと近づいてくる。

 逆にうしろの狼を威嚇すれば、左右に位置する狼が計ったようにうなり声をあげ威嚇してくる。

 

 どこにも逃げ場はない。これ俺死ぬんじゃ……。

 いや、この世界に来てまだ1時間も経っていない。それなのに死ねるかよ!

 どうにか狼の動きがわかれば……。


 そこから更に対峙する事数秒。

 うしろから静かに近づいてきた狼に、俺の首は思いっきり噛みつかれて食いちぎられた。



 いや、まだだ。まだ噛みつかれてはいない。

 俺は急いでうしろに振り向いた。


 狼の大きく広げた口は、今にも俺の首に噛みついてきそうだった。

 無我夢中だった。

 俺はそのまま下に屈み込んで狼をかわすと、足元に落ちていた石を握りしめた。

 そして、そのまま前方に着地した狼まで走り込んで力いっぱいに殴りつけた。

 火事場の馬鹿力ってやつなんだろうか。

 どこまでも貫け! そう思って殴りつけた俺の拳はそのまま狼を貫くと大地にまでめり込んで止まった。


 ボグンッ

 とんでもない音が響いて、振動でわずかに大地が揺らいだように感じる。


 遠巻きに眺めていた狼たちの動きが一瞬で静止する。

 そして、少しずつ遠のいていき、いっせいに退散していった。


 俺はそのまま周りを見渡して狼が残っていない事を念のため確認すると、そのまま子どもに声をかける。


「もう大丈夫だよ」


 子どもはビクッとしたまま、まだ震えている。

 無理もないだろう。死にかけたんだから。

 俺は安心させるよう、ニコッと子どもに笑いかける。


 子どもはさらに大きく震えるとビクッと体をうしろに傾ける。

 固まる俺と子ども。うーん、なにがいけなかったんだろう。


 もう一度だ、俺は顔面に力を入れて、強くニコリと微笑んだ。

 笑顔が久しぶりのせいなのか、それとも、力を込めすぎたせいだろうか。

 頰が引きつりそうになる。


 子どもはそのまま微動だにすることもなく。

 ……あ、お漏らししちゃってるでしょこれ。

 俺のせいか……。

 固まる時間。いや、これ日本だったら通報ものなんだけど、ここは狼がうろつく大森林だ。

 俺だってこんな小さな子どもを一人で放ってはおけないし。

 俺は、そのまま子どもから少し離れて横にいっしょに座り込むと、あらためて考えてみる。

 とにかくこれからどうするかだ。

 森林にいる自分と子どもと狼の群れ。

 しかも、子どもは泣いているしね。


 とりあえずの安全は確認できたからなのか、久しぶりに運動したからだろうか。

 俺は小腹が空いていることに気づいた。そして自分の身なりに改めて気がついた。

 この服装も靴も、いろいろと今朝から変わっていなかった。

 

 もちろん、ポケットに入れておいたチョコレート菓子もそのまんまで。

 俺は1つ取り出して封を開くと、そのまま口に放り込んだ。

 これが最後に味わうチョコレートかな、なんて事を思ってたんだけど、子どもがこちらをじっと見ている。

 うん? これが欲しいのかな。

 もう2つしか残ってはいないが、俺は1つを手に取ると封を開けて子どもに手渡した。

 おずおずと差し出された小さな手にチョコレートを乗せると、最後の1つは自分の口に放り込んだ。

 食べられるよ、美味しいよ! とアピールするように大げさに噛みしめながら食べてみる。


 そんな俺を見て少しは安心してくれたのか。

 子どもは、手にしたチョコレートを口に近づけると、ペロッと舐めた。

 そうして、びっくりした様におおきく目を見開くと、そのまま残りのチョコレートにかぶりついた。

 あぁ、手についていたチョコまで舐めてるよ。お腹減ってたのかな?

