第117話 さよならよりありがとう

「う〜ん……──ふうー──……はぁー……」

「ジンタ、何、変な声で唸ってるんだよ」


元を知らなければ、完全にエロい目で見れるのだが……どうも調子が上がらない。

「ラビットゴージャスに進化したってことは、おじさんたちの正体はラビットビルダーだったのね」


キネアが、どうでもいい情報を声高らかに教えてくれる。おっさんの正体など正直どうでもいいのだ──俺はこれから元おっさんたちのことをどんな目で見ればいいかが重要なのだ……


ちなみにラビットビルダーはレアな獣人系モンスターらしく、高名な魔物学者によって、ラビットビルダーからラビットゴージャスへの進化が実証されたのは最近のことらしい。まあ、そんな難しい話はわからないけど、これでおっさんがトレジャーボックスから出てきたのが、それほど不思議なことではないことがわかった。トレジャーボックスからモンスターが湧くのは、モンスタートラップなどの罠があるので珍しいことではない……まあ、レアといわれているラビットビルダーが連続で出現したのは理由がよくわからないけど……


また、おっさんたちが自ら進化した理由もキネアが説明してくれる。さすがレンジャーだけあって、モンスターの知識は中々のものだ。


「モンスターには進化本能ってものがあるの──進化への匂いを嗅ぎつけ、それを全力で実行する……強い方がより生き残る確率が上がるのは当たり前のこと、強くなり、生き残る確率を上げる──よく考えれば、それは生物として、当たり前の行動かもしれないわね」


「なるほど──ここの鉱山に、自分たちの進化に必要な素材があることを、本能的に察知したってことか──だからあれだけ積極的に鉱山ダンジョンへ行きたがったんだな」


「そうなのか、お前たち」

シュラがラビットゴージャスに進化した元おっさんたちにそう声をかける。

「私たち、進化前の記憶が無いので……ちょっとわかりかねます」

そう……驚くことに、進化したおっさんたちは普通に会話ができるようになったのだ──しかもなぜか妙に行儀がいい。


「それより、これからどうするつもり──もう無理に私たちと行動を共にする必要はないようだけど……」

ニジナは、ラビットゴージャスの今後の身の振り方のことを言っているようだ。確かに今までと違い、はっきりした意思を感じるので、これからどうしたいか自分で判断するのが良いだろう。


ニジナの言葉に、元おっさんたちは円になって集まり、少しボソボソと話しをする。そして何か結論が出たのか、俺たちにこう言ってきた。


「できれば私たちはここで暮らして、鉱山の採掘をして生活をしたいと思います」

「別に進化したから、鉱山で採掘なんてしなくていいんじゃないのか?」

俺がそう言うと、元おっさん全員が首を横にふる。

「いえ、採掘に終わりはありません。いつまでも鉱石を掘っていたいのです」

「そうだわ、ラビットゴージャスの別名は穴掘り兎だった──」

「なんだそれは……」

キネアが思い出したように言った言葉に、さすがの俺も心底呆れる。


どうやらただ単純に採掘が好きなだけのモンスターなのがわかった。害も無さそうなので、村人たちが嫌でなければここで暮らすのも悪くないだろう──俺はすぐに副村長のルーパと交渉する。



「はい、もちろん採掘をしながらこの村に住むのは問題ありません……しかし、二つほど条件と言いますか……お願いがございます……」

「なんだ、条件って」


「はい……鉱山ダンジョンでの採掘した鉱石や宝石ですが……税金といいますか……なにせ──他に何もない村ですので、村の収入源にならないかと……」


どうやら採掘した物を、少し村にくれと言っているようだ。

「採掘した物を少し税金で納めろと言っているがいいか?」

元おっさんたちにそう確認する。

「私たちは採掘したいだけなので、構いませんよ」

なんと欲のない奴らだ。だが、このままだと全部村に上げてしまいそうなので、ここはこう提案してやった。

「それでは三分の一を村に納めると言うことでどうだ」

「はい、それで問題ございません」

元おっさんたちに金が必要かどうかはわからないけど、まあ、あって困るもんではないだろう。


「それではもう一つのお願いも聞こうか」

「それはマリフィルのことです……あんなこともございましたし、さすがに村で生活するのも辛かろうと……本人に話しを聞いたところ、どうやらあなたに付いていきたいと言っておりまして……」


なんだと! あの巨乳が俺の女になりたい……いや、一緒に来たいと……もちろん、そんなことを反対するはずもなく、こう返事をする。

「むむ……そうだな……そう言うことなら仕方がない……彼女は俺が引き取ろう」

なるべく嬉しい感情を隠してそう返事をした。

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