Perception

@sonoda3939

ソラ視点1


 ちょうど150年くらい前の出来事。

 突如出現した謎の光によって人間とか建物とか大陸とかが消滅したらしい。

 人間はぼちぼち減って、大陸でいうとアフリカ大陸がさつまいもみたいな形になったり、カナダが鋭角気味になったりした。


 日本も例に漏れず光に包まれた箇所は綺麗さっぱりなくなって、細長かった体型がダイエットに成功して更にモデル体型になった。

 消失したと言ったけど、“フワァー”って感じで消えたのではなく、“ズゴゴゴゴゴ”って感じだったらしいので(?)、消えた箇所以外も損傷が酷かったそうな。


 途方に暮れる人類であったが、だがしかしそこは立ち直ってなんとかした。偉いぞ人類、流石人類。

 一世紀半経った現在はむしろ光に飲まれる前より便利な生活をしている。

 謎の光の名前は……なんだったかな。中間考査の社会科のテスト範囲だったはずなのに、忘れてしまった。


 このように災害は知識として人々の記憶に留まる程度となり、現実味を帯びた出来事ではなくなった。

 困ったことは時間が解決してくれる。

 例えば、嫌だった思い出は時間と共に薄れていくし、やらなかった宿題は倍になって帰ってくる。

 …………。


「ねえ、私の宿題が時間によって解決されてないのがおかしいことに気づいたんだけど、どう思う?」


「んー、お姉が馬鹿なだけだと思う」

 妹が端末を弄りながら、ひどいことを言った。


「馬鹿じゃないやい!寿限無全部言えるし!」


「いやその基準が既に……」


「『ものに流行り廃りがありますように、人様の名前にも流行り廃りがあるんだそうで』」


「本当に全部じゃん」

 ちょっと驚いた顔をする妹。どやぁ。


「ねえねえ、尊敬した?むしろ謙譲した?」


「いや尊敬も謙譲もしてないけど。あと謙譲って別に尊敬の上位互換とかじゃないから」


「……知ってしー」

 というか、尊敬してないのかよ。お姉ちゃん傷ついちゃう。


「いや、いいから早く宿題終わらせなよ。待ってるんだからさ」

 尊敬どころか、怒られてしまった。返す言葉もない。

 粛々と宿題を始める。お、頭韻踏んでる。

 こんなに自然と韻が踏めるなんて、これは宿題なんてやめてラッパー目指すしか――


「お姉」


「はい」

 本気で怒らせる前に宿題に取り掛かる。

 貴重な放課後の時間を姉の怠惰のせいで無為にしてしまうのも可哀想だ。

 まあ、やってしまえば早いだろうし、そんなに待たせることもないと思う。


「てかさ、お姉。このご時世になんで寿限無とか覚えてんの?」


「んー?なんでって?」

 宿題の手を緩めずに受け答えする。


「“”で1発じゃん」


「まあ、そうなんだけどねー」

 そう答える私の視界の隅では今耳に入った“寿限無”“思考検索”という単語の検索結果がそれぞれ一覧になっていた。

 その映像は現実に投射されているわけではない。

 写っているのは私の網膜にだ。

 思わず首のチョーカー型端末に意識がいく。

 すると先程までの検索結果は消えており、視界サジェストには今度は“外部電脳”で検索された結果が示されていた。


 私は特に気に留めることもなく、仮想キーボードを叩く。


 謎の光の名前もほんとは知っている。

 正しくはその概念を連想した際に検索は済んでいた。

 私は覚えていないけれど、覚える必要がないのだ。

 なぜなら“外部電脳”が瞬時に調べてくれるから。

 今はそれがこの世界の常識だ。


「ほんと、便利な世の中だねえ」

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