第35章 信頼のカタチ
「そもそも、精霊機とは、なんだと思う?」
ダァトは機嫌よく、チェーザレに問う。
「精霊機は、七つの帝国の象徴……守護神だろう?」
「うむ。そういうことになっておる、か」
違うのか? と、問うチェーザレに、ダァトは首を横に振った。
「詳細は機密事項なので言えないが、それは
詳細は機密事項だが。と、再度前置きをして、ダァトはチェーザレに口を開く。
「元来、精霊機は
「どうでもいいのだ。本質は、精霊機と其れに宿る『魂』が、『創造主再臨』まで存在していれば我としては問題はない」
「……そして行われる、『最後の審判』、か」
物分かりが良くて助かる。と、ダァトは渋い顔のチェーザレに笑った。
◆◇◆
腕がちぎれ飛び、義足がバラバラと崩れ……しかし、崩れた側から時間が巻き戻るかのように、元の状態に戻る。
ダァトの言葉通り、攻撃を受けたところで
しかし。
激痛に顔を歪め、ユーディンは座り込む。
「偽りの操者。貴公への試練は『
答えって、なんだよ……滲む涙を袖でごしごしと擦り、ユーディンは剣を構えた。
いくら血を流そうと、
それは、つまり。
(ダァトの言う、『偽りの操者』。……試練を受ける対象は、
それはきっと、暗に自分がした
ユーディンがそれを、剣で受け止める。
ギリギリと押し合いながら、ユーディンが口を開いた。
「あのね、アックス。……アイツが君に言ったことは、本当」
余が『人間』以上に、『精霊』や『神』なる者を
どくどくと血が流れる、
精霊の加護が無いことを見抜かれ、思わず
吹き飛ばされたユーディンは、しこたま背中を打ち付け、呻く。
衝突した衝撃で、グラグラと視界が揺れるが、それでも、ユーディンは剣を杖に、立ち上がりながら口を開いた。
「ボクは……ボクたちは、精霊や神様を信用しない。精霊はボクを嫌って、ボクに加護をくれなかった。だからボクは……ボクたちは、ボクたちだけで強くならなきゃならないんだ……」
母を喪い、両足を失い──
でもね……と、ユーディンは剣を手放す。
カランと転がる音に、
「
ごめんなさい。と、ユーディンは
抵抗され、
「……試練、合格かな?」
ザラザラと崩れる壁と、黒から金色に戻る、腕の中の
アックスは糸が切れたように気を失ってはいたが、出血も止まり、傷も少しずつ、綺麗になっていく。
普段は平気なのだが、さすがに満身創痍でアックスは支えきれず、ユーディンはそのまま座り込んだ。
寝顔を見つめながら、ユーディンはアックスに呟いた。
「ゴメンね。アックス。ボクの方が、
◆◇◆
「精霊の加護は、何も嫌われているから与えられないということは無い」
「そうなのか?」
チェーザレの言葉に、ダァトは頷いた。
「では、問おう。貴様は自分より「弱きモノ」を守るのに、抵抗はあるか?」
「無いな。弱きを助けるのは、騎士として当然の行為」
では、逆に……と、ダァトは言う。
「自分が畏怖する相手は?」
「……場合による」
で、あろう? ダァトは満足そうに笑う。
「そういうことなのだ。精霊にとって、大部分の人間は、愛おしく守らねばならぬモノではあるが、中には、精霊自身が加護を与えるなど、畏れ多いと感じる
「……陛下が、その例である。と?」
ダァトはうなずく。
「もちろん、正真正銘精霊に嫌われて加護が無いという者もいるが、当代のフェリンランシャオ皇帝に限って言えば、間違いなく、精霊たちの、畏怖の対象だ」
ところで……と、チェーザレがふと、思ったことを口にした。
「その『精霊』と、精霊機の精霊……あのエノクとか言ったか? ヤツらは、もしかして、
「その通り。近しい存在ではあるが、
ダァトの言葉に、「合点がいった」と、チェーザレもうなずく。
モルガの証言や、過去の記録で『精霊』と一括りにされてはいたが、なんとなく、違うモノではないかという予感はしていた。
しかし、次の言葉は、さすがにチェーザレの予想外。
「
「ゆ……幽霊?」
左様。ダァトはうなずき、チェーザレの背後に立つ二人──ユディトとイザヤを見つめた。
二人は顔を見合わせると、苦笑を浮かべながら、「コイツに言ってもいいよ」と、頷く。
二人の反応に、ダァトは小さくうなずき、チェーザレに口を開いた。
「
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