第7話 さいたま\(^o^)/

(今までの俺は間違っていた)

 歴史から教えられるとはまさにこの事だ。大宮民と浦和民は元から仲良くなれっこない、なぜなら種族と背景が違うからだ。

 だとしたら、大宮の出土物をどうにかするには大宮民で結託するしかない。今まで予算の通りが悪かった理由は、間に浦和民が挟まっていたからだ。遅まきながら、この事にやっと気づいたのだった。

 浦野も同じ事に気づいたようだ。彼の方は柴崎―県知事ラインを使って東京から大学の研究員を呼び込もうとしている。

 大谷の方は大宮の土建屋・黒須さんと、埼玉大学のA教授を頼る事に決めていた。偶然にもA教授が大宮民であることをついさっき知ったからである。

 浦野は浦和郷土史研究会を、大谷は大宮郷土史研究会を焚きつけて、署名運動を始めた。すなわち、オリンピックを辞退して、浮いたカネでさいたま市中全土を発掘調査しようというわけだ。

 浦和民も大宮民も、相手に負けたくないという潜在意識を大いに刺激され、署名運動はやがて大きなうねりとなった。

大古里地区で出土した巨大な船が実は真っ二つにわざと割ってから沈めた祭祀用の船だと知れた時、大宮浦和双方とも、興奮に沸いた。

 どうやら渡来系(浦和民)は船を割って埋めてまじないをしたらしい。ひょっとしたら渡来系は渡来系だけで結束しようという決意の表れかもしれない、と言いだす学者も出てきた。あるいは「土蜘蛛を平らげる(縄文人を制圧する)」ためのおまじないかもしれない。

「つまり太古の昔から大宮民と浦和民はいがみ合ってたんだよ」

そんな穿った見方をする郷土史家も少なくは無かった。

 そんな中、開催されたのがさいたま市長選であった。金満オリンピックを返上し、浮いた予算でさいたま市のルーツを探るべくきちんと発掘調査、後世に残そうと主張する大清水と、それじゃ困るという中央政府の息が掛かった元政権与党国会議員の落下傘候補との一騎打ちであった。

 もちろん、さいたま愛あふれる大清水の圧勝である。金満商業オリンピックより、自分達のルーツを探る発掘調査の方をさいたま市民は選んだのであった。

 オリンピックは急きょリオデジャネイロでやる事になったが、さいたま市民にはもはやどうでもいい事だった。国威発揚など遠い世界からの押し付けに過ぎない。それよりも、互いがずっと仲悪かった理由を確認したかった。本当に浦和民と大宮民はアイデンティティがまるで違うのだろうか。

 その答えは地中深くうずもれている古代からの出土物からしか得る事が出来ないが、大宮民も浦和民も「海の民・山の民」という括り方で腑に落ちているのだった。

 都合三選目の大清水さいたま市長は当選直後、公約通りにさいたま市全域を史跡指定にした。大胆な政策である。だがこれで、どこを掘るにも先に調査が必要となった。

 費用は返上したオリンピックのための予算を全部使った。さいたま市は土木建築業を中心に再び活気を取り戻す。発掘で面白い事が始まるというので学術関係者も三々五々集まってきた。


 浦和民と大宮民はオリンピックと日本国を捨て、さいたま限定に走る事で初めて心が一つになったのだった。さいたま地域の歴史は塗り替わった。出土物の成果を綴った公文書は丁寧に扱われ、誰もでたらめや適当、嘘を書かなかった。

 これは日本が滅び、さいたま人民共和国が出現する二十年ほど前の話である。


 -了-

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浦和vs.大宮 持明院冴子 @saek0

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