タロウ視点1
すごくぽかぽか。
見上げれば青いそらもようが続いているし、からだにあたる風も気もちがよい。
さわがしい車の音もどこか遠くできこえるくらいで、思わずあくびがでる。
ああ、平和だなあ。
ぼくがうまれる遠い遠い昔にいろいろ大変なことがあったみたいだけど、とてもそうは思えないなあ。
気づけばまたあくび。いまはいったい何時なんだろう。
そんな事を思っていたら、目の前に数字があらわれた。ちょっと前までは分からなかったけど、今は数字だって分かるんだ。
“PM2:56”
PMっていうのがよく分からないけど、もうすぐ『おやつの時間』だっておぼえている。56の数字が57、58、59までくるとPMとくっついてる2の数字が3になる。
“PM3:00”
ポーーン。という音が聞こえて、ガタッ。とイスを動かす音がする。
もうすぐ、もうすぐだ……
“PM3:02”
ガラガラガラ。
きた!
「タロウー。『おやつの時間』だぞー」
そのことばを聞いただけでからだがウズウズしてくる。
はやく、はやくちょうだい。
「はいはい、ちょっと待ってねー」
持ってきた袋の中身をぼく専用のお皿にザラザラと入れていく。
食べたい!『おやつの時間』を口にしようとすると、
「タロウ!ステイ!」
そうやっていつもコイツはおあずけしてくる。ぼくは仕方なく座って、返事が来るのを待っている。
まだかな?まだかな?
「オッケー。タロウ、おたべー」
やったー!
しっかりかんで、でも、かたすぎない。大きすぎず小さすぎず。
最高だ!『おやつの時間』最高!
いつの間にかぜんぶ食べちゃうから、食べ終えるともっと食べたいのにっていつも落ちこんじゃう。
そんなぼくを見て、コイツはわしゃわしゃとからだをさわってくる。
「タロウの毛はもふもふだねえ」
そんなコイツはぼくと違ってもふもふした毛がない。
ぼくたちは生き物という仲間で、コイツはその中で人間っていうらしい。
気づいたらいっしょに暮らしていて、はじめは何を言っているのか分からなかったけれど、今はなんとなく何を言っているか分かる。
たぶんコイツがつけてくれた首のわっかのおかげで、ぼくたちの話すコトバ以外のコトバがちょっとだけ分かるようになったのだ。
「またあとでね、タロウ」
もふもふして満足するとコイツは家の中へ戻っていく。
『またあとでね』
“PM3:11”
いつもどおりだと、3の数字が4になるとコイツは戻ってくる。
『おさんぽの時間』だ。それまではぼくだけの時間。
すごくぽかぽか。それにおなかもふくれている。
思わずあくびがでる。
そうだな、たくさん歩く前に、ちょっとだけ寝ようか。
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