第49話 対決、四天王!
シンリャークの宇宙船にて四天王があれこれ言っている頃、地上では。
「……魔獣、全部片付いたな」
「あっという間だったニャ」
あれだけいた魔獣も全ていなくなり、すっきりとした光景を俺とバニラは呆然と眺めている。茉理が戦いはじめてわずか数分でこの有り様だ。
「流石に今回は返り血多いな。帰ったらシャワー浴びなきゃ」
これだけのことをしでかした本人は、いたって暢気にそんなことを言っている。
「さて、これからどうするかな?」
魔獣は全滅したものの、空には相変わらずシンリャークの宇宙船が浮かんだまま。これで終わりと言うわけにはいかないだろう。
しかし少し前まで写し出されていた映像は今は消えていて、中で何があっているのかはわからない。
「恐れをなして逃げ出してくれたら話は早いんだけどな」
そう言った次の瞬間、一括するような鋭い声が辺りに響いた。
「何を言うか、我らシンリャークに逃げるなどと言う言葉はない!」
そして、何も無い所に突如人影が現れる。シレーにウワン、それに四天王の三人だ。
「アマゾネスよ、貴様の命もこれまでだ。これよりこちらにいる四天王のソノニー様が、チョチョイのチョイとやっつけてくれると言っている!」
「そうだ、ソノニーが戦う言っているぞ、ソノニーが!」
「一人で十分なんだからな!」
四天王の一人を、他の全員で前に前にとグイグイ押し出していく。なんだか彼を盾にしているようにも見えるのだが、気のせいだろうか。
しかしみんなから無理やり前に押し出されたように見えたソノニーだが、どうやらやる気のようだ。
「わ……私が四天王の一角、ソノニーだ。アマゾネスよ、我が手にかかって最期をとげること、光栄に思うがよい」
僅かに声が震えているようにも聞こえるが、茉理の強さを目にしてなお引かないと言うのは驚きだ。それに奴等の言葉を信じるなら、こいつら四天王と言うのは魔獣より遥かに強い、シンリャーク最強の集団だ。茉理が負ける姿など想像できないが、万が一ということもある。俺は魔法のステッキを構えながら、茉理の隣に立った。
「休んだおかげで回復できた。これなら俺も一緒に戦える」
実際はまだ随分と疲労が残っているが、何もかも茉理に任せきりと言うのは嫌だ。つまらないプライドと言えばそれまでだが、それでもここは下がるわけにはいかない。
「別にいいよ。怪我するといけないから、浩平は後ろに下がってて」
「…………」
俺のプライドなど、茉理はちっとも分かってくれなかった。
いいんだ、俺なんかいたって、どうせ足手まといにしかならないんだ。
「……浩平くん、元気出すニャ」
バニラの暖かい言葉が胸に染みるよ。
「要はあいつら全部やっつければいいんでしょ。任せてよ」
不安など微塵も感じさせないで言う茉理。頼もしいことだ。だがそれを聞いてシンリャーク側が黙っていなかった。
「ま、待て。あいつらって何だ、あいつらって。貴様と戦うのはそこにいるソノニーだと言ってるだろう!」
「そうだ、我らと戦う前にまずはソノニーの相手をしろ!」
どうやらこコイツらはどうあってもソノニーを最初に戦わせたいらしい。周りがそんなことを言うたび当のソノニーの顔色はどんどん悪くなっていく気がする。
「じゃあ、まずはあなたから倒すね」
金棒を振り上げる茉理。だがその瞬間、ソノニーが、なにか思い付いたように口を開いた。
「ま、待て!戦う前に私の話を聞け!」
「………話?」
いきなりの事に茉理も金棒を止め、耳を傾ける。こういうところは律儀なやつだ。
するとソノニーはホッとしたような顔で再び口を開いた。
「私が貴様を片付けるのは簡単だ。だが貴様も私ほどでは無いとは言え、それなりの力を持っている。それをこんな所で散らすとは惜しいと思わんか?」
いきなり何を言っているのだろう。その場にいる誰もがその意味を図りかねているようで、皆が一様に首を傾げる。
「どういうこと?」
尋ねる茉理に、待ってましたとばかりにソノニーは言った。
「つまりだ、アマゾネスよ、我らシンリャークに入る気は無いか?」
なんだって?
「ええっ?」
「ソノニー様、何を!?」
その言葉に、敵味方両方から声が飛ぶ。何を言い出すんだコイツは?
