レモンブルー
「いいじゃあない、恋に恋していたって。それでも貴方が恋い焦がれている恋が私に向いていることは変わらないのでしょう?」
彼女は膝より三センチほど長いスカートをなびかせて私を上目遣いに不敵に見つめた。
「でも、わたしたち…」
一生、結ばれることなどないのよ。わたしの口からそう出ようとした言の葉たちは柚葉さんの唇に食まれて溶けて空中に霧散してしまった。質量というのは保存される。いくら溶けてしまっても、無くなったように見えても、冷やせば水になって出てきて、氷になって私達の行く手を阻むというのは、わかっている。
「それでもいいの。今愛し合っているのは私達よ。他に誰の意志が必要なの?」
幾度唇を重ねても、柚葉さんの唇に私の使っているかわらけ色がかった紅色の口紅がつくことはない。彼女が塗っている透明の薬用リップは私の唇の上にまだらにかぶさったというのに。
「卒業しても貴方の心に居座りつづけたいなどと出過ぎた思いは抱いていないつもりよ。」
「この刹那を貴方と過ごしたいと考えること自体きっと悪いことなのでしょうけれど。」
晩秋のつんとした寒さの香りがする風が檸檬の葉を撫でてさざめかせるような、柚葉さんの声はそういった種類の硬さを帯びて凛と響く。
小説未満 幡良 亮 @northpd17
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