タロウ視点3

アクマの家・・・・・・ここに来たのは何回目だろう。

『おさんぽの時間』と思っていたら、連れて来られたことがあったけれど――そういえば、あの時もコイツは、いつもの服を着ていなかった。

ぼくが入りたくなくて、嫌がっても、無理やり中に入らされて・・・・・・そこから先の事はよくおぼえていない。


今回もまた、抵抗むなしく無理やり中に入らされた。

明るいはずなのに、どこか暗く感じて、音がしているはずなのに、何にも聞こえなくて、広い部屋がせまく感じる。

そこに入っただけで、すごくイヤな気持ちがぐるぐると、ぼくの頭のなかをかけめぐる。


「こんにちは~。今日は、お注射ですねぇ」


ニコニコとコイツに話かけているのはアクマのしもべのひとり。ぼくが遊ぶゴムボールみたいに、顔がふくらんでいる。ぼくの敵である。


あたりをキョロキョロみわたすと、ぼくのほかにも、仲間がいる。みんな、同じようにイヤな気持ちでいっぱいなのが見ただけですぐ分かる。やはりここはアクマの家だ。


「江原バニラちゃん。どうぞ~」


もうひとりの、ホネホネなアクマのしもべに呼ばれて、仲間が連れられていく。

ジタバタとあばれて、入らまいとしていたけれど、そんな気持ちもおかまいなしに人間は進んでいく。

完全に中に入ったらドアは閉められて、中の様子は分からない。


こわい。いやだ。

からだの力が抜けていく。


「タロウ、まだ慣れないんだねえ。脱力しきってるし・・・・・・撮っとこ」


コイツまた笑ってやがる・・・・・・

でも怒る気にもなれない。ああ、はやく終わってくれ。はやくアクマの家から出たい。



・・・・・・


「小笠原タロウくん。どうぞ~」


よばれた!ついに、来てしまった!

コイツはぼくのリードを手に取り、中に引きずりこもうとするだろう。だから、せいいっぱい、動くまいとふんばった。これで、コイツも困るだろう。

でも予想外なことに、ぼくの身体は宙に浮く。コイツに持ち抱えられたのであった。

卑怯だ!必死にジタバタしたけれど、どんどんコイツは進んでいく。

やだ!アクマに会いたくない!中に入りたくない!


「こんにちは。タロウくん」


アクマの声だ。ああ、もうダメだ・・・・・・。ぼくの頭の中はまっしろになった。

そこから先の事はよくおぼえていない。

中に入ってもぼくはジタバタしてた気がする。でもアクマのしもべにおさえられて、アクマに何かされて――ああ、そういえばすごく痛かった気がする。


「はい、よく頑張りました」


ボーッとする頭にアクマの声がひびく。


「ありがとうございました。ほら、タロウいくよー」


とコイツに連れられるまま、もといた場所に戻されていて、ボーッとしていたら、いつの間にかアクマの家の外にいた。


アクマの家・・・・・・できることなら、もう来たくない。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る