こぼれ話 ユキのペット6

ギルドパルミラの本部の一室──


連行された俺はどうやらここで尋問をうけるようだ。サブマスのエミュリタが痛々しい鞭をパチパチやっている。

「どうしてこんな事になっているか、わかるよなジンタ」

「まったくわからないぞ……」

「反省もしていないとは……」

そう言ってエミュリタは、鞭を高く振り上げた。

「ちょっと、待ってよ、エミュリタ、せめてジンタに弁解の機会をあげて」

さすがにニジナにそう懇願されれば無視もできず、俺の悪行がいかなるものか説明し始めた。


「ジンタ、お前がユキに何をしたかみんな知っている。自らの支配下の召喚モンスターであっても、あんな年端もいかないユキにあんなことをするとは……恥を知りなさい!」

「ジンタ……ユキちゃんになにしたのよ……」

「なっ! 俺は何もしとらんぞ」

「しらばっくれるな! ユキ本人が涙ながらに、ジンタにいたずらされたと訴えてきたのだぞ」

正確にはユキの言葉は『ジンタに意地悪された』なのだが、すでに事実は捻じ曲げられているようだ。

「いたずらって……ユキにそんなことするわけないだろ」

「悪いことをした奴は皆そういうのだ……さぁ、観念して己の罪を償うがいい」

そう言ってエミュリタは鞭を振り上げようとした。しかし、それを連行された俺を心配して付いてきたミケイロが止めに入る。

「待たれよ! 聞いておれば勝手なことばかり言いよって……我が友がやっていないと言っているではないか! そこまで言うのなら証拠をだすのだ証拠を!」

「ミケイロ……お前……」

成り行きで友達になったミケイロだが、無条件で俺を庇う姿を見るとなにか熱い物を感じる。


「いいだろう。それではユキ本人に証言してもらおう」

そう言うと、エミュリタは勇者酒場にいるユキを、キネアとルルナを迎えにいかせた。

歩いて五分の勇者酒場である、十五分ほどでユキを連れてきた。そこには勇者酒場で待ち合わせをしていたシュラの姿もある。

「なかなか待ち合わせにこないと思ったら……ジンタ、そんなとこで縛られて何してんだ。ユキなら勇者酒場のアイスを全滅させて、山盛り冷麺を食べてるとこを発見したぞ」

シュラは俺の姿を見てそう言ってきた。

「ほら、ユキ、ジンタにどんな酷いことをされたか言ってやれ」

勇者酒場のアイスを全滅させ、大盛り冷麺を食べて満腹になったユキは機嫌が直っているのか、エミュリタの問いに頷くと、こう言い出した。

「ユキが連れて帰ってきた牛太郎を、飼っちゃダメってジンタに意地悪言われた」

その場にいる全員が一瞬で静まり返る。ユキが何を言っているのか理解できなかったのか、エミュリタは無表情で動きが止まる。そして少しの時間をおいて、エミュリタが発した言葉はこうである。

「え……と……牛太郎とはなんだ」

「この子だよ」

ユキは自らの衣服の中にしまい込んでいた牛太郎をだしてみんなに見せた。しかし、一番反応したのはエミュリタたちではなく、やはり元の飼い主であるミケイロであった。

「シュナイダーランダブルキング‼ おっ……無事であったかシュナイダーランダブルキング!」

そう言いながユキから牛太郎を取り上げようとする。もちろんユキは大事なペットを奪われるのを良しとはしない。


「この子は牛太郎だよ。そんな変な名前じゃない」

「何を言うのだ。そいつはシュナイダーランダブルキングだ」

その展開に、ギルドパルミラの女性陣たちは状況を把握できないようだ。ただ、どうやら俺の悪行とやらが誤解だったとは理解したみたいだ。黙って俺の縄を解き始めた。

「まあ、ジンタがそんなことをする奴ではないと思っていたがな……」

「そ……そうね、私も信じてたわよ、もちろん……」

エミュリタやキネアの言葉に、俺は白い目で見つめることで返事とした。


ユキには、ミケイロが牛太郎の本当の飼い主で、手違いで捨ててしまったと説明した。もちろんユキは納得するわけもなく抵抗する。

「でも……牛太郎もユキと一緒がいいって言ってる……」

得体のしれないモンスターは無表情でユキに抱かれている。喜んでいるのかどうかもわからないので、ユキの方がいいと言ってるとも思えない……

「牛太郎は他人のだからダメだけど、違うペットなら飼っていいから今回は我慢しなさい」

そう説得すると、ユキは渋々、牛太郎をミケイロに返した。


「我が友よ……名残惜しいが今日はこの辺で家に帰ることにする。門限があるからな」

下半身フンドシ一丁で歩き回れるような神経なのに門限はきちっと守るんだ──そんなどうでもいいことを考えながら、何の未練もなくミケイロを送り返した。


ユキはミケイロに抱かれた牛太郎を物欲しそうに見つめている。そんな様子なのでしばらく落ち込んじゃうかなと心配したが、そんな危惧などどこへやら……シュラを連れて、すぐに新しいペットを探しに出かけて行った。


俺を性犯罪者扱いしたギルドの女性陣たちだが、流石に悪いことをしたと思ったのか、しばらくは飯を奢ってくれたり、優しく接してくれるようになったので、まあ、良しとしよう。

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