第111話 事件は祭壇で起こった。

俺たちは、まずは事件のあった場所、盗まれた青い宝石が保管されていた祭壇へと向かった。


「思ったより小さな祭壇ね」

ニジナが言ったように、祭壇は小さな小屋のような作りで、大人が二人も入れば窮屈に感じるくらいの大きさであった。その小屋のような建物の中に、装飾の施された台座が置かれていて、その上に何かの生地で作られたクッションのようなものがあった。おそらくこの上に青い宝石が置かれていたようだ。


「ここに置いていた青い宝石がなくなったのね」

ニジナが確認するようにそういうと、祭壇へと案内してくれたマリフィルが意外な答えをする。

「いえ、青い宝石はそこには置かれていませんでした。大事なものなので、箱に入れて後ろの棚にしまってました」

「……それじゃ、このあからさまにここに置いてましたよな感じは何?」

「祭壇感を演出しています──」

マリフィルは自信満々にそういう。まあ、雰囲気というか、見た目というか、そんなのも大事だとは思うが……

「まあ、それはいいんだが、そうなると少し話が変わってくるぞ」

「どういうことですか?」

「そんな棚にしまってたのなら、部外者の人間が盗もうとするのは考えにくいだろう」

「まあ……それでは村人の誰かが……」

マリフィルは口を手で押さえてそういう。


「とにかく調べてみましょう。キネア、出番よ」

ニジナの言葉に、キネアがスキルを発動させる為に集中し始めた。キネアが使ったのは、レンジャーの定番スキルであるサーチであった。サーチは見えない痕跡も燻り出す。


「この棚の中に置かれていたのね……確かに、誰かがここを開けた古くない痕跡があるわ……気配は二つ……最低でも二人の人物がここを開いている」


一人は青い宝石がなくなったことに気がついたマリフィルだろう……そうなるともう一つの気配が犯人の……

「すごいですね──そんなことがわかるんですか」

キネアのスキルを見て、マリフィルが感心したようにそういう。

「キネア、誰の気配かわかるか?」

気がはやる俺がそう聞くと、キネアはさらに集中力を高めて確認する。

「そこにいるマリフィルの気配が強くてよく分からない……」

どうやら二人分の気配があるってことしかわからないようだ。年がら年中ここにいるマリフィルの気配が強いのは仕方ないことだな……やはりそう簡単に、犯人は分からないか……


「気配が二つってことは、マリフィル以外では、ここに近づいた者が一人しかいないってことだよね、聞き込みして目撃者がいないか聞いてみたらどうかな」

ニジナの提案に、俺も同意する。

「そうだな、祭壇は村の真ん中だし、目立つから、ここに誰か近づいたんなら目撃者がいてもおかしくないよな」


そういうことで、まずは祭壇近くで露店を開いているおばさんに話を聞いてみた。

「昨日、マリフィル以外で祭壇に誰か近づかなかったかって? どうだかの……確か夕どきにルーパさんがマリフィルと一緒に祭壇に行ったのは見たかの」

そのおばさんの話を聞いて、マリフィルがそれを説明する。

「青い宝石がなくなったのに気がついて、ルーパさんと一緒に祭壇に一度行きましたので、その時のことでしょう」


ルーパって昨日酒場に来た初老の人だよな──俺がそう疑問に思っていると、ニジナが代わりに聞いてくれた。

「ルーパさんって昨日、酒場に来てた人ですよね、村長さんか何かですか」

「いえ……村長はズムダと言いまして、今は病に伏せて家で寝たきりになっています。ルーパは副村長でして、村長のズムダが寝たきりなので村の政は今は彼が仕切っています」


マリフィルがそう説明してくれた。ルーパが祭壇に近づいたのはマリフィルも承知のことなので、彼を疑う理由はないだろう。俺たちは他の村人にさらに話を聞いた。


「そういえば昨日の朝、村長さんのとこのリベベが祭壇の周りでウロウロしていたな」


五、六人目の村人からの情報で、ようやくそれっぽい話を聞けた。

「リベベとは村長の孫で……確かに悪戯好きの子供ではありますけど……」

どうやら本命の容疑者が浮上したようだ。悪戯好きの子供が村の秘宝を隠す……あり得る話だ、俺も子供の頃ならそのレベルの悪戯はやりつくしてきた。


「とりあえず村長さんの家に行って、そのリベベって子に話を聞いてみましょ」

「そうだな、子供なら少し強く言えばすぐに自白するだろう」

「ジンタ、まだ犯人だと決まったわけじゃないわよ」

「決まったようなもんだ。悪ガキとはそんな生物だ」

「どんな生物よ」


村長の家は村の北側の丘の上にあった。小さな村の長の家なので、それほど大きな家ではないが、周りの他の家に比べると、少しだけ大きい。俺は玄関に足を進めると、扉をノックした。


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