ソラ視点2



 宿題に限らずなにかやらないといけない課題というのは最初に手をつけるまでが死ぬほどだるい。逆に1行書いてしまえば五合目くらいまで超えたみないなとこある。ロープウェイみたいなかんじ。

 今はサボったせいで倍になってしまった課題をちゃきちゃきと消化している。やりながらなんでこんな簡単なことを先延ばしにしてたのだろう、増え損じゃん……って後悔する訳だけど、この短い人生において1万回くらい思ってるので多分一生このままだと思う。


 いい感じにケリがついたところで妹がいないことに気づいた。

 視界の隅にメッセージが届いたことを示すアイコンが点滅している。

 妹――コトハからだ。

『ちょっとお小遣い稼ぎしてくるね』とのこと。

 ああ、いつものあれかとため息をつく。

 私は宿題をオンラインストレージに提出し、中庭に向かった。


“外部電脳”の利点は“思考検索”だけではない。基本的にこの技術はAR――拡張現実と分類されるもので、読んで字のごとくその真髄は現実を拡張することにある。

 校舎と校舎の間にあるだだっ広いスペースには生徒がまばらに点在しており、皆一様にその場の中心にいるグループに注目していた。

 いや、グループと一括りするのは語弊がある。

 4人ほどの男子とコトハが対峙する形で向かい合っている。

 男子生徒はそれぞれおもちゃみたいな形をした銃のようなものや刀のようなものを持っていた。


「本当にこの場の誰かがお前に攻撃を当てることが出来たら1人につき報酬をくれるんだな?」

 1人の男子生徒が確認するように言う。


「くどいなー、あげるってば。その代わり3分経つか、自分らの攻撃で自滅しちゃったら、1人ずつから徴収すっからね」

 コトハは手をぶらつかせながら言う。


「お前は何も持たなくていいのか?」


「んー?あー、必要ないからね。御託はいいから始めようよ」

 明らかな挑発に男子生徒たちの間にザワりとした波紋が広がる。


「そうかい、じゃあ、後悔するなよ!」

 会話していた男子生徒が刀状の武器をもって駆け出したことにより、火蓋が切られた。


 まあ、大体予想が着くと思うので結論から言うと、コトハの圧勝だった。勝因は3分逃げ切ったのではなく、全て男子生徒たちのほとんど自滅によるものだった。

 まず先駆けてきた男子生徒Aを軽く躱して剣状の武器を奪う。そのまま後続の鎌状の武器をもっていた男子生徒Bに接近。男子生徒Bは慌てて鎌を振るも、しかしそれはコトハをサイドから狙っていた男子生徒Cに直撃。それにより男子生徒Cの手を離れた斧が男子生徒Dに襲いかかる。その出来事に驚いた男子生徒Dが手持ちの銃を誤射し、それが男子生徒Aに命中。斧も見事男子生徒Dに命中。残った男子生徒Cにコトハが剣を振り、ゲーム終了となった。

 その時間、ジャスト15秒。

 まるで詰め将棋を見ているかのような整然とした戦いぶりにギャラリーは湧いていた。


 もちろんここで出てきた鎌やら銃やら剣やらはAR上のものであり、当たったところで怪我も痛みもない。


 コトハに歓声と拍手が送られる中、なんとなくタネが分かっている私は苦笑しながら生暖かい拍手を送った。


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