第23話 次なる魔法少女 2
にゃ~ん、にゃ~ん、にゃ~んにゃにゃにゃんにゃにゃにゃ~ん
にゃ~ん、にゃ~ん、にゃ~んにゃにゃにゃんにゃにゃにゃ~ん
バニラのスマホから気の抜けた音楽が聞こえてくる。もうすっかりお馴染みとなっている魔獣出現の知らせだ。
だが今回はいつもと違い、俺とバニラは焦っていた。
重要なポイントは二つ。一つは茉理が魔法少女を止めたこと。もう一つは、茉理の後の魔法少女をまだ見つけていないということだ。
「魔獣、暴れてるな」
「暴れてるニャ」
「魔法少女、いないよな」
「いないニャ」
街中で暴れまわる魔獣。俺達は、物陰に隠れながらを観察するしかなかった。
何とかしたいのはやまやまだが、茉理も他の魔法少女もいない以上残念ながら打つ手は無い。
どうしてこんなことになった?
「なんでまだ次の魔法少女見つけてないんだよ、時間はたっぷりあっただろ!」
「魔法少女は地球の運命を担う子だニャ。慎重に慎重を重ねて探さなきゃいけないニャ!」
「ずっと家でゴロゴロしてただろうが!」
「鋭気を養うためだニャ。浩平くんだって探すの手伝うって言っておきながら何にもしてないニャ!」
醜い言い争いをする俺とバニラ。だが本当はそんなことをしている暇は無い。こうしている間も魔獣は建物を破壊している。
「こうなったら誰でもいいからとにかくスカウトするニャ。どうせ時間があってもきっと適当に選んだニャ」
「さっき慎重に慎重を重ねるって言ってなかったか?まあいい。探すぞ」
こうして俺達の次なる魔法少女探しがようやく始まった。
もうこうなったら誰でもいい。とにかく手当たり次第声をかけて、引き受けてくれる子がいたら決定だ。そんなんでいいのかとは思うが、時間も無いので仕方ない。
だがいざやってみると、それさえも簡単じゃ無かった。手あたり次第呼び掛けてみたのだが……
「あの、ちょっと話いいですか?」
「魔獣がくる、早く逃げなきゃー」
話も聞かず駆けて行く人々。さらに呼び掛けは続く。
「少しでいいんでお話を……」
「パニックになってそれどころじゃなーい」
ダメだ。みんな逃げるのに必死で、いくらやっても立ち止まってさえくれない。
「今思えば、茉理ちゃんはよく話を聞いてくれなニャ」
「あいつの場合魔獣なんていつでも倒せたからな。余裕があったんだ」
溜息をつきたくなるが、ここで挫けるわけにはいかない。今度はバニラがやってみることにする。
「素敵で愛らしいボクならきっと話を聞いてくれるニャ。浩平くんとの違いを見せてやるニャ」
「わざわざ俺を引き合いに出すな。けど、頼んだぞ」
そうしてバニラが一人の少女に声を掛けてみたのだが……
「ちょっとお話いいかニャ?」
「猫がしゃべった!化け猫よ、怖いーっ!」
一目散に逃げる少女。その場にはバニラだけがポツンと佇んでいた。
えーと、こういう時なんと声を掛けてやればいいんだろう?
