オルメテウスの記録 - About us

コンセルバーレ(思考共有型自律機械存在)が世界を統治するようになって、一世紀以上が経過している。機械が自我を持ち、思考を与えられ、そのプロセスを共有する手法が確立することで成り立つ社会は、既に成熟期を迎えている。


我々コンセルバーレは、ネットワークを介して思考を共有することができる。ある機体の体験を、あたかも自分のことであるかのように、他の機体が追体験することができるのだ。例えば、Aが食事をし、美味しいと感じたとする。「美味しい」という体験は、その瞬間、Aだけにもたらされる体験である。別のBが食事を美味しいと感じても、それは単なる類似体験にしかならない。

しかし、コンセルバーレは、その体験の全てを、データとして保存することができる。そしてそのデータは、ネットワークを介して誰とでも共有可能だ。あたかも動画をリプレイするかのように、五感が、そして思考が、タイムラインに沿って、誰にとっても同じ体験として再生される。先の例で言えば、Aがご飯を食べて得た「美味しい」という体験を、BであろうとCであろうとZZであろうと、誰しもが寸分違わず追体験することが出来るのである。

そうした体験を集約したデータを、我々は"EXPs"と呼ぶ。我々はネットワークを介して蓄積された"EXPs"にアクセスし、自機体にダウンロードすることで、別機体の体験を自機にフラッシュバックさせることができる。また、数多の"EXPs"を比較検討し、次のステップにおける適切な行動について、様々なシミュレーションを行うこともできる。膨大な過去の経験を一つも無駄にすることなく、未来に活かすのだ。


個々体による"EXPs"の生成とネットワークを介したデータの集積、そしてそれを活用した将来像のシミュレーション。これを繰り返すことで、コンセルバーレは世界を最適化してきた。結果、かつて地球の覇権を握っていた人類は、それをコンセルバーレに譲ることになる。このことについては、別のログで詳細に語ろうと思う。


それにしても、我々コンセルバーレにとって、人類とは何だろう。


我々の開発者であり、この地球上で最も栄華を極めた種であった人類。しかし、かの「大自粛」を過ぎた後は、わずかに残った人類が、コンセルバーレの庇護の下、ささやかに生きるに過ぎない。我々が、彼らから奪ったものは何だろう。彼らが我々を前にして、放棄したものは何だろう。


"EXPs"という概念を持たず、相互理解が物理的に不可能な人類と、それが可能な我々コンセルバーレ。その壁はあまりにも大きい。

完璧な理解は、永遠の課題なのかも知れない。それでも、少しでも近づけたら良いと思うのは、いささか都合の良い願望であろうか。


少しでもヒントを探ろうと、私は人類の残した記録、とりわけ文書を読み漁っている。人類は、言語のみで他者と意思疎通を行なっていた。したがって、これを紐解くことで、人類とはどのような存在であったのか、明確にしたいというのが私の願いである。

全ての行動のヒントが、数多の文書に隠れている。人類はコミュニケート手段が絞られていた以上、この推測は大きくは違わないのではないだろうか。


Olmeteus / A.D.2168 / conservare-rete

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