第138話 魔獣の襲撃

「キネア、ちゃんと周りの気配探って、危険を知らせるのだぞ」

「五月蝿いわね、言われなくてもやってるわよ」

俺の気の利いた言葉を、キネアは雑に返す。


俺たちは、キネアのレンジャースキルである、危険感知を展開しながら、不穏な空気のする森を、警戒しながら進んでいく。


「ジンタ……ちょっといいか……」

森を進む中、珍しく何かに怯えた顔でシュラがそう話しかけてきた。

「なんだシュラ、お腹空いたのか?」

そう言葉を返すと、食いしん坊のユキが聞いてもないのに返事をする。

「ユキ、お腹空いたよ……お弁当まだ?」

「うむ……弁当はもう少し待ちなさい、森を抜けたら昼飯だからな」

俺がそう言うと、ユキは嬉しそうにニジナに抱きつきにいった。


「それでどうしたんだ、シュラ」

シュラはいつもと違う重い雰囲気でこう話す。

「どうも嫌な感じがするんだよ……これ以上進まない方がいいんじゃねえかな……」

「なんだそれは、野生の勘か?」

「私はケモミミだが、野生で育ったことはないぞ」

まあ、そうか、見た目はアレだが、シュラはこれでも村の村長の娘で、ある意味お嬢様だった。


「なんとも言えない感じなんだよ……怖いような……寂しいような……でも……少し懐かしいような……」

「なんだよそれ……」


「キネア、どう、何か変わった気配とかあるの?」

俺とシュラの会話を聞いていたニジナが、気を利かせてキネアに確認する。

「どうかな……今のとこ、何も感じないけど……いや……ちょっと待って……何か強い気配が近づいてきてる……」


キネアの言葉に、俺たちは周りを警戒する。

「強い気配ってなんだよ、キネア!」

「わかんないわよ、でもかなり危険な存在よ」


レンジャーの危険感知を疑うわけではないが、森の異常な静けさは変わりない。今、ここに危険が迫っているとは思えないが……


「いや……その娘の言うことは本当じゃ、中々の戦闘力の魔物が近づいておる……ただ気配を消すのが上手い奴のようじゃな……」

真剣な表情でエルフィナスが言う。五次職の彼女がそんな表情で真面目に言うとなると嘘じゃないようだ。

「ニジナさん! 下がってください!」

マリフィルが警告の叫び声をあげると同時に、ニジナが立っている場所の近くの大きな木がなぎ倒されて、そいつが姿を現した。


「メリューカの魔獣じゃな……しかし……二つ首とは初めて見るのう……」

二つの頭を持つ、巨大な狼のような姿を見て、エルフィナスが呟く。どうやらこのお姉ちゃん、空気は読めるようで、真剣に対処する時は真面目になるようである。


魔獣はブルブルと体を震わすと、唸り声を上げて、俺たちに向かって突っ込んできた。


それにシュラが反応する──高く跳躍すると、魔獣の頭の一つに強烈な回し蹴りを打ちかます。カウンター気味に入ったその一撃は、魔獣の体をクラっと大きく揺らす。


「アイシクルランス!」

魔獣の動きが一瞬止まったのを見て、ユキが氷結魔法を放つ──無数の氷の槍が、魔獣の体に突き刺さる。


「よし、やったか!」

全身に氷の槍が突き刺さったのを見て、俺は勝利を確信してそう叫んだ。だが、エルフィナスがそれを否定する。

「あれくらいでは魔獣は倒れはせぬ、魔獣の戦闘力は上級竜種並みじゃ」


その言葉は嘘ではなかった、魔獣が体を軽く震わせると、突き刺さった氷の槍は全て剥がれ落ちる。そして何もなかったように俺たちを睨んできた。


「ジンタ……やばい……あの魔獣……レベル100超えてるわよ……」

レンジャースキルのステータスサーチで確認したのか、キネアがすごい形相でそう報告してくる。レベル100となると、以前戦ったブラックドラゴンよりかなり上だ、はっきり言って二次職の俺たちに勝てる相手ではない。


さて、逃げるかと全思考がそう判断したが、魔獣はそんなことはお構いなしに、二つの頭を振り回せながら襲ってきた。


「うわっうわっ──!」

レベル100超えと聞いて体が萎縮した俺は、情けなくあたふたする事しかできなかった。


そんな凶悪な魔獣の突進を止めたのは、意外な人物だった。


「マリフィル!」

見るとマリフィルが魔獣の前に立ちはだかり、片手を魔獣に向けてかざしている。マリフィルと魔獣の間の空間に、青白い障壁がバチバチと見え隠れしていのを見ると、彼女が何かの技で魔獣の突進を止めたようだ。


「こう見えても私──亜種ですが、上級竜種の端くれですので……」

そうか、彼女は進化して、上級竜種のヴイーブルになったんだった。彼女は、普段あまり主張しないタイプなので、そんなことも忘れていた。


「よし、今だ、マリフィルが魔獣を止めてる隙に、みんなで一斉攻撃!」


俺たちは反撃してこない者への攻撃には容赦がない、これでもかってくらいの全力攻撃で、魔獣を灰へと変えた。

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