少しだけ仲良し

「あらあら。どうやって、ここに入ってきたんですか?」






 ここも塀に囲まれている。高さも結構ある。梯子を使うにしても、無理がある。大人でも塀の上から飛び降りたら骨折するだろう。






「教えるもんか!」






 ぷいっと顔を逸らされた。


 教えてくれないことは分かっていたので、気にすることなく、次の質問を投げる。






「どうして、ここに来たんですか?」






 今度は素直に答えてくれた。






「ここ、たまにだけど、試作の魔法機を試しているんだ! その見学」




「そうですか。ですが、今日は出ていませんよ」




「ちぇっ。運が悪いぜ」






 唇を尖らせるアルファに、アンジェリカは問う。






「そんなに魔法機が好きなんですか?」




「魔法機のすごさが分からないんなんて、遅れているなぁ!」






 からかっている口調だ。乗る義理もないので、淡々と述べる。






「見たことがないので、すごさは分かりませんね」






 アルファが驚愕し、声を張り上げた。






「うそっ! 王族の姫さんじゃねぇの!?」




「ずっと、他国で監禁されていたので」






 目をぎょっと剥いていたのが一変、きょとんとした顔になった。さっきから表情がころころ変わるなぁ、とアンジェリカは半ば感心しながら眺める。






「かんきんって、なんだ?」






 監禁の言葉が分からなくて、きょとんとしていたらしい。


 この質問にも、淡々と答えた。






「同じ部屋に、ずぅっと閉じ込められることですよ」




「便所のときも? 飯食べるときも?」




「ええ。部屋から、一歩も外に出してもらえなかったです」




「どれくらい、かんきんされてたんだ?」






 ぐいぐいと聞いてくるな、と思った。この子の性質か、または子供故か。


 別に辛い過去でもなければ、隠すこともないので、本当のことを教える。






「ざっと七年ですね」




「七年!? おれがまだ一歳のときから、ずっと!?」




「はい。ずっと」




「うわ~……」






 八歳児が引いている。


 フクバラ王、八歳児が引くくらい、あなたの行いは屑でした模様。






「おれだったら、ぜったいに逃げる」




「窓もない、部屋の前には見張り番。そして建物の構造が分からないので、逃げてもすぐ捕まってしまうでしょうね」




「えぇ! 窓もなかったのかよ! 難易度たけぇ!」






 ものすごく驚いた後、アルファは急に哀れんだ目でアンジェリカを見据えた。






「姉ちゃん、かわいそうな人だったんだな」






「可哀想でしょうか?」




「自分でかわいそうって、おもわねぇの?」




「それが当たり前だったので」




「そういうもんかぁ」






 あっさりと納得した。案外素直な性格なのかもしれない。






「アルファ君、せっかく来たのですし、わたしとお話しませんか?」




「おはなし? おれは忙しいんだぞ!」




「残念です。美味しいお菓子がここにあるのですか」






 隣に置いてあった籠をちらり、と見せびらかすと、アルファの目つきが変わった。お菓子という誘惑が相当効いたのか、アルファの口端から少しだけ涎が垂れている。




 そして、籠から目を逸らし、腕を組んだ。






「そ、そこまで言うなら、付き合ってやるぜ」






 そう偉そうに言いながら、視線はちらちらと籠に釘付けだ。


 アンジェリカはほくそ笑みながら、隣にスペースを空けた。

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