第26話 誕生、魔法少女? 1

 光が収まり、俺はすっかり変化した自分の服を見る。

 色は白を基調とし、所々に差し色としてピンクが使われている。胸には赤い大きなリボンが備わっていて、スカートに編み込まれた細かいレースの模様が可愛らしい。

 などと、普段の俺ならいっていただろう。これを着ているのが自分でなければ。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!」


 

 絶叫する俺に向かって、バニラはどこから取り出したのか鏡を手渡した。そこに映っていたのは、やはりと言うべきか可愛らしい女物の服に身を包んだ俺の姿だった。

 早い話が女装だ。しかもフリフリですっごくファンシーと言うイタさ全開のやつだ。スカートがロングだったのがせめてもの救いだ。すね毛が隠れる。 


「おい、どう言うことだ!女装するなんて聞いてないぞ」


 てっきり男物の衣装になるとばかり思っていた。だってそうだろ、男でも契約できるって言うんだから、服だって当然男仕様になきゃおかしいだろ!

 抗議するが、バニラは諦めろとでも言いたげに首を振った。


「だからボクは何度も男の子はダメだと言ったニャ。そのステッキは元々魔法少女用に作られたものだニャ。出てくる服も当然そのコンセプトに合ったものになるんだニャ。例えそれがどれだけ気持ち悪い結果になろうとも」

「気持ち悪い言うな!わざわざ言われなくても自分が一番よく分かってるよ。それよりこれは、どうやったら戻るんだ?」


 魔獣と戦う意思はある。危険な目に遭う覚悟もできていたつもりだ。だがこんな格好でいる気は欠片も無い。だいたい普段の格好の方が動き易いだろ。走ってスカート捲れたらどうするんだ!


「あっ、魔法を使うにはこの姿じゃないとダメだニャ」

「何でだよ!」

「魔法を使うには収束のマナを収束及び維持する必要があって、なおかつそれに性質変化がナンタラカンタラ~」

「わかんねえよ!」

「だと思ったニャ。地球人がこれを理解するにはあと200年ほどかかるニャ」


 なんだかバカにされた気がするが、事実バニラの言っている事はさっぱり分からない。だが最低限これだけは聞かなきゃならない。


「じゃあ何か、俺はこの格好で戦うしかないのか?」

「そうなるニャ」


 やはりそう言う事になるのか。あんまりな事実にガックリと膝を地面に着くがそこでバニラが更なる追い討ちをかけた。


「魔法少女ならぬ魔法オネエの誕生だニャ」

「やかましい!」


 こんな格好で戦うなんてもちろん嫌だ。人前に出るのだって嫌だし、誰も見てなかったとしても一刻も早く着替えたい。


「魔法オネエ、止めようかな」


 ついこんな言葉が漏れてしまったが、どうか俺を攻めないでほしい。また一からスカウトを始めるかとも思ったが、非情にもその考えは否定された。


「一度ステッキと契約したからには一年間は解除できないニャ。だから浩平くんがやらなきゃ本当にどうしようもないニャ」

「なんだよそれ」

「ちゃんとさっきの契約内容に書いてあったニャ。読み飛ばした浩平くんが悪いニャ」

「だってあんなもん一々読んでられないだろ」


 だが今さらそんな事を言っても後の祭りだ。バニラの言う通りなら、もはや俺が戦う以外の選択肢は残されていなかった。


「観念して戦うニャ。ボクも我慢して一緒についていくニャ」

「いや、でも……」


 バニラに促がされるが、やはりこの格好で戦うのは俺の羞恥心が許さない。地球を守れたとしても大切なものを失ってしまう気がする。

 往生際悪く躊躇い続けるが、とうとうバニラは見かねたように言い放った。


「茉理ちゃんのためだニャ!」

「茉理の……」


 その名前を聞いて、初めて俺はごねるのを止めた。


「このまま浩平くんが戦わなかったら魔獣はいつまでも暴れ続けるニャ。そしたら茉理ちゃんはどう思うニャ?きっと自分が魔法少女を止めたばっかりにと後悔するニャ。浩平くんはそれでもいいのかニャ?」

「それは……」


 確かにその通りだ。魔獣が暴れているのを聞いて茉理が心中穏やかでないと言うのは、さっきかかってきた電話の内容からも明らかだった。

 ましてやこれから被害が拡大すれば、余計に責任を感じる事は容易に想像がつく。

 そこまで考えて、俺の心の中にある何かが変わった。


「バニラ……俺、やるよ」

「浩平くん……」



 不思議だ。やる事はなにも変わらないのに、茉理の事を考えただけで胸の奥が熱くなり、まるで力が溢れ出てくるような気がした。


「正直、いくら言われても嫌なものは嫌だって思ってた。そうしないと地球がピンチだってのは分かってるけど、そんなのスケールが大きすぎて全然実感が無いからな。でも茉理のためなら、茉理を悲しませないためなら、俺はどんなことだってできる。例えそれが、命がけの戦いだとしても」


 そう口にした俺は、もうさっきまでの躊躇ってばかりいた俺じゃない。確かな意思と決意を持っていた。



「地球より好きな女の子のためなんて、不純な動機かもしれないけどな」

「そんなこと無いニャ。誰かのために戦うのがダメなわけ無い。むしろカッコいいニャ。女装してることにさえ目を瞑れば」

「……それを言うなって」


 どれだけ気持ちを新たにしようと格好が変わるわけじゃ無いので、指摘されるとやはりへこむ。

 だがそれでも、今の俺に引き下がる気はなかった。


「いくぞバニラ!」

「わかったニャ!」


 こうして俺の魔法少女、いや魔法オネエとしての戦いが始まった。


(………魔法オネエってネーミングは、やっぱりないよな)

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