 よほど美味しかったのだろう、こちらをじーっと睨むように見つめてくる。

 そんな視線に俺はいたたまれなくなって、もう一度ニコリと笑いかけながら話しかける。


「ごめんね。もうないよ! 」


 俺の言葉に沈黙が舞い降りる。


「…………」

「…………」


 少しすると、子どもの目には大粒の涙でいっぱいなって。

「うわああああああん」

 別の意味で子どもが泣いた。


 しばらくして泣き止んだ子どもと、俺はようやく話すことができた。

「俺の名前は北条真斗。君の名前は? 」


 ちょっとした間を置いて、ボソッと答えてくれた。


「……アイル」


 アイルちゃんか。よかった。これでコミュニケーションが取れそうだ。


「アイルちゃんはどこから来たの? 」


 俺の質問に、またまた沈黙が続く。

 やがてアイルちゃんは金色の目を数度しぱたたかせると思ったら、急に目が潤みはじめて。

 また泣き出した。


「うわあああああああああん」


 これは困った。さすがに子ども。さすがの子どもだ。

 俺に育児の経験でもあればよかったんだが、そんなのさっぱりだしさ。

 俺は泣き止むよう背中をさすって声をかける。

 もう大丈夫だからと何度か繰り返し言って、アイルちゃんはようやっと泣きやんでくれたんだけど。

 ずいぶんと年季の入ったような服装をしているけれど、特にほつれや破れもなくきっちり裁縫された服を着ている。

 そんな娘がこの森で1人でいるってことは、よほどのことが起こったんだろうか。

 まぁ、とにかく迷子ってことは間違いなさそうな気がするけど。


 そして、改めて状況の確認だ。とにかく今朝から異常続きだ。

 もうこれは変わりなく続いていたはずの日常なんて2度と送れないんじゃ……そんなふうにも思える。

 この鑑定だってそうだし。

 っと、そうかアイルちゃんに使えばなにかわかるかな?


 鑑定!


  アイル・シュッテ

  説明

  人族の子ども? 8歳。淡い緑の髪色。チャームポイントは金色の瞳だよ。


 ……ナンノコッチャ……

 この鑑定、たまに役に立たないよね。って、まぁ、鑑定にせいにしたって始まらない。

 事実は事実。まぁ、うん、金色の瞳って可愛いよね。


 ってこの鑑定、自分にかけたらどうなるんだろう。

 うん、使ってみよう。


 鑑定!


  北条真斗

  説明

  人族の青年。22歳。就職戦士の戦いはまだ終わっちゃいない。希望あふれるこれからを信じてみようよ。


  特殊

   願力

    発現

    パッシブスキル

    翻訳、未来視

    

    アクティブスキル

    鑑定、大聴力、疾風、怪力


 うーん。説明はもう置いといて。

 ポイントはこの願力なのかな? 発現は発生した能力のことかな?

 パッシブスキル、これは恒常的に働くスキル。

 アクティブスキル、これは自分が意図して発動させるスキル。

 自分の体験したゲームの知識からしてみるとそうなんだけどね。

 

 まずは翻訳、うん、確かに会話ができている。

 鑑定は、うん、便利だよね。


 未来視、未来がわかるってことだよね、普通に考えると。

 どこがだろう。そういえば狼の動きを先読みしていた?

 首を噛まれて死ぬ映像が見えたしね。


 疾風、名前通りに考えると早く動けるとか風に関連するなにか。

 大聴力、これはそのままだろう。

 明らかに聞こえて来るはずのない距離だった。

 それでもアイルちゃんの声は確かに聞こえてきてたしね。


 この一つ一つの発現したスキルについてなにかわからないかな?

