第140話 モンスターポータル

「神々って……神がどうしてモンスターが湧き出るような物騒なもん、そこら中に設置してるんだよ」


素朴な疑問に、エルフィナスが答える。

「必要だからじゃ、この世界の構造を知らぬのか?」

「もちろん知らないぞ」

俺が堂々とそう言うと、面倒臭そうな顔をしながら語り始める。

「この世界を神々が作ったのは流石に知っているじゃろ──神々はこの世界を作るとき──」

そう話し始めたエルフィナスを、何故かニジナが制止する。

「ちょっとエルフィナス! それってあれだよね、言っちゃダメとか言われてたりしないよね! それを忘れて今、話そうとしてるとか、そんなバカなことだったりしない? そうだったら後で怒られるよね!」

ニジナに力強く言われて、少し考えたエルフィナスは何かを思い出したようでこう話す。

「うむ──そうじゃった……ラミュシャ様に言っちゃダメって言われていたような気がする……なので忘れてくれ」


「そこまで言ったら気になるわ!」

俺とキネアとロッキンガンの声がハモる。

「そもそもモンスターポータルなんて、何百年も研究がされているのに何もわかってない謎の物体でしょ、壊せないし、動かせないし……そんな専門の研究者でも知らないような話、あなたはどうして知ってるのよ」

キネアがエルフィナスを問い詰める。

「困ったの……話したくてウズウズしておるが、言ったら怒られるしのう……」

「怒られるんだったらやめときなさいって!」

エルフィナスの迷いをニジナが一喝する。それにしても、ニジナの奴、必死だな……そんなに姉ちゃんが怒られるのが嫌なのかな──


「モンスターが出てくるの、世界の中の悪い物を溜めない為だって、お母さんが言ってた」


エルフィナスが怒られるのを躊躇して、世界の大きな仕組みを話すか悩んでいる時、意外な人物からその答えが語られ始めた……

「え!? ユキ、そうなのか?」

「うん、お母さんは嘘つかないから、本当だよ」


「エルフィナス、お前が話そうとしていたのはそう言うことか?」

そう聞くと、エルフィナスは少し悩んでからこう話し始めた。

「確かに、その、雪ん子が言ってることは正しいのじゃが……まあ、怒られるのを覚悟で話をしてやろう」


エルフィナスが覚悟してそう言うと、ニジナが顔を引きつらせて頭を抱えた。そんな妹の悲痛な気持ちを無視するように姉が話し始めた。


「この世界は膨大なエネルギーを核として存在しておる、その核のエネルギーは創造のエネルギーで、言わば光エネルギーじゃ、世界を形成する為に、光エネルギーは常に神々によって作られているのだが、光を生み出すと、それと同等の闇のエネルギーが生まれてしまう──闇エネルギーは破壊のエネルギーで、大きくなると、世界を破壊してしまうのじゃ」


「へぇー、神のくせに、仕事が雑だな。闇エネルギーなんて生まれないように光エネルギーだけ作ればいいのに」

俺の正論なツッコミに、エルフィナスが頭を左右に振りながらこう話を続ける。

「神とて万能ではないのじゃ、万物の理には逆らえぬ」

「まあ、そうだな、あの女神が万能だなんて、夢にも思わないからな」

「女神……ラミュシャ様は万能でなくとも、素晴らしいお方だ」


エルフィナスの女神に対する崇拝感は同意できないが、話が脱線しそうなのでここはスルーする。

「エネルギーの話はわかったけどよ、それとモンスターポータルはどんな関係があるんだよ」

ロッキンガンが話を進めようとそう言う。

「そうだな、モンスターポータルは、世界の核に闇エネルギーを溜めない為に、定期的にそれを放出している門なのじゃ、闇エネルギーはモンスターとして形を成し、地上で冒険者に処理される、そんなサイクルができておる」


「そうか、冒険者の加護は、そんなモンスターの処理を容易にできるようにって神の意志か……」

キネアの言葉に、冒険者一同、納得する。


「ユキはモンスターだけど、そんな門じゃなくて、お母さんから生まれたよ」

ユキは自分の存在が破壊エネルギーなんてものからできてないと言いたいのか、自らの出生を主張する。

「ちなみに私も母ちゃんから生まれてるからな」

シュラは、ユキのような考えはないのだろうが、流れ的にそう言っただけのようだ。


「ちょっと気になったんだけど、その話を秘密にする理由ってなんなんだ、もったいぶってるだけか?」

俺の質問に、エルフィナスではなくニジナが答える。

「ジンタ、悪知恵は働くのに、本当に悪いことは考えられないよね……いい、モンスターポータルの構造や法則が解析されたら、それを悪用する者が現れるかもしれないでしょ」

「悪用ってなんだよ、モンスターが出てくるだけだろ」

「あのね、その気になれば意図的にイノーマス・パニックを超える災害を引き起こすことだってできるんだよ。魔神クラスの魔物が、何百万体もワラワラ出てきたら、大陸が崩壊しちゃうよ」


「ぬ……それは困るな……」

「だから少しの情報も漏れないように秘密になってるの、まあ、モンスターポータルには、神々の強力な結界が張られてるから、人の力でどうこうできるものじゃないけどね」


「なるほどな……で、そんなすごい秘密を、どうしてニジナも知っているのだ?」

「え! あっ……前にエルフィナスに聞いたのよ」

「何を言っておるのだ、ニジナは……」


ニジナの言葉に、エルフィナスが何か言おうとしたが、妹の鋭い肘鉄にそれを阻まれた。まあ、姉妹の争いに興味はないので、そこはそっとしておこう。




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