殺伐とした出会い

「?」



 一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 王を斬り裂く一閃の銀色の光。飛んでいく王の首。首があったところから噴き出す血飛沫。まるで間欠泉だ、と思った。王の身体が崩れ落ちる。


 王の後ろから現れたのは、黒衣を纏った黒髪の青年だった。


 吊り上がった目に均整の取れた顔。凛々しい印象を与える顔立ちは、美形と言うべきだった。


 黒曜石のような瞳は、アンジェリカに郷愁を湧き起こさせた。

 黒髪に黒い瞳。それは、故郷の色だ。久々に見た、故郷を思わせる色だった。



「大丈夫か?」


「あ、はい」



 青年に話しかけられて、アンジェリカは頷いた。


 視線を落とす。血の池を作っている王だった男の身体。血の池はアンジェリカの足許まで及んでいた。返り血が服に付いていることに気付いた。


 それを気にせず、視線を移す。無造作に転がっている王の首。こちらに頭を向けていないので、どのような表情をしているのか分からない。別にどうでもいいが。


 なるほど。王はこの青年に首を刈られたのね。


 状況を把握し、再び青年に視線を戻す。



「あなたは、この国にとっての敵国の人ですか?」


「そうだ」


「国の名前はアメリスカ、という名前で間違いないでしょうか?」


「……ああ」



 青年が少し困惑気味に頷く。



「俺からも質問いいか」


「わたしが答えられることなら」


「この男はフクバラの国王で間違いないか?」


「フクバラ? この国の名前でしょうか?」


「そうだ」


「でしたら、間違いないです」



 フクバラ。それがこの国の名前だったのか。世界の名前は教えてもらったが、この国の名前までは教えてもらえなかったのだ。



「もう一つ、いいか」


「はい」


「お前は、何者だ?」



 きょとん、とアンジェリカは青年を見据える。

 知らずに助けたのか。敵国の女かもしれない者を。


 いささか驚きながら、アンジェリカは笑んだ。



「聖女、と呼ばれる存在らしいです」


「聖女だと?」



 男の顔色が変わった。聖女は有名な話らしい。



「それは本当か?」


「さあ? この世界に召喚された直後に、少しばかり聞いただけですので、そうらしいとしか言えません。残念ながらそれを証明する術も知りません」


「召喚、だと?」


「はい。この世界にとっての異世界から、意味もなく召喚されました」



 茶目っ気に話す。

 そういえば、まともな会話は久しぶりである。グレハムと話して以降、まともな会話などしていなかった。


 青年はしばらく、アンジェリカを凝視した。目を見開き、ずっと驚いている。



「あの?」



 さすがに悪意がないとはいえ、ずっと視線に囚われるのは居心地悪い。話しかけると、青年はハッとなった。



「……とりあえず、お前、いや、アンタを保護する。付いてこい」



 と、言いながら青年は剣を下ろして、マントを脱いだかと思ったら、それをアンジェリカに着せた。



「外は寒い。そんな薄着では、風邪を引く。血腥いが、ないよりかはマシだろう」


「あら、ありがとうございます」



 たしかに血腥かったが、気にするほどでもなかった。掛けてもらったマントを羽織る。

 その間に青年は、王の首を持ち上げる。おそらく、王が死んだ証拠を敵味方共々見せつける為だろう。



「名はなんという?」


「アンジェリカ、と呼ばれています」



 そうか、と青年はそっぽ向いて歩き出す。


 そちらは名前を言わないのね。


 内心溜め息をついて、アンジェリカはその後を追う。

 名前はその内分かるだろう、と思って。

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