「おい、大丈夫か?」
「…………ほっといてほしいニャ」
すっかりやさぐれている。よほどショックだったようだ。
「元々こんな辺境の星の下等生物なんて助ける義理は無いニャ。いっそ地球なんて滅びてしまえばいいニャ」
「落ち着けバニラ!猫缶、いや大トロを買ってやるから」
バニラの言っていることも相当酷いが、このまま拗ねてしまっては魔法少女探しどころではなくなってしまう。
「そんなものでなんとかなるほどボクは単純じゃないニャ。せめて鰻も追加するニャ」
「足下見やがって、結構元気じゃないか。わかった買ってやる」
決して安くはないが、それでも地球の運命がかかっているんだから仕方ない。
だがいくらバニラの機嫌が直っても、肝心のスカウトがうまくいかなければどうしようもない。
焦りが募るが、その時俺達の目に一人の少女の姿が映った。
その少女は濃いメイクに派手な服を着ていて、いかにも遊んでいるギャルと言った感じだ。
誰もが魔獣を恐れ逃げ出す中、その少女は自ら魔獣のいる方に向かって駆けていく。そして一定の距離まで近寄ると、スマホを取りだしなんと自撮りを始めた。
「やった、リアル魔獣の写真ゲット。インスタにあーげよっと」
あまりに場違いな行動に、俺とバニラはれポカンとしながら様子を見る。
「なあ、あの子はどう思う?」
「うーん、とりあえず魔獣を恐れない度胸はポイント高いニャ。一応話をしてみるかニャ」
非常識な行動が気にはなるが、どうせ彼女以外はみんな逃げ出して周りにほとんど人はいないんだ。この際贅沢は言ってられない。
若干の不安を感じながら、まずはバニラが話かけてみる。
「ちょっとお話いいかニャ?」
「えっ何?しゃべる猫?チョーウケる」
パシャパシャパシャパシャパシャ
「あっ、そんなに何度も写真撮らないでほしいニャ。話を聞いてほしいニャ」
「話?なになに?」
この子に目をつけたのは失敗だったかも知れない。嫌な予感をひしひしと感じながら、それでも一応事情を話すことにする。
「君に魔法少女になって魔獣と戦ってほしいニャ」
「えーっ。なんで私がわざわざそんなことしなきゃいけないの?意味わかんな~い」
ダメか。なんだか腹の立つ言い方だが、行きなりこんな事言われても快く引き受けてくれるわけがない。それでもなんとかしようと説得を続けるが、なかなかうまくはいかなかった。
「だいたい~魔獣と戦うって事は、テレビでやってるアマゾネスみたいな事やらなきゃいけないんでしょ~。素手でボコって血塗れになるってやつ。そんなの女の子としてありえなくな~い?」
「違うニャ。アマゾネスも確かに魔法少女だけど、あれには色々と事情があるんだニャ」
まずいな。茉理の戦い方が凄惨すぎたせいで魔法少女がなんたるかを誤解してしまっている。本当ならもっとファンシーなはずなのに。
しかしこんな彼女だが、これでも初めてまともに話を聞いてくれた人だ。ここはもう少しだけ粘ってみようと、俺もバニラの援護にまわる。
「先代が例外なだけで、君はあそこまで暴力的なことをやらなきゃいけないわけじゃないんだ。もちろん血飛沫に染まることもない。なんとか引き受けてくれないか?」
「だから~何度言われてもダメなもんはダメで~、ん…んん?」
彼女はそこで言葉を切ると、まじまじと俺を見つめてきた。穴の空くような視線を向けられ何だか居心地が悪い。いったいどうしたと言うのだろう。
「君、よく見れば結構イケメンじゃん」
「は?」
イケメンと言われて悪い気はしないが、あまりに唐突すぎて嬉しさよりも困惑の方が勝る。
「えーっ、浩平くんがイケメン?そんなこと無いニャ」
こらバニラ、俺だって自惚れるつもりはないが、だからと言ってそこまでハッキリ否定されると悲しいぞ。
だがそんな文句を言う余裕は次の彼女のセリフを聞いた瞬間に無くなってしまった。
「そうだ、君がデートしてくれるなら魔法少女になってもいいよ」
「なっ!?」
いきなり何を言い出すんだこの子は。会って間もない相手にデートを申し込むなんて。だがそれを聞いたバニラが即座に頷いた。
「ホントかニャ。それくらいならお安いご用だニャ」
「おいっ!」
もちろん俺はやるなんて一言も言っていない。だが二人は当人の意思を全く無視したままさらに話を進めていく。
「門限は8時、キスまでならOKニャ」
「えーっ、それだけ?オールナイトで×××までじゃなきゃヤダ」
「うーん、それじゃ仕方ないニャ。早速セルフレイディングに性描写有りを追加するニャ」
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
黙って聞いていられるのはそれまでだった。声を張り上げた俺は勢いそのままにバニラを掴み上げると、一目散にその場を後にした。
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