見守る二人

「旦那様。お二人が街に降りたみたいですよ」


「それは良かった、良かった。僥倖、僥倖」



 二人が門を出たのを、窓から見ていたヘルツが、優雅に朝食を食べているロタールに報告する。その報告を聞いたロタールは、満足げに頷いて、コーヒーを飲んだ。


 ロタールは、研究に夢中になると、飲食を忘れがちになるが、朝食だけは毎日食べるようにしている。朝は一人で、のんびりと食べたいということなので、いつもクルトと違う時間で朝食を食べているのだ。



「上手くいっているようで、何よりだ。このまま、少しずつ仲良くなっていけば、いいんだけどなぁ」


「あの方が、自分からこの地に留まってくれるように、でしょうか?」


「貴族として、それが模範解答だろうね」


「おや。違うのですか」



 ヘルツがわざとらしく、驚く。



「僕個人としては、クルトの目的を果たしてほしいな、とは思うよ。その為に、彼女を見極めないといけない。そうなのか、そうではないか」


「その為に、クルト様は人より二倍……いえ、四倍の努力を重ねてきましたからね。私としても、彼の目的を果たしてほしいと、願っております」



 思い出すのは、努力しているクルトの姿。


 机に齧り付くほど、独学で様々なことを学び。

 慣れない剣を振り回しては、怪我をして。


 たとえ周りから馬鹿にされても、それに惑わされず、何度も立ち上がった姿を見るたび、胸が穿って。


 そんな姿を見てきたからこそ、ヘルツはクルトの願いが叶うその瞬間を、ずっと願っていた。


 主人であるロタールも、そう思っていることだろう。



「でも、クルトはけっこう奥手なところあるからなぁ、僕たちが王都に帰るのは、まだまだ先かな」



 ここにも研究室はあるのだが、王都には魔法研究所があり、そこでロタールは個人の研究室を持っている。あそこの方が設備が良いし、何かあった時に対処しやすいのだ。


 だから、王都に早く戻りたいのだが、まだ先になりそうだ。



「あははは。そうですな。考えすぎるところもありますしね」


「本当に、それだよ。直感に頼らないんだから」


「おそれながら旦那様。貴方は直感に頼りすぎですよ」


「頼ってないよ。確信だよ」



 胸張って威張るロタールに、ヘルツは思わず苦笑する。

 こういうところは、子供の頃から変わっていない。



「クルト様は、ちゃんと間違わないでしょうか。私もお手伝いをしたいところなのですが」


「君、なんだかんだでクルトに甘いねぇ」



 ロタールは目を細めて、はっきりとした口調で言った。



「彼女を見極めるのは、僕たちじゃない。クルトしかできないんだ。僕たちは、暖か~い目で見守ろうじゃないか」

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