第116話 真価を見せて
最下層である、三階層まではそれほど時間がかからなかった。他のダンジョンに比べて、敵のエンカウントが少なく、単純な構造なのがその理由である。
「どの辺を掘ればいいのかな──」
「どこでもいいんじゃないかー、適当に掘ってみようぜ」
ニジナの問いに、俺が適当にそう答えると、誰かにガッシリと肩を掴まれた。振り向いてその意外な人物に驚く。
「おっさん──ど……どうした?」
俺がそう聞くと、チッチッと口を鳴らして、指を立てた手を横に振る。
「適当じゃダメだって言いたいのか?」
俺がそう聞くと、深く頷いた。
「──えーと、それじゃーどうすればいいのだ……」
そう言うと胸をドンと叩いて、任せろとでも言うようなジェスチャーをするおっさんたち──
おっさんたちは、鉱石の採掘により大きく掘られた横穴に入ると、何か音を聞いている──そして何かを見つけたのか、一心不乱にツルハシを振るい始めた。
「あそこに宝石があるってことなのか──」
シュラがボソッと言う。俺もそうだろうと期待して見ていたのだが、結果は少し違ったものだった──
「穴ぼこ空いたよー」
ユキの言うように、おっさんたちがツルハシでガシガシやっていた所に、大きな穴が開いた。ランタンで中を確認すると、おっさんたちはそこはゾロゾロと入っていく。
「ジンタ、どうする?」
「うむ……俺たちも行ってみるか……」
おっさんたちの開けた穴に入ると、そのあまりの光景に言葉を失う……そこは鉱石が光り輝く、幻想的な場所だった──
「すげー……なんだここは……」
「鉱石の大鉱脈よ……それも無数の種類の鉱脈が入り混じった桃源脈……伝承の中の作り話かと思ったけど……」
「なんだその桃源脈って」
「ジンタって本当に無知よね……桃源脈ってのは、有名な英雄譚に出てくる、あらゆる宝石、金属が採取できる鉱脈の名称で、英雄はそこから入手したアフィルコンって神の金属で伝説の剣を作ったって話があるのよ」
「なんだと──神の金属がここにあるのか?」
「いや──流石にアフィルコンがこんなとこにあるとは思わないけど……」
そんな話をニジナとしている間にも、おっさんやシュラたちは採掘を始めていた。
「おーい、ジンタ。色々出てきて楽しいぞー」
桃源脈からはいろんな原石や鉱石が採取できるようで、かなり楽しそうに掘り出していた。
「おっ、俺もちょっと採掘するかな」
そう言って参加しようとツルハシを持ったのだが、なぜかおっさんたちに止められた。
「なぜ止めるのだ? 俺も採掘したいぞ」
そう言うと、何やらジェスチャーで伝えてくる。
「なになに……今日の……採掘は……ここまで……これ以上採掘すると……鉱脈が崩れるって?」
「ちょっとジンタ──よくその身振り手振りでわかるわね……」
「まあ、なんとなく理解できた」
そうか、あまり欲張ってはダメなのだな──確かに鉱脈から辺な音が聞こえ始めている……ここはおっさんの言うとおりにした方がいいだろう──
採掘は一瞬だったが、かなりの収穫があった。宝石の原石も多数取れたし、鉱石もいくつか採掘できた。俺たちはそれを持って地上へと戻った。
「なんと……これを全部、あの鉱山ダンジョンから採掘してきたのか?」
地上で俺たちの帰りを待っていた副村長のルーパが、採掘してきたブツを見てそう感想を述べる。
「どれでも好きな宝石を選んでください」
ニジナが宝石の原石を見繕ってルーパに渡した。
「それではこれを村の秘宝にさせてもらおう」
そう言って選んだのは、前の秘宝に色も大きさも似ている青い宝石だった。それはラピスラズリという宝石で、魔力を含むことから、そこそこの価値があるものだった。明らかに前の村の秘宝である竜の涙より市場価値は高い。
「他は俺たちで貰うけど問題ないか」
後で文句言われないようにそう確認する。
「はい、もちろんあの鉱山ダンジョンは誰ものものでもないので、採掘した者に所有権があります──」
よし、臨時収入だ、これで旅費の心配はしなくて済むぞ。
「うそっーそんなに取れたの?」
宿に戻り、宴会中のキネアたちに収穫を見せると、素直に驚きの反応を示した。
「くっそー俺も行けばよかったな──」
「ふっ、先に言ったと思うが、ロッキンガンたちには分配は無しだからな」
「ジンタちゃ〜ん、そんなこと言わないでさぁ〜」
「気持ち悪い言い方してもダメだ」
「ちっ……ケチな奴だな──」
「まあ、今回の採掘では、おっさんたちのおかげってのがあるから、半分はおっさんたちにあげようと思っている」
「おっさんたちがそんなの欲しがるのか?」
ロッキンガンが言うのももっともだ、とりあえず、おっさんたちに聞いてみる。
「おっさんたち、この中で欲しいのはあるか?」
そう聞くと、おっさんたちは一人一個づつ宝石を選んだ。しかも選んだのはみんな同じ黄色い宝石で、それを大事に握った。
「それだけでいいのか?」
俺が聞くと、おっさんたちは深く頷いた。なんと欲のない連中なのだ……
しかし、本当の驚きはこれからだった──おっさんたちはその宝石を天に翳して、何かブツブツ言い始めた。
「どうしたのだ、おっさん?」
そう問いかけると、おっさんたちが強い光で輝き始めた……あれ──この光景、近々どこかで見たぞ……そう思ったのだが、その疑問の答えはニジナが答えてくれた。
「マリフィルの時と同じ光……」
「何!? てことはおっさんたちが進化するのか?」
おっさんの進化──そう考えて、想像した姿は、さらに一回り大きくなって、ゴツくなり、セクシーな下着を付けたおっさんたちだった……流石に気持ち悪くなり想像を振り払う。
全ての現実は、人の想像を上回る……それが俺の感想だった。進化したおっさんたちのその姿は、もはやおっさんと呼べるものではなかった……
「ら……ラビットゴージャス……」
進化したおっさんたちの姿を見て、キネアが感嘆の声を上げる。ラビットゴージャス──後で詳しく話を聞いたのだが、それは獣人系モンスターの最高峰の一つで、最強兎とも呼ばれているモンスターだった……しかし! 俺にとっては最強兎とかそんなことはどうでもいいことだ……進化後のおっさんたちを見て思うは一つ、むちゃくちゃエロいその姿であった。
あのごつかった体は何処へ……長身でスラリと無駄の無いボディーに、プリッと柔らかく、かつ硬そうな、そんな矛盾が現実化したようなお尻、その豊満な質量により、張りがあるのに、その重力に逆らうことができずに下へと垂れた胸……しかし、そんな女体の優れた部分より、俺が注目するのはやはり獣人としての機能の数々だろう──白く丸い、お尻からポロリと溢れ出したように存在する尻尾……頭に、これでもかと目立つ感じで伸びている大きな耳……前にダンジョンで出会ったうさ耳獣人も良かったが、それとは別次元の存在感を感じる……
だが! ──元はあのおっさんなんだよな……それだけが俺の心に大きな障壁を作っていた……
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