第165話 ドロキアへ
「それじゃ、行ってくる」
一応、旅路に出るということで、何人かのギルドの仲間が見送ってくれる。キネアは俺の言葉など無視して同行するニジナに声をかける。
「ニジナ、いろいろ気をつけてよ」
「大丈夫だよ、キネア、ドロキアの道中は整備されてるし、モンスターポータルも少ないから危険もないよ」
「そこはそんな心配はしてないけどね──まあ、あまり変なアプローチして失敗しないでってことだよ」
「何よそれ……」
キネアには無視されたが、持つべきは男友達、ロッキンガンはちゃんと俺に話しかけてきた。
「おい、ジンタ、ドロキアの名物は干し肉らしいな」
「そうなのか、だったら鱈腹食ってくるかな」
「……そうじゃねえだろ、おみやげに買ってくるよの一言も言えねえのかよ」
「馬鹿野郎! 名物ってのはその地で食うからいいんじゃないか、買ってきたものに意味などない!」
「意味なんていらねんだよ! 俺が欲しいのは美味い干し肉だ!」
「勇者酒場の干し肉定食で我慢しろ」
「チッ……ケチくさい奴だな……」
ロッキンガンのたわ言は無視するとして、見送りの中に珍しくダメマスの姿があった、普段はそんな気の利いたことをするタイプではないのだが……
「ジンタ、これを持っていくといいよ」
ルキアは俺に小さな袋差し出した。
「なんだ、お金か?」
冗談で言ったつもりであるが、ルキアはそれを肯定した。
「よくわかったね、ギルドから少ないけど旅費だよ」
「ほほう、それは珍しいこともあるな、どうした、レアアイテムでも拾ってきたか」
「すごいね、ジンタ、どうしてわかるんだよ。この間、ヴァルダたちといったダンジョンで、すごい値打ち物の剣が手に入ってね、捨て値で売っても1億ゴルドくらいにはなりそうなんだ」
まじか……それも冗談だったのだが……てか、今、とんでもない値段言わなかったか!
「1億! 1億の臨時収入があった割には、袋が小さくないか!」
「何言ってるんだよ、みんなに少しづつ還元したら一人当たりはそんなもんだろ」
確かにそうかも知れんが……貰えるだけでもいいとするか。
ニジナが付いてくる理由は今だにわからんが、兎にも角にも俺たちはドロキアに出発した。もちろん徒歩での移動なのだが、歩きやすい街道が続くので、それほど苦ではないだろう。そう俺は思っていたが、全員の気持ちは一緒ではなかった。
「どうして歩きなの、馬車を使おうよ」
「どこでそんな贅沢覚えたんだゴスロリヴァンパイア」
「ヴァンパイアじゃないって言ってるでしょ! それにゴスロリって何なのよ!」
「知らん! ニュアンスだ!」
堂々と言い切る俺の勢いには勝てないようで、カーミラは押し黙る。
「別にカーミラに同意するわけじゃないけど、どうして馬車を使わないの、ギルドから旅費貰ったんでしょ?」
ニジナが大人な感じで聞いたきたが、こいつは本当に何もわかっとらん。俺は堂々と歩く理由を教えてやった。
「健康の為だ」
「何よそのおっさん臭い理由!」
そんな風にガヤガヤと話しながら街道を歩いていると、一台の馬車が後方から近づいてきた。その馬車は俺たちの隣まで来ると、その速度を弱め、乗っていた一人の男が話しかけてきた。
「おい、お前達もドロキアの闘技会に参加するのか?」
馬車から声をかけてきたのは二十代くらいの若い男で、どこかヘラヘラとこっちをバカにした感じが目に見えていた。
「そうだけど、それが何か面白いのか」
俺がそう言い返すと、男はヘラヘラの度合いを強め、こう言ってくる。
「へへへっ……なんかモンスターばかり引き連れてるから、もしかしてと思ったが、そんな貧弱そうなメスばかりじゃ予選も通るのは難しそうだな」
「…………そんな言い方するくらいだから、お前も闘技会に参加するのか」
「へへへっ……当たり前よ、参加するというより、優勝しに行くんだがな」
頭の痛い奴だな──あまり相手にしない方がいいだろう。
「何、俺の自慢のモンスターを知りたいだと、仕方ねえな、一人だけ紹介してやるよ」
俺は何も言っていないのだが、男は勝手に自慢の戦力を紹介し始めた。
「ほら、コイツはダブルヘッドトロールだ。二つ頭のトロールなんて見たことねえだろ! パワーも耐久力も普通のトロールの二倍で、超絶ナイスな奴なんだぜ!」
強そうかどうかはわからないけど、二つ頭のトロールは馬車にギュウギュウに詰められて乗せられており、すごく狭苦しそうだ……
「へぇ〜すごいな〜とても勝てそうにないや〜できれば対戦することがないといいな〜」
その男に無感情でそう言うと、男は満足したのか満面の笑みで自分の名を名乗った。
「俺はアデバだ、ハイ・サモナーのアデバだ。まあ、俺と当たらないことを祈っててやるよ、それじゃードロキアで縁があったらまた会おう」
優勝を狙っていると言うくらいだから最低でも四次職くらいかと思ったが三次職かよ……そのように偉そうに考えている俺は二次職なので人の事は言えないけどな。
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