第25話 次なる魔法少女 4

 聞き間違いか? 男でも契約できるようにしろよと言った俺に、バニラが「できる」と答えたような気がする。

 うん、聞き間違いだ。そうに違いない。気を取り直してもう一度。


「くそう、男でも変身できるなら俺がなってやるのに」

「だから、できるニャ!元々女の子限定って言うのは趣味みたいなものだから、やろうと思えば老若男女誰でもできるニャ。」


 うん。どうやら俺の耳は正常だったようだ。いやいや、ちょっと待て。それってつまりこういうことか?


「じゃあ、俺でも茉理みたいに戦うことが出来るのか?」

「茉理ちゃんみたいには無理だニャ。あの子の力は全部自前で、僕はそれに一切関与していないニャ。でも、本来用意していた魔法の力を与えて魔獣と戦うことなら……できるニャ」


 ……………待てコラ。


「じゃあ今までの苦労は何だったんだよーっ!」


 叫びながら怒りと脱力感で倒れそうになる。それができると知っていたら、そもそも次の魔法少女を探す必要もなかった。


「何で今まで黙ってた。最初から俺が契約すれば良かったじゃないか」

「だって、何度も言う通りこれは元々魔法少女ってコンセプトで始めたことだニャ。今さら路線変更って言うのは色々まずいニャ」

「どうでもいい。茉理の残虐ファイトの時点で魔法少女感なんて皆無だ」

「だからこそ次はもっと魔法少女っぽい子が良かったニャ。それなのに男の子って、もう完全に方向性を見失っているニャ」

「知ったことか!」


 ああ、あまりに馬鹿馬鹿しい理由に言い争う気さえも失せてくる。


「もういい。さっさと俺と契約しろ」

「えーっ。魔法少女のはずが男の子って……」

「まだ言うか!」


 仕方ない。とうとう俺はバニラの頬を掴んで摘まみ上げ、ビローンと顔を引き伸ばす。こうなったら実力行使だ。


「契約するぞ。いいな」

「ひゃ……ひゃい」


 ようやくバニラも納得してくれた。こうして、果てしなく無駄な軌跡をたどりながらもなんとか茉理の後釜が決定した。まさか自分がそのポストに収まるとは思わなかったが、考えようによっては見ず知らずの誰かに任せるよりずっといい。


「でも本当に良いのかニャ?今までは見ているだけだったけど、魔法少女になるって言うのは自分の手で直接魔獣と戦わなきゃいけないってことだニャ。その覚悟はあるのかニャ?」

「覚悟……」


 真剣に聞かれ、さすがに一度躊躇する。確かに簡単なことじゃない。一歩間違えれば命の危機、もしかしたらさっきのギャルでももう一度見つけて頼んだ方が良いのかもしれない。

 だけどそれでは今度はあの子を危険にさらすことになってしまう。そして何より……


『そうだ、君がデートしてくれるなら魔法少女になってもいいよ』

『オールナイトで×××までじゃなきゃヤダ』


 またあんなのの相手をしなきゃいけないのかと思うと気が滅入ってくる。それに、バニラは俺の貞操を売ろうとした。この調子だと、もしかしたら魔獣と戦う度にそれ以上の要求をされるかもしれない。


「そうなるくらいなら俺がやった方がマシだーっ!」

「わ、分かったニャ。色々思うところはあるけど仕方ないニャ。早速契約を始めるニャ」


 俺の手から逃れたバニラは渋々と言った様子で、それでも決心したように言う。

 そして何やら呪文のようなものを唱えたかと思うと、突如目の前が光り輝きなにもない空間から一本の杖が出現した。

 色はピンクで、先端にハートがくっついたような形をしている。かつて茉理が面倒だからと契約を断り、それ以来数ヶ月の間俺の部屋の隅で埃を被っていた魔法のステッキだ。

 それが今、ようやく陽の目を見る時が来たのだ。


「浩平くん、ステッキを握るニャ」


 元々魔法少女のために作られただけあって男が持つには少々抵抗のあるデザインだが、この際そんな事を言っている場合じゃない。

 俺がステッキの柄を握った瞬間、空中に文字が浮かび上がった。日本語だ。


「浩平くんにも分かるように自動翻訳機能がついてるニャ。そこに書いてある内容を読むニャ」

「よ…よし」


 返事をした自信の声を聞いて、緊張していることに気づく。ここに来てようやく、これからは俺が戦う事になるんだと実感が湧いててきたような気がした。

 ゆっくり、だけど確実に、浮かび上がった文字を読み上げる。


「この内容は契約対象者(以下甲とする)と魔法のステッキ(以下乙とする)双方の同意を証明するものである。本項目の……なんだこりゃ」

「契約内容だニャ。全部確認した後最後にある『同意する』をタッチするニャ」

「そこからかよ!」


 なんか思っていた契約と違った。しかもこの契約内容、やたらと長い。


「もういい。適当に読み飛ばして『同意する』を押しときゃいいだろ。次はパスワード設定か……これでよし。メルマガ配信は、希望しないと」


 長々とした操作ようやく終えると、『登録が完了しました』と言う音声と共にステッキがより一層輝き出し俺の体を包んだ。


「バニラ、これは何がおきてるんだ?」

「契約完了の証だニャ。今から浩平くんの服が、魔法を使うのに適した衣装に変るんだニャ」


 その言葉通り、光に包まれる中俺の着ている服が徐々に変化していくのが分かった。

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