小説未満

幡良 亮

憧れの先のペールオレンジ

あなたに殺されたいと思っていた私も赤子の頃と同じくらい昔に過ぎ去り、新しいあなたにも殺されたいと思っている。だからあなた達の発する「ずっと」を必要以上に、夜闇の中の海の濃紺よりずっとずっと深く、疑ってしまうの。疑いはいつしかするすると紐に変わりあなたの心を縛る。紐に縛られた私の重い重い心をぶら下げたあなたの心臓は重みに耐えきれなくなる前に紐を切ろうとしてしまうでしょう。ナイフで切れるような甘っちょろい紙テープの布じゃない、細い麻縄を何千本も撚り合わせて作った紐。あなたは自分の心臓が耐えきれずぐちゃぐちゃに割れてしまう前になり振り構わず、麻縄にナイフで切れ込みを入れ、素手でちぎって、足で踏んで、重みが食い込むのを遅くするために私の心を削り取って軽くしようとさえするかもしれない。でも私の心なんて削り取れない。私の心の外側はダイヤモンドでできている。傷つきやすいのは、私がそのダイヤモンドの内側の、こんにゃくゼリーだとか、食パンくらいやわっこい部分を自分でナイフでずたずたにしているからに他ならない。そうこうしてるうちに、あなたが紐が切れないなら持ち上げれば負担が減らせると気づいたときに、私は自分のダイヤモンドの一片を伸ばして自分から紐を切って、深い濃紺の奥に、一人で沈み込む。あなたは追ってこない。追ってこないのだ…。私の心臓にぶら下がる空間ならいくらでも空いているというのに、そこにぶら下がろうと言う人はいない。私の心臓も誰かの重みを感じ取ってその重みに身を軋ませたい。大きければ大きいほどよい。私は自分の心臓が潰れることなど厭わないというのに。

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