こぼれ話 ユキのペット5
さすがにニジナがこの家に嫁ぐことになっても可愛そうなので助けてやることにした。
「お母さん。あの娘を嫁に取るのは止めた方がいいです」
「ジンタさん、それはどうしてですか」
「あの娘は以前の冒険で呪いにかかってしまいまして……」
「まあ! それはどんな呪いなのですか」
「はい──伝説貧乳煉獄という呪いで、呪いにかかっている自分はもちろんのこと、近づくすべての女性も貧乳にしてしまう……そんな恐ろしい呪いです」
「まあ……それは酷い……」
ミケイロの母ちゃんは豊満な自分の胸を抑えながらニジナから少し離れる。
「見て下さい、この貧乳を! 呪いにかかる前はそれはもう立派な胸だったのにこのありさまです──ぐっふ!」
そう言いかけのところを、俺の脇腹にニジナの殺人級肘鉄が炸裂する。
「痛いではないか……」
「誰が伝説貧乳煉獄よ!」
小声だがしっかりした声でニジナはそう言ってくる。俺も小声で返事する。
「ここは話を合わせろ……このままここの嫁になっていいのか?」
「うっ……それは嫌だけど……」
「まあ、悪いようにはしないから」
そう説得すると、母ちゃんに話し始めた。
「それでお母さん。実に言い難いのですがその呪いの影響がすでに出始めてるかもしれません……ご自分の胸を見て下さい……さきほどより少し小さくなっておりませんか?」
もちろんそんなことはないのだが、素直なお母さんはすごく不安そうな顔で自分の胸を見た。
「ど……どうすればよいのですか、呪いを解く方法は……」
「はい……一つだけ呪いを退ける方法があると言われてます」
「それはどうするのですか」
「醜い生き物を飼うのです。それは醜ければ醜いほど効果があります」
「なんと……」
丁度良いので、シュナイダーなんたらの件の解決するネタにさせてもらうことにした。まさに一石二鳥とはこういうことを言うのだろう。
それを聞いたミケイロの母ちゃんも、シュナイダーなんたらのことを思い出したのかミケイロにこう言った。
「ミケイロ! あなた、あのモンスターはどうしましたか? 昨日捨ててくるように言った……」
「母君に言われてすぐに捨てましたが……」
「すぐに連れ戻してきなさい」
「は……はい」
よし。説得完了。まあ、説得と言うよりは詐欺に近いけど──
「さすがは我が友、ジンタだ。あれほど見事に母君を説得するとは」
「あれのどこが説得なのよ。おかげで私は伝説貧乳煉獄って意味不明の呪いにされたし」
「まあ、結果良ければすべてよしだ」
ミケイロの母ちゃんの説得に成功した俺たちは、シュラとの待ち合わせである勇者酒場へと向かった。
「ジンタがいたぞ!」
勇者酒場に到着した瞬間、聞き覚えのある大きな声でそう叫ばれた。俺はその声の主を見る。
「なんだよ、リュカー、大きな声だして……俺に用か?」
「なに涼しい顔で歩いているこの獣が! お前の悪行はすでに皆に知れ渡っているぞ!」
「悪行ってなんだよ」
「とぼけるな! 成敗してくれる!」
リュカーはそう叫びながら顔面に渾身の拳を叩きこんできた。もちろん前衛職のリュカーに、召喚士の俺が体術で対抗できるわけもなく、その拳は見事に顔面にヒットした。
「ぐわっあ!」
「ちょっとリュカー、いくらジンタ相手でもそれは酷いわよ」
珍しくニジナが俺を擁護する。もう一人の同行者も、どうやら俺の味方のようだ。
「そこの娘よ! 我が友を殴るとはどういう了見だ!」
「ふん。そいつは殴られてもしかたないことをしでかしたんだよ」
「何したのよ、ジンタ」
「いててっ……何もしてねえよ──たぶん……」
ニジナの言葉に強く否定できないのが辛い……しかし、最近、そんな悪さをした記憶がないのも確かである。
「とりえずこっちきなさい、ジンタ!」
わらわらと集まってきたギルドパルミラの女性陣によって俺は連行される。ニジナがまずは話を聞いてと抵抗していたが、多勢に無勢である、それを止めることはできなかった。
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