第12話 神樹孤児院
緑髪の少年はつかつかと燕尾服の少年に歩み寄ったかと思うと、その胸倉を掴んだ。
「調子はどうだい……じゃない!なんであんな女の子の首を絞めたんだ!男のすることじゃないぞ!」
「その件に関しましては非常に申し訳なく思っております故……何卒、何卒ご慈悲を……」
目を吊り上げて怒る緑髪の少年に対し、燕尾服の方は演技めいた悲しげな目に大仰な仕草で片手を当て、いかにも申し訳なさそうな声音で言ってのけた。
「ふざけるんじゃない。謝るならちゃんと、あの子に謝るんだ」
ほら、と胸倉を掴んだままに緑髪の少年は寝台に座るロミオの前まで来て、乱暴に放した。彼に放られた燕尾服の少年は、これまたわざとらしくよろめいた。
燕尾服の少年は、不意にロミオの前に跪いた。その後ろでは、緑髪の少年が腕組みをして険しい視線を燕尾服の背に送っていた。
「悪意はなかったんだ。ただ、俺の嫌いな奴らかと思ってね……。ごめんよ、許しておくれ」
深く頭を垂れ、少年は再び顔を上げた。
妖艶に光る金の双眸にじっと見つめられ、ロミオは身動きができなくなる。まるで、彼の瞳が放つ光に魅入られているようだ。
「う……うん、私は何ともないから大丈夫だけど……。ここはどこなの?」
やっとのことで返事をしたロミオは、自分の中の最大の疑問を口にした。
皇帝とマーナに言われて森の中を歩き、気付いたらこの建物の中にいた。そして、目の前にいる彼らが皇帝のことについて全く知らないとも思えない。またも、自分だけが置き去りにされているような気分になった。
「ここは神樹孤児院。普通じゃない奴がいる場所さ。それから、あんたは皇帝に命じられてここの院長になった。つまりは俺たちの世話人だよ。死ぬまでここで暮らすことになるね」
燕尾服の少年は、にこやかな笑顔のまま語った。
まるで自分の理解など必要としていないとでもいうかのような速度で進んでいく話に、ロミオは再び戸惑った。
まさか、カノンの仇討ちをしようとして神父の言いつけを破ったことが、もう一生教会に戻れないかもしれない事態を生んでしまうとは。自分の怒りに任せた行動が予想外の方向に転んでしまった。衝撃のあまり、言葉を発することができずにいた。
「それ……は、外に出ることはできるの?」
「まあ……できるといえばできるけど。君には皇帝の監視がつくと思う」
恐る恐る問いかけたロミオに答えたのは、緑髪の少年だった。眉を寄せた彼の発言に、ロミオは絶望した。
「そんな……!なんで私なの?私はただの孤児なのに……」
燕尾服の少年は、そんなロミオの言葉に、少し呆れたように肩をすくめた。
「何かが皇帝サマの目に留まったんだろうよ。偶然選ばれたただの管理人さ、きっと。あ、俺はエルフ。よろしくな、管理人さん」
エルフと名乗った燕尾服の彼は、大仰にお辞儀をしてみせた。
エルフがお辞儀をするのを半ば呆れ顔で見ていた緑髪の少年は、一つため息を吐くとロミオを見た。
「お前な……。……ええと、俺はレアティカ・チェイクバールっていうんだ。まだわからないことだらけだと思うけど、ここには君に危害を加える奴はいないから安心してくれ」
立てるか?とレアティカが差し出した手を、ロミオは肯定の意思表示としてゆっくりと取った。その手は、ロミオを気遣うように優しく引っ張り、立ち上がるのを補助した。
レアティカはロミオの手を引いたまま、部屋の扉を開けて廊下に出た。
「行こう。まだ紹介してない奴らがいるんだ。皆君のことを心配してたから、無事なのを見たら喜ぶぞ」
「あ……うん……」
二人が部屋から出ていくと、エルフ一人が残った。
彼は一人蔑むように鼻を鳴らす。
「皇帝の支配はごめんだ。あんな奴、すぐに追い出してやる。……でも、なんであんなガキ一人が管理人なんだ?前は科学者と大男だったのに」
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