第167話 マスターテイマー

圧倒的な強さを見せた女テイマーを、周りの冒険者たちは拍手と称賛で讃える。それを両手を上げて笑顔で応える。


「さすがは魅眼のティフェンだな、オーガとグリズリーベアもそんなにレベルは低くないだろうに」

「まあ、相手が悪ぜ、ティフェンは五次職まじかとも言われてるマスターテイマーだからな」


俺は前で観戦していた冒険者たちの会話が気になったので、ちょっと話を聞いてみた。

「ティフェンって有名なのか」

「うん、有名ね……まあ、そうだな、知る人ぞ知るってところかな、テイマーだと五次職、テイマーエンペラーのジュアロンが圧倒的に有名だからな、奴の陰に隠れてティフェンの知名度はそれほどでもない」


無知の俺でもジュアロンの名は聞いたことある、確かソロプレイでアブロ火山の火龍を倒した人だ。


「誰が誰の影に隠れているですって!」

俺たちの会話が聞こえたのか、ネタにされたティフェンが少し怒った感じで近づいてくる。

「い……いや、俺は何も言ってない、こ……こいつだ! こいつが言ってたんだ」

さっきまでペラペラ話をしていた冒険者は完全にビビったようでオドオドとそう言うと逃げるように何処かへ行った。


「あなた、ジュアロンの名前を私の前で出すなんていい度胸してるわね」

「いや、一言も俺はそんな名前出してないぞ」

俺は正直にそう言うが、なぜかティフェンはちょっと怒り出す。

「嘘言いなさい! ちゃんと聞こえたんですからね、いい、私とジュアロンの差は、ほんの少しの運の差だけなの! 本当よ、運なのよ、運、アイツはやることなすことただ目立ってるだけなの、なぜか運よく注目されてるだけなんだって! 私ももう少しで五次職だし、実績でも実力では負けてるつもりはないわ!」

うわ……この人、ジュアロンの陰に隠れてるってのすげー気にしてる見たいだ……厄介だからあまり関わり合いにならないでおこう。


「なるほど、理解した、ジュアロンとティフェンの実力は拮抗しているんだね、あっ、いけない! 友人と待ち合わせだった! それでは失礼します!」

そう言って立ち去ろうとしたのだが、腕をガシッと掴まれ引き止められる。

「何よその言い方! 全然納得してないでしょ! いい、本当に運なんだから、ちょっとこれからそれを説明するから付き合いなさいよ!」

「いや……友人と待ち合わせで……」

「うるさい! 奢ってあげるから来なさい!」

そう言って強引に近くの酒場へと連れてこられた──


「とりあえずアイス30個」

ユキは酒場のテーブルにつくなりそう注文する。

「……当たり前のようにすごい量を注文したこのお子様は誰?」

「ユキジョロウのユキだ」

「……あんたテイマーなの?」

「いや、召喚士だ」

「召喚士……てことはこの子は召喚モンスターってこと? どうして常時召喚なんてしてるのよ、普通は召喚石に入れとくもんでしょ」

「本人が嫌がるから仕方ない」

「召喚士が召喚モンスターの気を使ってるの? 変わってるわね、あなた」

「いや、変わっているのは俺以外の全てだ」

「…………まあ、いいわ、それより、いかに私とジュアロンの差がほんの少しの運だってことを説明しないといけないわね」

「いや……それは十分わかったって……」

「何言ってんのよ全然わかってないしょ! いい、そもそも私とジュアロンは同じギルドの同期で……」

と、ティフェンの長い説明が始まる……まあ、彼女の話を要約すると、そもそも同じギルドで同じように成長していったのだが、なぜか注目されるのはジュアロンだけで、それに納得できなかった彼女はギルドを脱退、フリーになって活動していたのだけど、それでも目立つのはジュアロンで、もはや意味不明なのでこれは運としか言いようがないと結論付けたといった感じの話なのだが、どうして運という理由になるのか理解はできてない……それを指摘するとまた面倒臭いことになりそうなのでスルーするけどね。

「運だな、確かに運だ、間違いない」

早く話を終わりたいので俺は彼女の納得するような感じで相槌をうつ。

「でしょ! ねえ、言った通りでしょ! そうなのよ、ほんの少しの運なのよ! そうか、わかってくれたか、じゃあ、次は運とはいかなるものなのかって説明に入るね」

嘘だろ……まだ話続くのかよ……普通はここで納得して終わるだろうよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る