こぼれ話 ユキのペット4

ミケイロの家は、ルーディアでも地価の高いお金持ちが住んでいる地区の一角にあった。


「うわ……大きい家……」

ニジナが単純な感想を口にする。俺はミケイロが調子に乗るといけないのであえて褒めないことにする。

「まあ、そうだな、大きな家と言えば大きいが、俺の実家よりは少し小さいかな」

「なに、ジンタの実家ってここより大きな家なの?」

「まあ……そうだな。大きいと言うか……広いぞ……」

家の裏山の土地もいれたらだけどな……まあ、嘘は言っていないぞ。


「我が友よ、さぁ、入ってくれたまえ」

ミケイロはそう言って家の中へと案内してくれた。

「お坊ちゃま‼」

家に入ると、すぐに黒服の男たちがそう言ってミケイロを取り囲む。そしてちゃんとしたズボンをはかされていた。そういえばこいつ、フンドシ一丁だったな……


「どうして外出する度にお召し物を捨ててくるんですか! もういい大人なのですから考えて下さい」

そう黒服の男に言われて、

「うむ……しかたないだろう。外にでると開放的になるのだ」

「開放的になっても、ダメなものはダメです!」

「わかったよ。こんどから気を付けるから」

「まあ、それよりそちらはお客様ですか」

黒服は俺とニジナを見てそう言った。

「よくぞ聞いたぞ、ゼバスティアン! こちらは私の友達のジンタだ!」

それを聞いた黒服一同が驚愕の声を上げる。

「坊ちゃんの友達ですと! それは何かの間違いでは……」

「間違いではないぞ! 正真正銘、私の友達だ」

ミケイロがそう高らかに宣言すると、周りで見守っていたメイドたちもが騒ぎ出した。

「ぼ……坊ちゃんが友達をつれてきた!」

「早く奥様に知らせないと!」

「いや、早まるな! また、何かの勘違いかもしれない」

「そうね……前は『世界の人々はみんな友達です』と布教していた変な宗教の宣教師を友達と言って連れてきたし……」

「とりあえず、お茶とお菓子を用意するんだ!」

友達が訪ねてきたということだけで、屋敷全体がざわめき始める。


「ミケイロ……本当に友達いなかったんだな……」

俺がしみじみとそう言うと、何の屈託もない明るい表情で答える。

「友達はいなかったが、私に金をたかる取り巻きはたくさんいたぞ!」

何の自慢にもならないぞそれは……


「それより早く母君に会ってくれ、私は初めての友達を紹介したくてしかたないのだよ」

確かにさっさっとミケイロの母ちゃんに話をして用事を済ませたい。

ミケイロは俺たちを二階へと案内する。豪華な螺旋階段を上ると、大きな広間へと通された。


「ジンタ、ここで待っていてくれ」

そう言ってミケイロは豪華な扉の部屋をノックして声をかけた。

「母君、ミケイロです。よろしいですか」

すると中から声が聞こえてきた。

「入りなさい」

ミケイロは少し緊張した表情で扉を開いた。

大きな机に座っているのは眼鏡をかけた金髪の綺麗な女性であった。変態のミケイロの母ちゃんとは思えないような常識人のように見える。

「そちらは誰ですか」

ミケイロの母ちゃんは俺とニジナを見るとそう声をかけてきた。

「母君、こちらは私の友達のジンタです!」

それを聞いたミケイロの母ちゃんは、こちらを細い目で見て、俺にこう声をかけてきた。

「あなたがジンタさんね。私はあなたをミケイロの友達とまだ認めたわけではありませんよ。一つ質問をするから答えなさい」

「母君、そんな我が友を試すような……」

「ミケイロ、あなたは黙っていなさい。いいですね、ジンタさん」

うむ……別に俺は無理に友達にならなくても困らないのだが……ここは素直に返事をすることにした。

「はあ……何を答えればいいんですか」

「私を見てどう思いますか」

──はぁ? 何を意図して聞いているのか理解できないが……無難にわかりやすいお世辞を言ってみる。

「綺麗で魅力的で……とてもミケイロの母親には見えないくらい若々しい方だと──」

「合格です! ミケイロをよろしく頼みますよ、ジンタさん」

「さすが我が友だ! 母君の難問を難なくクリアーするとは!」

いや……ミケイロ。たぶんお前の母ちゃん、ちょろいぞ……


「それでそちらの女性は……まさかミケイロ! 友達だけではなく、初の彼女も連れてきたのですか!」

母ちゃんはニジナを見てそう言ってきた。ミケイロは否定するかと思ったが、ここで信じられない言葉を口にする。

「はい。その通りです母君」

その言葉にニジナは力強く反論する。

「違います! 私はジンタの……」

そう言いかけて言葉が止まる。

「ジンタさんの何ですか」

「ジンタの冒険者仲間です……」

「わかりました。ジンタさんの冒険者仲間で、ミケイロの彼女ですね」

「ですから彼女じゃありません!」

ニジナのその言葉を聞いて、ミケイロの母ちゃんの動きが止まる。そして驚きの表情を浮かべると、こう言ってきた。

「そ……そんな……彼女じゃないってことは……すでにミケイロとそんな関係で……婚約者とでも言いたいのですか! ミケイロ‼ 説明しなさい! あなたはこの娘さんと添い遂げる覚悟があるのですか!」

「も……もちろんその覚悟はあります母君……」

たぶんだがミケイロは母ちゃんの言っていることを理解していないと思う……

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