第139話 遺跡
魔獣を倒した俺たちは、メリューカの森をさらに奥へと進んでいた─
「それにしてもマリフィル、お前、あんなに強かったんだな」
俺がそう褒めると、マリフィルは嬉しいのか、モジモジと豊満なボディーをくねらせて喜んでいる。
「……ユキも強いよ」
対抗心に火がついたのか、単に他人が褒められたのが気に入らないのか、ユキが自分も褒めろと言わんばかりに主張する。
「そうだな、さっきの魔獣戦、ユキの絶対零度が決め手だったな」
まあ、一斉攻撃でどれが有効打だったのかなのど判断できないけど──ユキはその言葉に、きめて、きめて、と連呼して喜んでるから良しとする。
しばらく代わり映えのしない森の中を進んでいたが、木々が少なくなっていき、やや広い空間へと出た。そこには、見るからに古いだろっと主張するような石造りの朽ちた建造物があった。
「ここが遺跡か……」
テリスの妹が行方不明になったのが、この遺跡辺りらしいけど、周りには森が広がるだけで、他にめぼしい場所はなさそうだ、恐らく高い確率でこの遺跡内にいるのではないかと思われる。
「さて、どうする?」
キネアが他人事のようにそう聞いてくる。
「入るしかないんじゃない?」
「まあ、遺跡の中がやっぱり一番怪しいからな、入らないわけにはいかないだろ」
「街の人間にさっき聞いたんだけどよう、この遺跡、入口はそれほど大きくないけど、中はかなり広いらしいぞ」
珍しくロッキンガンが情報を収集していたようで、そう言う。
「仕方ない、面倒臭いけど、中に入るしかないな……」
遺跡の入り口で、膝を丸めて震えているテリスの妹を見つけて保護して街に戻るといったイージーな展開を期待していたが、ちょっとした冒険をしないといけないようだ。
一応、遺跡に行くと言うことで多少の用意はしてきていた。ランタンなど灯の準備をすると、俺たちは遺跡の中へと進んだ。
遺跡の中は暗く、ランタンや、ニジナのライトの魔法が届かない場所は、暗くて何も見えない。
「キネア、何か感じないか」
レンジャーのキネアには、生き物の気配を察知する、クリーチャーサーチのスキルを使ってもらっていた。これは魔物だけではなく、人の気配も感知できるので、テリスの妹が居れば見つけられそうだ。
「半径50メートル内には、小動物の反応くらいしかないわね」
キネアの言葉に、俺は面倒臭そうにこう言う。
「だとすると、もっと奥に行かないとダメだな……」
ロッキンガンの情報通り、遺跡の中は広かった──二時間ほど遺跡内をウロウロ進んで調べていたが、人どころか魔物の気配さえ見つけることができなかった。クリーチャーサーチの効果を考えると、かなりの範囲を調べたことになるが、まだまだ調べられていない箇所をあるようで、さらに奥へと進んでいく。
「おかしいわね……」
キネアが不意にそう呟く。
「どうした? お腹でも痛くなったか?」
俺が気を利かせて小声でそう言ったのだが、何を気に入らないのか怒りながら否定する。
「痛くなってないわよ! それより、この遺跡おかしいと思わない?」
「何がだ? 暗くて静かで、どこにでもあるダンジョンのようだけど」
「そう、どこにでもあるダンジョンなのに、どこのダンジョンにもあるものが無いのよ」
「あっ! そうか、ここにきてまだモンスターポータルを見てないわね」
キネアのわかりにくいヒントに、ニジナが気がつきそう言った。
「確かにそうだな……こんな魔物の巣窟に相応しい場所に、モンスターポータルが無いなんて不自然だな」
ロッキンガンもそれに同意する。
「別にあんなの無くてもおかしくないだろ、たまたまじゃないのか」
モンスターポータルがこの世界に存在する理由は誰も知らない──しかし、モンスターポータルについては、専門の研究者も多く、その機能や傾向などはかなり調べられていた。
「いいか、ジンタ、無知なお前に説明してやろう。モンスターポータルは人の生活する環境から離れれば離れるほど、存在する確率が上がる、また、ダンジョンや洞窟など、地上の光を遮断する環境であればあるほど存在する確率がさらに上がる。それを考えれば、この遺跡の環境で、モンスターポータルが存在しない方が不自然ってもんなんだよ」
ロッキンガンでも知っているくらいだから常識なんだろうが、俺には初耳の内容だった。
「なるほどな、わかったけど、そもそも誰があんなものそこら中に置きまくってんのかね」
答えを求めているわけでもなかったが、意外なところから返答が返ってくる。
「そんなの神々に決まっているではないか」
当たり前のようにそう言ったエルフィナスに、みんなの視線が集まった。
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