ヴァーランド散策

 ヴァーランスは、ヴァーランス焼きという、食器が製造されている街なのだという。王宮でもそのヴァーランス焼きが使われていることもあり、ヴァーランス焼きを中心とした特産品で、発展した街なのだという。


 他の特産品は、石鹸とエバンという花があるらしい。ただ、ヴァーランス焼きが圧倒的に有名だ。


 ヴァーランス焼きは、王族や貴族だけではない。庶民でも手が出せる程の価格の物もあるし、他国にも出品されているようだ。


 また、この国で最も美しい街の一つとして有名なので、観光地としても有名らしい。


 ただ今は、観光シーズンではないため、観光客がいない。


 庶民向けのヴァーランス焼きが売っている店を眺めながら、隣にいるクルトに話しかける。



「貴族用と庶民用とは、どう違いがあるのですか?」


「材料の違いと、色絵の豪華さだな。貴族用のヴァーランス焼きの材料は、一級品を使っているし、色絵も派手で色も鮮やかだ。対して、庶民用は、材料の質はいいが、貴族用の物と比べるとかなり質が下がっている。模様もシンプルだな」


「たしかに、屋敷の物に比べると、シンプルですね」



 屋敷の食器は、華美ではないが、この庶民向けのヴァーランス焼きは、もっと地味だった。アンジェリカ的には、これが落ち着く。


 そういえば、王宮の食器はもっと華美だった気がする。



「王宮用と一目で分かるのは、バラスカの花があるかどうかだな」


「バラスカの花?」


「観賞用の大きくて、派手な花だ。王妃が気に入っている花なんだ」


「そうなんですね」



 王妃とは、一度だけ会ったことがある。美しい人だったが、吊り目でにこりとも笑わない、キツそうな感じの人だった。だが、言葉に棘がなかったので、見た目ほど悪い人ではないだろう、とアンジェリカは勝手に思っている。


 店から離れ、アンジェリカは、きょろきょろと辺りを見渡す。


 石造りの家と塀は、素朴な感じが出ている。日本ではまず見ない光景で、夢のまた夢だった海外旅行に行っている気分になる。


 谷の頂上にあるので、開けた場所に出ると、周りの景色を見下ろすことができた。そこからの景色で、この街が崖にへばりついた街ということが、分かる。ここに来るときは見ていなかったが、眼下には畑が広がっていた。


 だから、坂道が多い。ほぼ引き籠もりの自分にはキツい。クルトはそれが分かっていてが、設置されている休憩スペースにちょくちょく連れていってくれた。



「大丈夫か?」


「はい……ありがとうございます」



 休憩スペースには、犬の彫像があって、その口から水が出ている。なんでもこの国は、昔から犬は人を導き、魔を祓う、と信じられているらしい。


 その水は飲める水で、手で水を掬って喉を潤す。ぬるいと思っていたのだが、以外と冷たくて美味しかった。


 彫像の下に受け皿になっていて、仕組みは知らないが、噴水みたいに受け皿が水で溢れかえることはない。


 受け皿の縁にラルが立っている。ちらちら、と期待した目で、クルトとアンジェリカを見た。


 クルトは、しょうがない、と溜め息をつきながら、手で水を掬い、その水をラルの上に少しずつ落とした。ラルは気持ち良さそうに目を細めながら、身体を掻く。



「ラルは、水浴びが好きなんですか?」


「ああ。ヘルツが如雨露で花の水やりをしていると、自分にもしろ、というばかりに、アピールする。スリスはキレイ好きだが、コイツはとくにキレイ好きなんだ」



 尻尾もキレイにすると、ブルブルと水気を払い、アンジェリカの肩に登っていく。



「あら。もう乾いていますね」


「そういう体毛なんだろうな」


「そういえば、梟もいると聞いたのですが」


「シャンには、まだ会っていなかったのか?」


「はい」



 梟の名前は、シャン。覚えやすくて、いい。



「近いうち、会わせるよ」


「楽しみです」



 その時、怒声が聞こえた。立入禁止って書いてあるだろうがぁガキィ!! と、声がはっきり聞こえるくらい、大きな怒声だった。



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