第50話 対決、四天王!
いよいよ対決と思ったその時、突如腹痛を訴えだしたソノニー。あまりに突然の出来事に、さっきまでやる気十分だった茉理も、呆気にとられてポカンとその様子を見つめている。
「……あの、大丈夫ですか、ソノニー様」
一応シレーが心配そうに声をかけるが、ソノニーは依然として腹を押さえて痛がったままだ。
「だっ、ダメだ。これではとても戦いどころではない。くそーっ、こんな腹痛さえなければ、アマゾネスなんぞあっという間にやっつけてやると言うのに!」
えーと、なんなのだろうこの茶番は。
そしてとうとうこんな事を言い出した。
「これはもしかすると、重い病気にかかったのかもしれん!念のため、大事をとって帰ることにしよう。いいか、これは体調不良で帰るんだからな。決して逃げ出すわけじゃ無いぞ」
うん。少し前からそんなことを言う気はしていたよ。だがそれを聞いて黙ってられないのがシレーだ。
「帰るって、アマゾネスはどうするんですか!?」
取り乱しながら叫ぶが、茉理をやっつけてくれなければ我が身が危ないのだから当然だ。
だが残念なことに、その抗議が受け入れられることはなかった。
「バカモノ、病人を無理やり働かせる気か!病欠は労働者に認められた正当な権利なんだぞ!」
声を荒げて言ったソノニーの体を、間もなくして光が包んだ。きっとテレポートでもするのだろう。
そして思った通り、光が消え去ると共に、ソノニーの姿はどこにも見えなくなっていた。ああ、本当に帰ったんだな。
あんまりな展開に、さっきまで怒りの絶頂だった茉理も今はポカンと口を開けている。
「えーっと、これってどう言うこと?」
「茉理の勝ちってことでいいんじゃないか?」
こうして、四天王の一角、ソノニーは破れ去った。
「そんな、ソノニー様……」
呆然としながら項垂れているシレーの姿が、何だか哀れに思えてくる。
だが、こいつの心はまだ折れてはいなかった。バッと顔をあげると、気を取り直したかのように叫ぶ。
「いい気になるなよアマゾネス。四天王様はまだいらっしゃるんだからな!」
それは今お前の後ろでギクリと肩を震わせた二人のことを言っているのか?そう言えばまだこいつらが残っていたな。
「ま、まったくソノニーのやつめ。自らの体調管理もできないとは、四天王の恥去らしめ」
「仕方ないではないか。奴は我ら四天王の中でも最弱。と言うわけでソノサン、次は順番から言ってお前の番だな。行ってこい」
「……お前、狡いぞ」
そこまでビビっているのなら、もう素直に負けを認めればいいのに。だがどうやら四天王は揃いも揃ってプライドだけは無駄に高いようだ。渋々ながら、ソノサンが茉理の前に出てくる。
「ソノニーを倒すとは、少しはやるようだな」
「私、何もやってないんだけど」
「だが、私はアイツのようにはいかんぞ!」
「いや、だから……」
「これより貴様は無惨に敗北し、四天王の真の恐ろしさを知ることになるのだ」
「…………はぁ、もういいや」
噛み合わない会話が交わされ、いよいよ互いが戦闘態勢に移る。
「ソノサン様、急な体調不良は無しですよ!」
「も、もちろんだ。私を誰だと思っている」
シレーから声援を送られ、もとい釘を刺され、あからさまにドキリとするソノサン。さてはこいつ、さっきソノニーが使った方法を丸パクリするつもりだったな。
だがもはや絶体絶命かと思われたその時、奴はすかさず言った。
「あっ、電話だ。ちょっと待ってろ」
そう言うと、懐からスマホを取りだし耳へと当てる。着信音なんて聞こえなかったが、マナーモードにでもしていたのだろうか。
「もしもし、今地球を侵略している最中なんだけど…………ええっ、お世話になったおじさんが亡くなった!」
叫ぶソノサン。何だか嫌な予感がしてきた。
「お通夜はいつ?今夜!こりゃ今すぐ出発しないと間に合わないな。大丈夫、すぐ早退してそっちに向かうから、絶対行くから!」
早口で言い終え、そそくさと電話を切る。それからシレーのいる方を振り向いて言った。
「……さて、聞いての通りだ」
「あの、何がですか?」
「今の電話の内容でだいたい分かるだろ。おじさんが亡くなって、急遽お通夜に出席しなければいけなくなったんだ。と言うわけで、これにて私は帰ることにする。いいか、これは親戚の不幸のせいで帰るんだからな。決して逃げ出すわけじゃ無いぞ」
「ええっ!」
言い終わると同時に立ち去ろうとするソノサン。しかしシレーはとっさにその体に飛びついた。
「待ってください!せめて、せめてアマゾネスを倒してからでも……」
叫びながら、何とかして引き留めようと必死にしがみつく。だが必死なのはソノサンだって同じだ。
「うるさい、そんな時間は無いんだ。私がどれだけおじさんの世話になったか知らんのか!」
「知りませんよそんなの!」
「だいたいな、忌引きは労働者に認められた正当な権利なんだぞ!」
無情にもシレーを強引に引き剥がすと、すぐにその体を光が包む。さっきソノニーが使ったのと同じテレポートだ。
「ソノサン様!どうか、どうかお待ちくださいーーーっ」
シレーが地面に転がったまま叫ぶが、全ては遅かった。ソノサンの姿は完全に消え去り、張り上げた声は虚しく響くだけだった。
「ああ、ソノサン様………」
こうなるとさすがに少し哀れだ。だが未だ立ち上がることのできないシレーに、一人近づく者がいた。ウワンだ。
「あの、シレー様……」
「………どうしたウワン。哀れな私を笑いにでも来たのか?」
「いえ、ソノヨン様が……」
「ソノヨン様!そうだ、まだソノヨン様がいた!」
最後に残った四天王の名を聞いて、元気が戻るシレー。だが周りをキョロキョロと見回し、困惑したように言う。
「あれ?ソノヨン様はどこへ行ったのだ?」
言われてみれば、ついさっきまで近くにいたはずのソノヨンの姿がどこにも見当たらない。だがその疑問に対してウワンが申し訳なさそうに答えた。
「実は……ソノヨン様はつい先ほど帰られました」
「帰った?」
「はい。お引き留めしたのですが、詳しい事情はこれに書いてあると言って……」
そう言ってウワンは懐から一枚の手紙を取り出す。
「……読んでみろ」
「かしこまりました」
手紙を開き、ウワンはその文面を読み上げた。
「私、ソノヨンはこれまでシンリャークの四天王として宇宙にその名を轟かすほどの大活躍の日々を送っていました。ですが時々ふと、ただ組織の歯車として業務をこなすだけの生き方に疑問を抱くことがあります。そこで、これからの人生を生きるにあたり、今一度自らを見つめ直そうと考え………………………じ、自分探しの旅に出ることにしました」
「ふざけるな―――――っ!」
あっ、シレーがキレた。そりゃキレたくもなるな。
ちなみにその後も少しだけ手紙は続いた。
「PS.決して逃げ出すわけじゃありません。自分探しは労働者に認められた正当な権利です」
嘘つけ。絶対認められてないだろ。
何はともあれ、こうしてシンリャーク最強を誇った四天王は全滅した。
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