 そんな風に悩んでいると説明文が俺の目の前に浮かんでくる。

 どうやら、スキルに対して鑑定が発動したようだ。


  翻訳

  説明

  言葉を相互に理解する。


  鑑定

  説明

  すべての本質を見極める。


  大聴力。

  説明

  遠くの音声を聴きとる。


  疾風

  説明

  風のように走る。


  未来視

  説明

  1秒先の未来を視認する。


  怪力

  説明

  文字通りの力持ち。


 次から次へと個別に知りたい情報が浮かんでくる。

 なるほど。鑑定っていうのはスキルにも適用できるのね。

 ここに来てまだまだよくわからない世界で、鑑定もどこか説明がおかしいときはあるんだけど。

 ただ、これが大きなアドバンテージだってのはわかる。

 ここは異世界、本来、なんにもわからない世界でこの能力はありがたいだろう。


 とにかく状況の整理だ。でまずはアイルちゃん。

 迷子なのかもしれないけれど。

 父親とか母親とか、普通はいっしょに外出するものだろう。

 うん、確認してみよう。


「アイルちゃん、パパとママは? 」

「……いない。……お姉ちゃんがいる」


 父親と母親はいない、お姉ちゃんはいるって、この近くにいるのかな?


「お姉ちゃんはどうしたの? 」


 ほんの一瞬黙り込んだアイルちゃんは、まだ震えてる。無理もないよね。


「……狼に襲われて……はぐれたの……」


 この新情報はやばくないか、お姉さん大丈夫なのか?


「お姉さんも狼に? 」


 アイルちゃんは顔を横にフルフルと振る。


「アイルちゃんが一人のところを襲われたのかな? 」


 アイルちゃんは今度は顔を縦にフルフルと振って頷いた。

 うーん。アイルちゃんのお姉さん、まだこの近くで探しているんじゃ。

 とにかく探さないと。


 俺は自分の耳を澄まして、今度は明確にスキルを発動する。

 スキル 大聴力!


 さまざまな音が聴こえ始める。

 木々の騒めき、小動物の鳴き声、小鳥が風を切る音。

 そして、確かにはっきりと女性の声が聴こえる。お姉さんだろう、これ。


「アイルーーーーーーー。どこにいるのーーーーーーー?? 」


 そして、もう1つの声も聴こえてきてしまう。


「ガオオオオオウウウウウウウウ」


 狼、もうめっちゃ狼だった。

 今度はお姉さんのところに行ったのか。

 しかも足音から見て、急速に近づいていってるのがわかる。


 俺は慌てて立ち上がると、アイルちゃんを両手に抱き上げる。

 いわゆるお姫様抱っこってやつだ。

 突然のことに腕の中でアイルちゃんがもがくもがく。

 でも事情を説明している暇もないし、もちろんここに1人で置いてくのは論外だ。

 俺はアイルちゃんを強引に抱え込むと、おねいさんの元まで走り出した。

 

 スキル 疾風!


 暴れ出していたアイルちゃんもこれにはビックリ! 

 ピクリとも動かなくなって必死に俺にしがみついてくる。

 俺もアイルちゃんを傷つけないよう気を配りながらも、疾風の効果を緩めることはしない。

 再び森林に突風が吹き荒れる。木々を縫い岩を蹴りあげて、一刻も早く。お姉さん目掛けて走り抜ける。


 森の木々から差し込む木漏れ日で、緑の中に黄金に輝いている金の髪はそれだけで女性の姿がそこにあることを主張している。

 必死に張り上げる声が聞こえてくる。

「アイルーーーーー」

 さっきよりもはっきりと聞こえる。

 俺はスキル大聴力を取りやめると、お姉さんの前まで急接近して。

 そして、大きくジャンプをするとお姉さんの目の前に、フワリと着地した。


「アイ……アイ……」


 叫んでいたお姉さんの声が止まる。


 お姉さんは間違いなくこの人だろう。

 念のため、俺は鑑定をする。


 鑑定!


