第27話 誕生、魔法少女? 2

 魔獣が暴れまわる傍らで、それを操るシレーとウワンは高笑いをしていた。


「やったぞ!なんだか知らんがアマゾネスが来ない。これならいけるぞ!」

「ラッキーでございますな。それはそうとシレー様、さっきからここで暴れるだけで一向に次の場所には行こうとしませんが、どうしたのですか?」

「それなんだがな、どうせ今回もアマゾネスに瞬殺されると思っていたから、全くのノープランなのだよ」

「作用でございますか」

「しかーし、こんな機会滅多に無いのだ。思う存分暴れて、悪の侵略者っぽくしようではないか!」

「御意に!私もそれには大賛成でございます!」


 鬼の居ぬ間になんとやら。二人とも実に楽しそうだ。

 だがそんな無法もこれまでだ。二人に向かってかん高い声がとんだ。


「待ちなさい!」


 それを聞いて振り返った二人が、さっきまでの笑顔から一転して引き吊った。


「ゲッ、貴様はアマゾネス!」

「おのれ、現れおったな。しかし今回は来るのがずいぶんと遅かったな。別にそれが悪いと言っている訳では無いのだぞ。どんどん遅刻して、むしろ休んでも我々としては何も問題無いのだ」


 二人の前に現れたのは茉理……ではもちろん無い。新たな魔法少女となった俺だ。だがその顔は白いヴェールに覆われていて見ることができなくなっている。いくら戦う決意をしたとはいえ、顔出しはやっぱりきつかった。

 ちなみにこのヴェールは元々茉理の顔を隠すのに使っていたものだが、まさか自分が着けることになるとは思わなかった。用意していてよかったよ。


「それまでよ。大人しく観念なさい!」


 再び威嚇するように声を張り上げる。だがそれは俺の普段のものとは違い、完全な裏声だった。ヴェールと同じく、男とばれないための苦肉の策だ。よって口調も女性のそれを真似てみたのだが、なんだか余計にオネエに近くなった気がしないでもない。

 それはさておき、向かい合う俺を見てシレーが首を傾げた。


「なあ。あのアマゾネス、なんか違わないか?」


 さらにウワンも言う。


「背が明らかに高いですな。それになんだか、声も少々おかしい気がします」


 どうやら俺が今までのアマゾネスとは違うと気づいたようだ。体格が全然違うから当然か。

 もっとも、その程度の事はそもそも隠す気すらない。男だとばれなければそれでいい。


「違うから何だって言うのよ」


 様子を見るため、再び裏声を使って話すと、シレーがそれに答えた。


「小娘が偉そうに。我らシンリャークの邪魔をするとは何者だ」


 よし。どうやら俺が男とは思っていないらしい。安堵したところに、さらにシレーの声が飛んでくる。


「それと、いつものアマゾネスはどうした?できればこのまま来ないでくれるとありがたいぞ」


 相変わらず茉理のことを相当警戒して、もといビビっているようだ。まあ無理もないな。

 だがここで正直に引退したと教えることもないだろう。ついでに、さっき聞かれた何者かと言う問いに対する答えがまだだった事を思い出す。


「わ……私はアマゾネスの弟子よ。あなた達なんて師匠が出るまでもないから私が来たのよ」

 とっさに思いついた出任せを言ってみるが、二人はそれを聞いてそれなりの動揺を見せた。

「なんだとアマゾネスには弟子なんていたのか」


 それを聞いて驚いたのはシンリャークの二人だけじゃない。近くで対処にあたっていた警官からも、口々に声があがった。


「アマゾネスの弟子か。アマゾネス2号ってとこか?」

「頑張れ、アマゾネス2号!」


 驚きの声はいつしか声援へと変わっていた。そして俺の呼び名は、どうやらアマゾネス2号で決定したようだ。バニラの求めていた魔法少女になるにはまだまだ遠そうだ。

 気を取り直してシンリャークの二人を見ると、揃って渋い表情を浮かべていた。


「おのれアマゾネスめ、弟子などよこしおって。我らなど相手にならんとでも言いたいのか」

「それはその通りでございます。それにあの狂暴なアマゾネスの弟子と言う事は、やはりあやつもヤバイのでは無いですか?」

「むぅ……確かに。ウワンよ、撤退の準備に抜かりは無いな?」

「はっ。いつでも逃げられるよう準備は万端でございます」


 アマゾネスの弟子と聞いただけでこのビビり様、やはり茉理の強さが相当トラウマになっているようだ。とりあえずこれで戦う前の牽制はできた。

 とはいえ、それで引かないのがこいつらだ。


「相手がどんな強敵だろうと、例え勝てる確率が0.1パーセントも無かろうと、それでも戦うのが我らシンリャークだ。ダメで元々、魔獣よ、無理だと思うがやっつけてしまえ!」


 やはりこうなるのか。臨戦態勢に入った魔獣を見定めながら、ステッキを握る俺の手にも力が入った。


「浩平くん、頑張るニャ」


 すぐ隣で声がする。見るとそこにいたのはバニラだった。


「お前、こんなところまで出てきたら危ないぞ」


 これまでバニラはずっと、茉理が魔獣と戦っている間は俺と一緒に物陰に隠れて様子を見ていた。いつも茉理が瞬殺するとはいえ、万が一危険な目に遭わないよう用心していたからだ。ましてや今回戦うのは俺だ。恐らく危険度で言えば今までとは比べ物にならないだろう。

 そんなことは本人もよく分かっているはずだ。だがバニラは言った。


「浩平くん、魔法少女になったはいいけど、どんな呪文があるかまだ全然知らないニャ。そんなんじゃ戦えないニャ」

「あっ……」


 そうだった。魔法のステッキと契約し衣装が変わったとはいえ、これからどうすればいいかなんてまるで分からなかった。まさかステッキを振り回して戦うわけでもあるまい。


「今まで気づいてないなんて、とんだおっちょこちょいだニャ。そんな魔法少女初心者の浩平くんに、ボクが一緒にいて戦い方を教えてあげるニャ」

「バニラ……」

「魔法少女と一緒に戦う。これが本来のボクの役目ニャ」


 思い切り上体を反らしながら、猫にあるまじき胸の張り方をするバニラ。その得意気な様子が今は頼もしい。

 そんな俺達に向かって、とうとう魔獣が飛びかかってきた。

 さあ、戦いの始まりだ。

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