第119話 理性と知性と本能の間

ラビットゴージャスたちは脱衣所に来ると、躊躇なくその少ない衣服を脱ぎ始めた。美しい乳房に、プリッと引き締まったお尻──男だというので、もちろんその証拠となるものを探すが、その形跡すら見つけられない……


騙された……どう見ても完全に女ではないか……キネアの奴……元おっさんと温泉に入るのを嫌がって、嘘つきやがったな──


元おっさんでなければ、これ以上ない幸せな空間だが、俺の精神は絶妙なバランスで、興奮と嫌悪の狭間を揺れ動いていた。


ゴージャスたちが俺の周りに集まってくる──どうやら体を洗ってくれるようだ。

「ジンタさん、私たちが体を洗います──綺麗にしてあげますね」

「いや、大丈夫だ。自分で洗う」

「そんなこと言わずに任せてください」


そういうと、ゴージャスたちは強引に俺の体に群がり始めた。ダメだ、何かダメだ、このままでは何かを失ってしまう……そんな恐怖が俺の心を駆け巡る。


しかし、体は正直なものである。柔らかく、すべすべで、吸い付くような滑らかなは肌が、俺の体に触れると、明らかに体の一部分が変化を見せていく。さらにゴージャスたちは、その豊満な胸で俺の体を洗い始めた──これには流石に興奮の天秤が大きく傾いた。


だけど、心の奥底では今だに、元おっさんだった時の面影が見え隠れして俺に猛烈なブレーキをかける。

「ちょ……ちょっと待て、誰だ、変なとこ触ってる奴は!」

ゴージャスたちは注意するが聞こうともしない──このままでは何かがヤバイと思い、がむしゃらに逃げ出した。


ゴージャスたちは入口側に布陣していたので、逃げ道は湯船のある奥だけであった。あまり深くは考えずに、俺はそっちに向かって走り出した。


焦ると何をしでかすかわからないもんである。必死に逃げる俺は、目の前の壁を登り始めた。その先が何かなど考えもせず……


「きゃー!! ジンタ! なに覗いてるのよ!」

ニジナの悲鳴に近い怒号が聞こえる。そう、俺は壁を乗り越えて女湯にやってきていた。

「すまん! 後で謝るから匿ってくれ!」

「なにわけわからないこと言ってるのよ!」


女湯の方に降り立った俺は、体を洗っているキネアを見つけて叫んだ。

「キネア! お前騙したな!」

「なによ人聞きの悪い、別に騙してないわよ」

「なに言ってるんだ! どう見てもゴージャスたちは女じゃねえか!」

「ふん……ジンタもまだまだね──見た目が女だからって、女性とは限らないのよ」

「──そうなのか?」


「そうよ──それより、どさくさに紛れて、私の裸を無料で見ようとは思ってないでしょうね」

「別に見たくもねえよ、そんなの」

「……そんなのって……この魅惑のボディを目の前によくそんなこと言えるわね、この美乳を見て、なんとも思わないの?」

「興味ない」

その言葉は心の底から出る本音なのだが、キネアにはそれが納得できないようで、しつこく迫ってきた。

「ちょっと! 興味がないわけないでしょう! ほらっ、ちょっとくらいなら触らせてあげるから、ちゃんと見なさいよ」

「やめろって──」


そのやりとりにはなぜかニジナが怒って割り込んでくる。

「キネア! なにしてんのよ! ジンタも変なことしてないで、さっさと出て行きなさいよ!」


まあ、確かに女湯にこのままいるのも流石にアレなので、俺も外に出ることを考えていると、男湯との壁をゴージャスたちが登ってきて、こちらにやってきているとこだった。


「ジンタさん! 恩返しをさせてください!」

「わわわっ……」

そんなゴージャスたちの登場に、女性陣も流石に少し引いている。

「シュラ、助けてくれ! お前ならゴージャスたちの相手ができるだろう!」

湯船で酒を飲んでいたシュラに、そう声をかける。

「いや……悪い、ジンタ。流石に元の姿を思い出しちゃって、私も無理だわ……」

女性には無差別に興奮するシュラが、まさかそんなことを言うとは……


「ユキ、どうにかしてくれ!」

混乱していたのか、俺はユキに助けを求めた。ユキは水風呂で優雅にアイスを食べながらこう答える。

「ジンタ、メスの乳、好きだから丁度いい」

「いや、メスかどうかも微妙なんだって!」


「ジンタさん!」

女湯に乗り込んできたゴージャスたちが、そう言いながら俺に群がる。

「恩返しはもういいから!」

そんな俺の言葉など聞かないで、局部を隠している腰のタオルを剥ぎ取ろうとする……一体なにがしたいんだよ──。


「やめなさい‼︎」


強烈な声が女湯に響く。その声の主は、顔を赤くしたニジナだった。

「女の子がそんなことしちゃダメだよ! そんなの剥ぎ取っちゃダメ!」


ニジナの言葉に、なぜか理解を示したゴージャスたちは、俺から手を引いた──


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