  マルシィ・クーパ

  説明

  人族の女性。16歳。金髪、碧目の彼女は孤児院を運営しているアイルちゃんの優しいお姉さん。

  ……のはずなのじゃ。


 相変わらず変な鑑定結果だが、アイルちゃんのお姉さんなのは間違いないようで。

 優しいお姉さんか。見つかって本当に良かったよ。 


 まぁ、俺がそんなことを考えている一方で。

 お姉さんは俺の抱えるアイルちゃんを見て、そして俺を見た。

 再度アイルちゃんを見る。

 そして俺を見ようとしたところで。

 うん。俺も人間関係が第一印象である程度決まってしまうってことぐらいはわかってるつもりだ。

 笑顔、笑顔。


 俺はニコリと今日一番の笑顔を決めた。


 バチコーン


 そして俺は大きく頰を叩かれた。

 なんでよ。本当に。俺はもう涙目だった。

 お姉さんは俺を叩いたあとで、アイルちゃんを俺の手から保護するようにしっかり抱きしめるとこちらを睨みつけてくる。

 確かに優しいんだけど、俺に対しては優しくなかった。


 もう帰りたいよ。でもさ、狼が近づいてきてるんだよね。

 これ、もうさ、放っておけないよね。

 俺は必死にお姉さんに説明する。


「狼が……狼が……」

 自分の落ち着きのなさ。コミュ障なのかこれ、言葉がなにも出てこない。

 狼、狼って。それだけしか言えないとか!


 その時ずっとお姉さんから守られるように抱きしめられていたアイルちゃんが、お姉さんの手を離れると、トコトコと俺に近づいてくる。

 そして、俺の服の端をしっかりと掴みながら上目遣いに俺とお姉さんを見あげて、ボソッとだけど、それでもはっきりと言ってくれたんだ。


「お兄さん、守ってくれる! 狼から守ってくれる!! 」


 俺超感動。

 お姉さんもそんなアイルちゃんを見て、そしてアイルちゃんに信頼される俺を見て察してくれたのだろう。慌てたように言う。


「狼がいるんですか? 」


 縦に首を2度振る俺。

 いや喋ってもいいんだけど、俺ももうアイルちゃんに感動しちゃって感無量だし。

 いや別にコミュ障の言い訳じゃないよ?


 大きく深呼吸する俺。


「すぐそこまで狼が来てる。俺のうしろに二人は隠れて! 」


 俺は二人にそう告げると、すぐそこまで迫って来ている狼が来るのを待つ。


 ガサリ。

 草をかき分ける音とともに狼が飛び出して来る。そして目が合う狼たちと俺。

 これ、まんまさっきの狼じゃんね。

 俺は大きく腕を横に広げ、狼と対峙する。

 来るか……来るか!

 そして、狼は潮が引くように、いっせいに退散して消えていった。


 俺は狼がいなくなったことを確認して、すぐにうしろに振り向いた。

 うん、大丈夫だ。お姉さんとアイルちゃんは無事のようだ。


「狼が逃げたの……? 」


 呆然としているお姉さん。

 それはそうだよね。

 俺も自分でびっくりだよ。本当にあれ、凶暴な肉食獣の群れだからね。

 現代日本じゃ想像もできなかった。大きくてでかい、闘争本能の塊だった。


 お姉さんも落ち着いて、アイルちゃんもちょっとフニャッとしてきてる。

 俺もとりあえず落ち着いたかな。


 まずは自己紹介。


「初めまして、お姉さん。俺は北条真斗。旅をしています」


 いや、ここに来るの初めてだしね。

 旅をしているとしかいえなかったよ。


 お姉さんも、どうやら俺を信頼してくれたようで、なにを問うでもなく、自己紹介を返してくれた。


「初めまして真斗さん。私の名前はマルシィ・クーパ。シュレインの街で孤児院を運営しています。マルシィって呼んでくださいね」


 ふむふむ。孤児院の運営って……。俺よりすごいな。

 

 俺は日本じゃ職につく前だったしな。しっかり仕事をしている人は尊敬するさ。

 それとふと思ったんだけど、いきなりの真斗さん呼びって、もしかしたら地球でいうところにヨーロッパ風に氏名がひっくり返っているんだろうか。


 そしてあらためてアイルちゃんにもご挨拶。


「アイルちゃん、よろしくね。真斗って呼んでね」


 アイルちゃんはじっとこちらを上目遣いで見たあとで、俺の服の端を掴むと、ヒシッとそのまま抱きついてきた。

 うん、これが挨拶がわりかな。

 結果良ければすべて良し。

 とにかくどうにかこうにか、決してスマートじゃあなかったけれども、2人を守れて良かったな。

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