第166話 前哨戦

ルーディアを出発して5日、俺たちはルーディアとドロキアの中間地点であるアロハという街へと到着していた。


「ニジナ、宿を探しててくれるか」

「いいけど、ジンタはどうするのよ」

「俺は情報収集だ、さっきから同業者の匂いがする連中がウロウロしてるからな、どんなモンスターを連れてるか偵察だ」

と言うのは建前で、俺の姓的欲求を解消してくれる素敵なエロいモンスターを探したいだけである。



俺は単独行動がしたかったのだが、なぜかユキが付いてきた。

「ユキもニジナと一緒に行ってもよかったのだぞ」

「そうするとジンタ一人だから可哀想」


うむ……そう思ってくれるのは嬉しいのだが、今回は一人で思う存分にエロいモードになりたかったのだけどな……


まあ、それ以上ユキを煙たがるのも変なので、そのまま二人で街をウロウロする。すると街の中心にある大きな広場で、ドロキアの闘技会に参加するであろう、モンスターを連れた集団に遭遇する。


「ジンタ、むさいのがいっぱいいるね」

「ユキ、あまり大きな声で言うと聞こえるぞ」

と注意したもののちょっと遅かったのか、近くの冒険者に聞こえたようで絡んでくる。

「おい、誰がむさくて臭いやつだって! 喧嘩売ってんのかテメー」

俺は何も言ってないいし、臭いとは誰も言ってないが、暇で相手にして欲しいのかそう言ってくる。

「すまない、この子も別に悪気があっていったわけじゃないんだ」

そう俺がフォローしたのだけど、ユキはさらに畳み掛ける。

「むさいのは間違いないけど、臭いかどうかは確認したくないから近づくな、おっさん」

「なんだと、クソガキ! 痛い目にあいたいのか!」


「ユキ、失礼だろ! いやいや、全然臭くないですよ、ですからここは穏便に」

何をそんなに敵意むき出しにしてるかわからないけど、ユキはファイティングポーズをとって、いつでもやってやんよ的なノリでおっさんを睨んでいる。

「チッ、ガキの面倒くらいちゃんと見とけ!」

流石に子供と殴り合いする気は無かったのか、そんな捨て台詞を吐いて離れていく。


「どうしたユキ、何そんなに怒ってんだよ」

「……あれ、酷い……」

ユキがあれと言って見たのは、鎖に繋がれ奴隷のように扱われているモンスターの姿であった……どうやら不当な扱いを受けている魔物の姿を見て腹が立ってたようだ。

「ジンタはあんなこと絶対しない」

確かに俺は鎖や鞭を使ったプレイなどには興味がないが、相手がそう望むなら吝かではなく、それに付き合うくらいの度量はある。まあ、それはあくまでもプレイの話で、普段からシュラやユキをあんな風に扱うって考えたらゾッとする。


残念なことに、そこに集まっていた多くの冒険者がモンスターを同じように扱っていて、確かに見ていて気持ちのいい感じはしない。そんな連中なので気性が悪いようで、安易に予測できるが当然のごとく揉め事が始まった。


「なんだとテメー! 俺の可愛いオガっちゃんのどこが弱そうだって言うんだ!」

「テメーこそ、俺のグリくんをひ弱そうだとよくも言えたな!」

恐らくだが、オガっちゃんとはあそこに突っ立ってるオーガのことで、グリくんとは、ウーウーと周りの冒険者を威嚇しているグリズリーベアのことだと思われる。


「ぞれじゃ、どっちが強えか決めようじゃねえか!」

「おう! 望むところだ!」


そう言ってオガっちゃんとグリくんは、多くの冒険者たちが見守る中、広場の中心で激突した。


どちも中級クラスのモンスターで力は拮抗している、攻防は白熱した展開を見せていた。周りの冒険者たちはそんな戦いを見て、野次を飛ばしたり、応援したりと盛り上がりを見せていた。


「雑魚同士の戦いで、私より目立ってんじゃないわよ!」

周りの冒険者たちも声を止めるような大きな声で、オガっちゃんとグリくんのマスターのそう叫んだのは青い長い髪の女テイマーであった。ちなみに不必要に露出度の高い格好をしている美人ではあるが、完全なヒューマンなので俺のナニはなにしない。


「雑魚って誰のことだこの野郎!」

野郎ではないと思うが、グリくんのマスターは興奮してそう叫んだ。

「おうおう、姉ちゃん、どこの誰だか知らねえけど、随分上からモノを言ってくれるな」

オガっちゃんによほどの自信があるのだろう、鼻息荒くそう息巻いている。


「ふふふっ……あなたたちより遥かに上の存在だから仕方ないわ、なんならここでそれを証明してあげましょうか」

「上等だ! テメーから先にぶっ飛ばしてやるよ!」

「なめんなよ! ひん剥いて自慢のその体をもっとよく見えるようにしてやるぜ!」

オガっちゃんとグリくんのマスターは、戦いを中止して、女テイマーにターゲットを変更した。


女テイマーは軽く首を横に振りなにやら合図を送っる──それに応えたのは後ろに控えていた大きな白い狼だった。


ドスドスと突進してくるオガっちゃんとグリくんに、神速と言えるほどの速さで白い狼は向かっていく、そして一閃──恐らく牙の攻撃だと思うのだが、見えないほどの一撃で、オガっちゃんとグリくんを同時に倒した。


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