第24話 次なる魔法少女 3

 肉食系ギャルの下から逃げ出した俺は、その後バニラから文句を言われることとなった。もっとも、文句なら俺にだってある。


「いきなりなにするニャ。もう少しで魔法少女になってくれたかもしれなかったニャ!」

「やかましい。なに勝手に人の貞操を犠牲にしてやがる!」

「地球の平和のためならそんなもの惜しくはないニャ!」

「俺は惜しいんだよ。だいたい、俺の純潔は茉理に捧げるって決めてるんだ。それを守るためなら地球がどうなったっていい!」


 我ながら暴言だとは思うが、こればかりは簡単に譲れるものじゃない。何が悲しくてこんな形で大切なものを失わなくてはならないのか。


「でもこのままじゃ魔獣と戦う手だてはないニャ。どうするつもりニャ」


 こうしている間にも魔獣は元気に暴れている。さらにまずいことに、ほとんどの人が逃げ出した今新しく声をかけようにも周りには誰もいなかった。


「どうするかな……」


 もはや状況は手詰まりに近い。だが途方にくれる中、俺のスマホが鳴り出した。


「誰だよこんな時に……茉理だ」


 ズボンのポケットからスマホを取りだし画面を見ると、そこには茉理の名前が表示されていた。通話ボタンを押すと、すぐさまスピーカーから聞きなれた声が届いた。


「今テレビで魔獣のニュースやってるけど、大丈夫なの?私の次の魔法少女が見つかったって話、聞いてないんだけど」


 どうやら俺達の状況を察して心配になったらしい。そして心配した通り、全然大丈夫じゃなかった。


「もしまだ見つかってないなら、また私が行こうか?」


 不安そうな声が届く。自らの意思で魔法少女を止めたとはいえ、魔獣が暴れているのを知って放ってはおけなかったのだろう。次の魔法少女が決まっていないのならなおさらだ。


「それがいいニャ。早速茉理ちゃんに来てもらうニャ」


 話を聞いたバニラが目を輝かせながら言う。確かに茉理が出向いたらいつもの通り魔獣なんて瞬殺だ。スカウトの目処も立たないのだからそれがいいのかもしれない。と言うより、それしか無いと言った方が近い。


 しかし……


「さあ浩平くん、早く茉理ちゃんを呼ぶニャ」


 急かすように俺の肩を揺さぶりながら言ってくるバニラ。だが俺は素直に頷くことが出来なかった。

 再び魔法少女になってくれ。そう言うのが、どうしても躊躇われる。

 茉理は真剣に悩んだ末に魔法少女を止める決断をし、俺達はそれを受け入れた。なのにそれをこんな簡単にひっくり返していいのだろうか。


「……浩平?聞こえてる?」

「あ…ああ」


 ぐるぐると思考が渦を巻く中、茉理の声でハッと我に帰る。そして次の瞬間、気がついたらこんな事を口走っていた。


「新しい魔法少女だよな。ついさっき見つけたよ」

「ニャッ!」


 隣でバニラが驚きの声をあげる。もちろん新しい魔法少女なんて見つかっていないのだから当然だ。

 だけど俺の言葉は終わらない。いけないとは思いながらも、次々に口から嘘が流れ出てくる。


「茉理に負けないくらい……ってのは言い過ぎだけど、すごく強いんだ。だから心配しなくても大丈夫だ」

「そう?それなら良かった」


 全くのでたらめだが茉理は信じてくれたようで、電話越しでも安心したことが伝わってくる。


「でも、もし新しく子だけで危ないと思ったらいつでも私を呼んでね。私がいないせいで、浩平達が危ない目に遭うのは嫌だから」

「心配性だな。魔獣は俺達に任せて、茉理は気にせず可愛い女の子を目指せばいいよ。と言うわけで、俺達は今から魔獣をボッコボコにしてくるから、安心して勝利の報告を待ってろ」

「うん。頑張ってね」


 こうして俺は茉理からの電話を切った。切ってしまった。


「……さて。あんな事言ったけど、どうしようか?」

「どうするつもりニャ!」


 怒るバニラ。ごめん。これは攻められても仕方ないとは思う。


「だって、あれだけキッパリ茉理の引退を受け入れておいて、今さら戻ってきてくれとは言えないだろ」

「そんなこと言ってる場合じゃないニャ。さっきもせっかく魔法少女になってくれそうな子がいたのに逃げ出したし、このまま地球が滅びたら浩平くんのせいだニャ」

「悪かったって。大急ぎで次の魔法少女見つけるから」


 とは言えそう簡単に見つけられるのならとっくに見つけついる。ましてや今は辺りにほとんど人がいないのだ。魔獣の対処にやって来た警察や自衛隊くらいだろうか。


「いっそ警察や自衛官の中から選ぶか?けど女性がいるかな?」


 可能性は低いがもうそれにかけるしか無いかもしれない。

 だがバニラは首をふった。


「女の人がいたとしてもきっとダメだニャ」

「何でだ?」


 てっきり女性なら誰でもいいのかと思っていたが、なにか他に条件でもあるのだろうか。


「もしいたとしても、きっと少女って言うには無理があるニャ」

「そんな理由かよ!」

「魔法少女って言うからにはせめて十代じゃなきゃいけないニャ」

「なんだよその無駄なこだわりは。良いだろう、いくつになっても少女名乗ってようが。少年隊だってずっと少年隊なんだぞ!」


 あんまりな理由に頭が痛くなってきた。茉理の協力を断った俺も確かに悪いが、バニラの言う魔法少女へのこだわりも相当問題があるような気がする。


「そもそも男でもできるようにしろよ。そしたら警察だの自衛官だの、まだやってくれそうな人がいるのに。いや、いっそ俺がなってやるよ」


 本当はこんな愚痴を言っている場合じゃないのだろうが、それでもつい不満が出てきてしまう。

 だがそれを聞いたバニラは、何を思ったのか急に押し黙った。そして少しの間何か考えるそぶりを見せたかと思ったら、一言呟いた。


「…………できるニャ」

「はい?」


 こいつは今何を言った?

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