「それって、私にあなた達の仲間になれってこと?」
「そうだ。私の口利きがあればすぐに幹部に取り立ててやることもできる。地球侵略の司令官なんてのはどうだ?」
地球侵略司令。要はシレーが今いるポジションのことか。
もちろんそんな話が出てきて黙っているシレーじゃない。
「あの、ソノニー様。それでは私はどうなるので?」
「もちろん降格だ。いつまでたっても地球を侵略できなかったのだから当然だろう」
「し、しかしこやつは敵ですよ!」
「例えどこの誰であろうと、優秀な者なら拒みはせん。それが我らシンリャークだ」
「そんな……」
崩れ落ちるシレーだが、それとは裏腹に他のメンバーは概ねこの案に賛成のようだ。
四天王の残り二人は言う。
「なるほど、なかなか面白いではないか」
「ようこそシンリャークへ。早速歓迎会を始めよう」
ウワンは言う。
「新司令様、このウワン、一生あなた様についていきます」
いつの間にか茉理のシンリャーク加入は決定事項みたいになっている。だが茉理の答えはもちろんこれだ。
「私、仲間になんてならないから」
「「「ええ――――っ!!!」」」
いや、心底驚いているところ悪いが、この状況であっさり仲間になる方がおかしいだろ。
「なぜだ?シンリャークの幹部ともなると給料はたっぷりもらえるぞ。これで貴様も高所得者の仲間入りだ。それだけじゃない。権力を振りかざしてやりたい放題できるんだぞ」
「お金なら、普段もらってるお小遣いでやりくりするからいい。それにね……」
そこまで話したところで、茉理の目がスッと細くなった。
「セイヤ様のコンサート、すっごく楽しみにしてたんだ。生のセイヤ様が見れる、あの歌声が直に聞けるって思うと、三日くらい前から興奮して眠れなかった。でも、それが中止になった。あなた達のせいで。ちょっと前までは戦うのを躊躇っていたからこの気持ちも封印してたんだけど、もう我慢しなくていいよね」
「お……おい、茉理……」
気のせいだろうか?何だか茉理の体から黒いオーラが噴き出ている気がする。
今まで表に出してはいなかったけど、やっぱりコンサートが中止になって相当腹がたっていたんだろうな。
「そりゃ、セイヤ様本人と直接会って話ができたのはとってもとっても幸せだったよ。この奇跡に感謝したよ。けど、他のファンの子達はそうじゃないよね、怖い目に遭った上にセイヤ様が見れなくなったんだよね。セイヤ様にしたって助かったからいいけど、一歩間違えれば大ケガしてたかもしれないよね。死んでたかもしれないね。もう二度とあの輝いている姿が見えなくなったかもしれないんだよね。それは誰のせい?全部あなた達が地球侵略なんて始めたせいだよね。それだけのことをしておいてよく私を仲間になんて誘えるね。バカにしてるの?給料?そんなのいらないよ、セイヤ様の尊さはお金じゃ買えないもん。権力を振りかざしてやりたい放題?この惨事もその結果なの?もしそうだって言うなら、私はあなた達のことを、絶対に絶対に絶対にゼッタイニゼッタイニゼッタイニ———――———————————————————————————————――—————————————————————————————————————————ユルサナイカラ」
「ひいぃぃぃぃっ!」
悲鳴をあげたのは俺だ。この時俺は、初めて殺気と言うものの存在をはっきりと認識した。その矛先は全てシンリャークに向けられていると言うのに、それでも恐怖を感じずにはいられなかった。
隣では同じように、殺気に当てられたバニラが腰を抜かしている。
「アマゾネス……いや、破壊神の誕生だニャ」
もはや俺達は茉理の勝利を微塵も疑っていなかった。四天王がどれくらい強いかなんて知らない。だが破壊神と化した茉理の前ではきっと何もかもが無力に違いない。
だいいち、当の四天王達だって見るからにビビっている。シンリャークの連中は、四天王を含めた全員が声もなくガタガタと震えていた。
「あ……あの。恐れながら、アマゾネスを仲間に引き入れるのは無理のようです」
「う……うむ。そのようだな」
シレーと、後ろに控えていた四天王が震えながらそんな会話をかわす。だが一番震えているのは恐らく、一人で前に立っているソノニーだろう。なにせコイツが真っ先に血祭りにあげられるのだから。
しかしそこはさすが大幹部と言うべきか。ここに至って尚、ソノニーは弱音を吐かなかった。
「せっかくの誘いを断るとは愚かなやつめ。貴様はこれより私の手で葬られることになるが、後悔してももう遅いぞ」
強気な口調を崩さないのは立派と言いたいところだが、それはきっと勇気でなく無謀と言うのだろう。怒るとメチャメチャ怖いが、根は心優しい茉理のことだ、破壊神となった今も、誠心誠意謝れば許してくれるかもしれないと言うのに。
「いくぞアマゾネス!」
「…………潰す」
方や激しく、方や静かに声を発し、無駄に前置きの長かった 戦いがいよいよ始まった。
とは言え結果は既に見えている。あっという間にトマトペーストと化したソノニーの出来上がりだ。少なくとも俺はそう確信していた。
だが、そうはならなかった。茉理が動こうとしたその瞬間。
「あいたたたたた!急に腹が!」
ソノニーが突然叫びだし、腹を押さえて地面にうずくまってしまった。もちろん、茉理はまだなにもしていない。
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