第二部

第26話 カッサンドラ・1

RE-ANIMATOR

ACT.7【カッサンドラ】




―1―




 アタシはカッサンドラ。

 自分で言うのも何だけど、綺麗な女だと思うよ。

 鏡に映した自分の姿に見惚れる事だって、あながち、間違いじゃないと思えるぐらいに綺麗なんだから。

 量のある艶やかな黒髪は腰まで伸び、白い肌との対比は、男に言わせれば『昼と夜の女神のよう』な美しさ。

 額は聡明さを思わせる空間を持ち、鼻はさほど高くないけど形は抜群。青みを帯びた黒い瞳に見詰められたら、気絶する男だって居るんだから。

 常に笑みを刻む唇に、思わずキスしたくなるほどの柔らかそうな頬。

 少女と妖女が微妙に絡み合ったアタシの顔。

 エキゾチックな美貌だって、よく言われるけど、あんたはどう思う?

 ふふ。

 悪くないでしょう、アタシって。

 でも、ね。

 アタシの最高の魅力は、顔や身体――言い忘れていたけど、スタイルも中々のモノでしょ?――じゃない。

 そう、この声だ。

 歌声は一流。

 歌姫カッサンドラって言ったら、この階層都市500階層の中でも、結構有名でしょ?

 アタシの声は、歌う為だけじゃない。

 アタシに興味ありげな視線を送ってくる紳士様をお誘い申し上げるのにも使うのだ。

 そう。

 アタシは娼婦でもある。

 アタシはカッサンドラ。

 歌姫にして娼婦。

 可憐なる妖女? それは少し恥ずかしいねぇ。

 



 アタシには夢がある。

 アタシはこれだけ美しい女だ。

 こんな、光も届かないような階層都市の下層で人生を終える気なんてない。

 空気に当たり前に血と腐臭のにおいが混じったこの階層で、人生を終える気なんてないのだ。

 上へ。

 そう、上へ行くのだ。

 1000階層より上。そこがアタシの住むべき場所。

 くだらない妄想? そう思うなら笑うといい。

 だけど。

 アタシはこれだけ美しいのだ。

 夢をみて、努力するぐらいは許されるでしょう?

 


 最上階は天国へ通じ、最下層は地獄へ通じる。

 その伝説を信じるなら、此処は天国も地獄も内包した場所。

 その場所なら、どんな夢だって叶うような気がしていた。




 アタシは歌う、誘う、笑う。

 上を――天国を、夢見て。


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