エマ・トリューゼ②

「お久しぶりですわね」






 エマ・トリューゼが、ヘルツに話しかける。






「お久しぶりでございます。トリューゼ嬢」




「そうですわね。かれこれ、一年半ぶり、かしら」




「おや、もうそんなになりますか。いやはや、時が経つのは早いものですなぁ」






 ヘルツが笑う。ヘルツからアンジェリカへ視線を移し、エマ・トリューゼはアンジェリカを睨めつける。アンジェリカは、微笑みを崩さず、エマ・トリューゼを見つめ返した。






「……貴女は?」




「お初に掛かります、トリューゼ様」






 アンジェリカは笑みを一層深くする。






「クルト様の婚約者の、アンジェリカと申します」






 エマ・トリューゼの顔が驚きに満ちていく。おや、とアンジェリカは首を傾げる。




 ヘルツを見たら、自分が誰なのか予想がつくと思っていたが、エマ・トリューゼにとっては予想外だったらしい。






「あ、ああ。名乗り遅れて申し訳ありません。わたくしは、エジット・トリューゼ伯爵の娘、エマと申します」






 すぐ我に返って、エマ・トリューゼが慌てて、ドレスの端を摘まんで一礼した。






「あの、どうしてこちらに?」






 エマ・トリューゼが窺いながら問うてきた。






「貴女から手紙が来たものですから、貴女に一刻も早く会ってみたくて、来ちゃいました」




「でも、いきなり来られても」




「いつも突撃訪問なさっていた、と聞いておりますが」






 エマ・トリューゼが、ぐっと詰まる。


 自覚はあったらしい。






「それに、今日くらいしかゆっくり時間が取れないので、なら早めにしたほうがいいな、と思いまして。もしかして、どうしても外せない用事がありましたか?」






 首を傾げてみせる。


 エマ・トリューゼは、眉間に皺を寄せていたが、やがて顔を俯かせ、小さく溜め息をついた。






「とくに、こちらもこれといった用事がございません。買い物する予定でしたけど、明日でも出来ますし」




「では、ここで話すのは、他のお客様にも迷惑が掛かりますし、移動しましょうか。ベルベット」




「はい、なんでしょうかぁ?」




「この辺で、落ち着いて喋れる場所はありますか?」




「でしたらぁ、イーワイトっていう店がありますよぉ。貴族様に人気のお菓子と紅茶がありますよぉ」




「では、そこに行きましょう。トリューゼ様も、よろしいですか?」




「か、構いませんわ」






 憮然としながらも、トリューゼはしっかり頷いた。傍らにいた侍女も戸惑いを隠せていなくて、視線があてどなく彷徨っている。






「では、行きましょう。案内、よろしくお願いします」




「はぁい」






 ベルベットの後に付いていく。エマ・トリューゼと侍女たちも、渋々と付いてきた。




 ちらり、とエマ・トリューゼの護衛らしき男を見る。


 彼も付いてきているが、エマ・トリューゼと侍女たちと違って、淡々と無表情に付いていく。




 その瞳が無機質に見えて、アンジェリカは、ロボットみたいな人、と視線を逸らした。

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