第4話 妹が教えてくれた・1
RE-ANIMATOR
ACT.2【妹が教えてくれた】
-1-
画面の中の妹は、もう抵抗しなかった。
先ほどの、鞘に入ったままのナイフで殴られた一撃が効いたらしい。
歪んでしまった鼻から血を流しながら、妹は灰色の床の上に転がっている。
固定された映りの悪い画面に、にゅっと、足が入り込んできた。
男の足だろう。
その足が、妹の腹を踏みつけた。
音はしなかった。
この映像には、音が無いのだから当たり前だ。
だが、私の耳には、はっきりと、妹が上げる蛙が潰れたような醜い悲鳴が聞こえていた。
妹は顔を横にし、血と吐瀉物が交じり合った液体を吐く。
液体の中に入っている数個の硬そうなものは、多分、歯だ。
妹は綺麗な歯並びをしていたのに。
顔立ちも綺麗だった。
しかし、歯が折れ、鼻の骨も砕かれたようだ。
もう美人とは到底言えない顔立ちだ。
可哀相に、と、私は煙草を咥えながら考えた。
画面は、床に転がる妹を中心に設定されている。
周りに数人の人間が居るようだが、どれもはっきりと映らない。
と。
画面の中に、はっきりと割り込んできた男が居る。
画面に右半身を向けている。顔ははっきりと映らないが、それでも鼻より下は画面に入っていた。
男は、手に細身のナイフを持っていた。
そして。
男は遠慮なく、妹の腹にそのナイフを突き入れた。
妹は、苦しんでいた。
腕を折られ、指を切られ、目を抉られ。
腹から出血をし、少しずつ死に近付きながら、それでももがき、生きようとしていた。
妹の、その必死とも無様ともとれる姿を、映像は淡々と映し出していた。
一時間が経過した。
妹は、全身、傷だらけだった。
もう無事な部分は何処も無い。
いや。
一箇所だけ、綺麗なままの個所がある。
妹の、器用そうな白い右腕。その右腕だけは、何故か傷つけられぬまま、現在に至っていた。
妹は、既に虚ろな瞳を虚空に向けている。
死んでいると変わらない姿だ。
私は、机の上に載ったままの煙草を手探りで引き寄せる。
空だった。
舌打ちし、ゴミ箱に空き箱を放り投げる間も、私は画面から視線を外さなかった。
画面に、新たな凶器が映る。
鉈だ。
鉈を持つ男と別な男が、妹の右腕を伸ばした状態で固定した。
そして、鉈を持つ男に何やら指示をする。
音声は無い。
だが、私は、これから行われるであろう行為の予測は出来ていた。
男が、妹の右腕のある一箇所を、とんとん、と叩き、示す。
鉈を持つ男が頷いたようだ。
妹の横に屈み込むと、躊躇いも無く、鉈を振り下ろす。
嘘みたいに簡単に、妹の腕が身体から切除された。
映像はそこで終わっていた。
地下で流通している『殺人ビデオ』と言う奴だ。
私はビデオを止め、巻き戻しを開始する。
巻き戻しの作業はビデオに任せ、机の引出しに入っていた煙草の予備を取り出した。
ふと、私の視線が、テーブルの上に載っている硝子ケースに向かった。
さほど大きくない硝子ケースだ。
15センチ四方ぐらいの、丈夫そうな硝子ケース。
その中に。
妹の右手が納まっていた。
硝子ケースに収まらなかったからか。映像の中よりもずっと短く、手首より少し下ぐらいで切断されている。
切り口を白いレースで飾られ、妹が昔好きだと言っていた血のように紅いルビーの指輪が、薬指に輝いている。
この手首を見た瞬間、私は間違い無く妹の手首だと理解した。
ビデオを見る前より先に、妹の身体の一部だと、理解したのだ。
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