第113話 犯人とは利を求めるものである
祭壇周りを、キネアのサーチで探索すると、複数の気配が見つかった。この気配の中で、最近のものだけを抽出すると、やはり二人の気配が浮かび上がってくる。
「一つはマリフィルのもので、もう一つが犯人のもので間違いないわね」
キネアは真剣な表情でそう言う。確かにそれ以外は考えられないだろう。まさか犯人も、気配を察知できるレンジャーが事件の調査をするなんて考えてないだろうから、気配を消しておくなんて工作もしてないだろうし……
「それでどうなのだ、マリフィルじゃないもう一つの気配の手がかりとかわからないか」
「うーん……さっき会った時に、念の為にリベべの気配の感覚を調べたんだけど……どうもそれとは違うような気がするのよね」
「なんだと! それは困るぞ。あのリベべが犯人じゃないと、俺の気が収まらない」
「そんな私的な感情で理由で犯人を特定しない!」
ニジナにそう諌められるが、俺の気持ちは変わらない、絶対にリベべを犯人にする……いや、犯人のリベべを追い詰めるのだ。
「ちょっと待って……マリフィルじゃない気配だけど……形跡がどこかに続いている見たい……このまま追跡できるかも……」
「本当かキネア、それじゃー追跡しよう、多分リベべのとこに向かうことになると思うけどな」
「どうして、そうなるのよ……」
俺たちはキネアの追跡についていく──向かったのはなぜかリベべの家ではなく村外れの大きな家……
「ここは誰の家なのだ?」
マリフィルが説明する。
「ここはルーパさんの家です」
「ルーパって副村長の人だよね」
「ふっ──全てわかったぞ……さてはそのルーパとやら、トラブルを起こして村を混乱させ、その隙に村長の椅子を我が物にしようと画策したのだな!」
「犯人はリベべじゃないの?」
「ふっ──リベべは共犯だ」
「適当なことばっかり言ってるわね……」
「とりあえず本人に聞いてみましょうか」
ニジナが正論を言ってきた。俺たちは副村長のルーパを尋ねる。
「いらっしゃいませ、冒険者さま。青い宝石を盗んだ犯人はわかりましたか」
「うむ──そのことで少し聞きたいのだが……近々であなたが祭壇に出向いている証拠が出てきまして……どのような要件で祭壇に行ったのですか?」
「はぁ……それは青い宝石がなくなったと報告を受けて、その確認に行った時に出向いたことではないのですか?」
……そうか……確かに確認の為に、祭壇に行ったのなら辻褄が合う。
「ちょっと待ってください……そもそも青い宝石がなくなったことに誰が最初に気が付いたんですか?」
ニジナの問いに、ルーパは当然のようにこう答える。
「もちろん、祭壇の管理をしているマリフィルが最初に気が付いた。マリフィルに報告を受けて、ワシは祭壇に出向いて盗まれているのを確認したんじゃ」
キネアがその話に反応する。どうやら何か思いついたようだ。
「なるほど……その話が本当かどうか証明できればいいわけね……」
「そんなことできるのか?」
俺の問いに頷く。
「気配の特定は難しくても、どちらの気配が新しいかどうかはわかるわ──祭壇の気配は二つ……一つはマリフィルのものだから、あなたの話が本当ならマリフィルの気配より、もう一つの気配は新しいはず……」
「おぉーそれで犯人を特定できるではないかー」
それで確認する為に、ルーパを連れて祭壇へと戻った。そこで全てが解決するはずだ。後はルーパの共犯としてリベべを問いただすだけで……
だが、祭壇の気配を調べていたキネアの顔色が変わる……何か不測の事態が起こったのか?
「ルーパさんの証言に嘘はないわ……もう一つの気配は、マリフィルの気配より新しい……」
「なんだと! それでは犯人は誰なのだ?」
そう間抜けに俺が言った瞬間、ルーパの悲鳴が響きわたった──
「うぎゃっー‼︎」
すぐにルーパの方を見る……するとそこには信じられない光景が繰り広げられていた。ルーパがマリフィルによって殴り倒されていたのだ……
「マリフィル……何してるのだ?」
「まさかレンジャーがこのタイミングに村に来るとは……それは誤算でした……」
マリフィルは真剣な顔でそう話し始める。それを聞くニジナとキネアの表情が硬い。
「おい、ニジナ──何がどうなってるんだ?」
「バカなのあんた? マリフィルが犯人だったのよ……気配は二つしかったのよ……ルーパさんが犯人じゃないなら残る気配は一つしかないでしょう──全てこのドラゴンニュートの女が仕組んだ事だったのよ」
「いやいや──犯人はリベべのはずだぞ」
「だから変な私念を挟まない!」
「マリフィル……どうして……青い宝石を盗んだの?」
今にも戦闘が始まりそうな雰囲気の中、ニジナがマリフィルにそう聞いた。
「青い宝石のどういうものだったかわかりますか?」
マリフィルは逆に聞いてくる……ニジナはそれにすぐ答えた。
「だからそれは価値のない宝石で……」
「価値がない……それは需要が少ないという事です……ほとんどの人々に必要がないから誰も欲しがらない……誰も欲しがらないから価値が低い……ただそれだけのことです……濁りのある青い色は、宝石としても美しくなく、触媒としても限られた用途にしか使えない……しかし……そんなものでも、私には必要なものだった……青い宝石の真の名は竜の涙と言います……」
「竜の涙……まさかあなた!」
竜の涙という言葉に、キネアが何か気が付いたようだ──
「竜の涙はドラゴンニュートの秘宝です……そう……ドラゴンニュートが【進化】する為の重要なアイテムなのです……」
そういうとマリフィルは懐から二つの球体を取り出した。一つは青い宝石で、もう一つは赤い宝石だった。
「【進化】の為の経験値を貯めるのに数年もかかってしまった……やっと私は…………」
そう言いながらマリフィルは二つの球を天に掲げた──
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